上 下
29 / 40

いざ出陣!

しおりを挟む
「…それ本気で提案するんです?」
「私もそう言ったんですよ、兄様。でもそれしかないのではありませんか?」
「うーん…。」

後日、アルバート様を通じてカイル様をすずらんへと招いていた。
こっちが呼び出しているとはいえ、こんな簡単に来てくれるなんて王族であることを忘れそうになるわ。
王族って危機感ガバガバなんじゃないでしょうね…。

「お城の方で対応が進まないのは、そもそも人手が足りないからですよね?
 であれば、その人員を確保する目途がある程度立てば、話は進むのではありませんか?」
「物事はそう単純ではありませんよ。なにしろ依頼内容は魔獣退治。
 一般市民をかき集めたとしても太刀打ちできません。」
「えぇ。そこで魔獣退治に乗り出している冒険者たちに声をかけるのです!」

冒険者として身を立てている者であれば、武器の扱いに離れている人が多いでしょうし、
少なくとも一般の人よりは魔獣に対抗することができるはず。
この付近にどれだけの冒険者がいるかは分からないけど、やってみる価値はあると思うのよね。
問題は…。

「報酬をどこから出すか、ですかね。」
「そうなんです…。兵士の方々は国にお勤めですから、賃金に問題はないかと思うのですが。
 不特定多数の冒険者を、どのような形で雇えばいいのか…。」
「そこに関して、私が相談を受けていたのです。
 ある程度の金額を用意することは可能なのですが、
 あくまで私費なので1人1人にいき渡るように、となるとそこまでの金額になるか…。」
「ふむ…。」

何でも屋の活動は基本的に報酬を設定していない。
ましてや今回の依頼は既にお城に主導権が移ってしまっているから、私たちが干渉することは難しい。
お城での話し合いに関わっているカイル様に、何とか解決策をねじ込んでもらいたいところだけど…。

「…現状、国からの報酬金を期待することは難しいと思いますよ。
 ましてや参加する冒険者の人数が分からないとなると…。」
「お金を用意しようがない、ですよね…。」
「まぁ、必要になる冒険者の人数を逆算することはできますかね。
 派遣できる兵士の数を確定させて、それから補充したい人数を割り出せば…。
 正直な話、ある程度手練れな人間であれば何人でも欲しいところですがね。」

アハハと乾いた笑いで返す王子の目は笑っていない。
普段であれば腹黒い、少し信用ならない笑顔だなって思うところだけど…。
お疲れなのね。
実際のところ、実施する作戦の規模がはっきりしていないし、万が一に備えて人手もそろえておきたいわよね。
でも提案できるような形にするには、その方向でいくのがいいでしょうね。

「城の人間はできるだけ派遣する兵士の数を少なくしたいでしょうが…、
 まぁそこはうまく丸め込むしかないですね。
 もう少し時間がかかりそうですが、何とか会議に挙げてみましょう。」
「よろしくお願いします。」

ここから先はカイル様に任せるしかない。
…こんな状況だと、私たち市民は勝手よね。国の対応に好き勝手文句言っちゃってさ。
人から相談を受けて対応する側になって初めてわかったわ。
一つの相談を解決するために、いろんなことに気を回さなくちゃいけないんだもの。
それでも私たちは声を上げることを止めるわけにはいかない。

「…まぁそんなに心配なさらずに!
 アルの方から支援が受けられると言ったら、貴族連中も多少気楽に受け入れるでしょう。
 今回のことがうまくいけば、また新たな前例ができて面白いことになりそうです。」

…不安そうな顔でもしていたのかしら。
やけに明るい雰囲気で話しかけてくるカイル様に吹き出してしまう。
本当、本来だったら不敬罪で処罰されるところよ、私。

「報酬金の方は力になれないかもしれませんが、
 私たちの方でも何か協力できることがないか、知り合いにあたってみます。」
「ここまで活動をしてきたあなた方ですから、関わってきた人たちとの繋がりは確かなものです。
 信頼していますよ。…無理はしないように。」
「もちろんです。」

私たちには私たちなりの人脈がある。
皆自分たちの生活で大変な時だと思うけど、この依頼が達成できれば助かる人はたくさんいるはず。
そういった人たちに少しずつ協力してもらうことができれば、きっと魔獣退治はうまくいくわ!
さあ、こうしちゃいられない。私たちの戦いはもう始まっている!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

王命を忘れた恋

須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』  そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。  強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?  そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。

[完結]愛していたのは過去の事

シマ
恋愛
「婚約破棄ですか?もう、一年前に済んでおります」 私には婚約者がいました。政略的な親が決めた婚約でしたが、彼の事を愛していました。 そう、あの時までは 腐った心根の女の話は聞かないと言われて人を突き飛ばしておいて今更、結婚式の話とは 貴方、馬鹿ですか? 流行りの婚約破棄に乗ってみた。 短いです。

あれ?なんでこうなった?

志位斗 茂家波
ファンタジー
 ある日、正妃教育をしていたルミアナは、婚約者であった王子の堂々とした浮気の現場を見て、ここが前世でやった乙女ゲームの中であり、そして自分は悪役令嬢という立場にあることを思い出した。  …‥って、最終的に国外追放になるのはまぁいいとして、あの超屑王子が国王になったら、この国終わるよね?ならば、絶対に国外追放されないと!! そう意気込み、彼女は国外追放後も生きていけるように色々とやって、ついに婚約破棄を迎える・・・・はずだった。 ‥‥‥あれ?なんでこうなった?

(完結)私の夫は死にました(全3話)

青空一夏
恋愛
夫が新しく始める事業の資金を借りに出かけた直後に行方不明となり、市井の治安が悪い裏通りで夫が乗っていた馬車が発見される。おびただしい血痕があり、盗賊に襲われたのだろうと判断された。1年後に失踪宣告がなされ死んだものと見なされたが、多数の債権者が押し寄せる。 私は莫大な借金を背負い、給料が高いガラス工房の仕事についた。それでも返し切れず夜中は定食屋で調理補助の仕事まで始める。半年後過労で倒れた私に従兄弟が手を差し伸べてくれた。 ところがある日、夫とそっくりな男を見かけてしまい・・・・・・ R15ざまぁ。因果応報。ゆるふわ設定ご都合主義です。全3話。お話しの長さに偏りがあるかもしれません。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

義理姉がかわいそうと言われましても、私には関係の無い事です

渡辺 佐倉
恋愛
マーガレットは政略で伯爵家に嫁いだ。 愛の無い結婚であったがお互いに尊重し合って結婚生活をおくっていければいいと思っていたが、伯爵である夫はことあるごとに、離婚して実家である伯爵家に帰ってきているマーガレットにとっての義姉達を優先ばかりする。 そんな生活に耐えかねたマーガレットは… 結末は見方によって色々系だと思います。 なろうにも同じものを掲載しています。

【完結】7年待った婚約者に「年増とは結婚できない」と婚約破棄されましたが、結果的に若いツバメと縁が結ばれたので平気です

岡崎 剛柔
恋愛
「伯爵令嬢マリアンヌ・ランドルフ。今日この場にて、この僕――グルドン・シルフィードは君との婚約を破棄する。理由は君が25歳の年増になったからだ」  私は7年間も諸外国の旅行に行っていたグルドンにそう言われて婚約破棄された。  しかも貴族たちを大勢集めたパーティーの中で。  しかも私を年増呼ばわり。  はあ?  あなたが勝手に旅行に出て帰って来なかったから、私はこの年までずっと結婚できずにいたんですけど!  などと私の怒りが爆発しようだったとき、グルドンは新たな人間と婚約すると言い出した。  その新たな婚約者は何とタキシードを着た、6、7歳ぐらいの貴族子息で……。

処理中です...