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家出少年再び?
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お城へ人員調整の掛け合いが開始されてから、いったいどうなったのかというと…。
私の心配をよそに、事はとんとん拍子に進んでいった。
なぜか分からないが作戦に投入できる兵士の数がすぐに確定。
なぜか分からないが、人員の補充として冒険者へ呼びかけることも承認。
な、ぜ、か!分からないが、参加した冒険者への報酬金も国から出してもらえることに!
ここまで順調に進んでいると逆に心配になってくるというもので。
何か良からぬことをしたのかとカイル王子に確認したところ、
「いえいえ、皆さん快く納得してくださいまして」「はい、それはもう満場一致で」とのこと。
…これは深く聞いてはいけない内容のようね、把握。
「ともかく、魔獣退治の作戦内容としては当初依頼していた通り、
該当地域全体に展開する形で進んでよかったです。」
「そうですねぇ、依頼内容の核となる部分でもありましたから。」
「近日中に、正式に冒険者たちへの募集をかけることになりそうです。」
その言葉通り、魔獣退治のために冒険者を募っているとの情報は瞬く間に街へと広がっていった。
もともと賑わいのある街ではあるけれど、この話が皆の間で広まっていくと同時に、
街に集まってくる冒険者の数は日に日に増えていった。
もちろん、武器と防具を取り扱う我がすずらんも大変に繁盛し、目の回るような忙しさとなっていくのであった。
「ユ、ユイさん、お疲れ様…。」
「アレックス。あなたも大変だったでしょ、お疲れ様。」
骨つき肉からすずらんに顔を出すアレックスは、ここ毎日いつも以上に疲れたような笑みを張り付けている。
各地から集まってくる冒険者は、武器や防具屋だけでなく食事処にも押し寄せている状況なのだ。
元々人気店だった骨つき肉は、文字通り戦場と化しているようだ。
せめてもの救いは、料理を勉強するために各地を旅していた息子さんが戻ってきたことだろうか。
それでもまだまだ人では足りないと、店長さんは悲鳴を上げているが…。
「だーあのババア!人に何でも押し付けやがって…!」
「レ、レイ。どうしたんだよ…?」
「どうしたもこうしたもねーよ!クソババアが面倒事を押し付けてきやがるから…。」
「レイ?もしかしてと思うけど、ババアって師匠のことじゃないでしょうね?」
「…。」
「この恩知らず!失礼にもほどがあるわ!」
「待て待て、オレにも言い分はある!」
イライラを隠そうともしないでレイがやってきた。
レイは引き続き師匠の御用聞きを主に担ってもらっていたのだけど、
師匠の薬屋もこの冒険者たちが押し寄せる事態となっているようだった。
この街で一番の腕利きの薬屋とあれば、そりゃ確かに傷薬なんかを買い求めようとするだろう。
しかし、如何せん師匠は1人で切り盛りしているので対応できるお客さんの人数には限りはある。
そこでレイには手伝いをお願いすることになったのだけど、思った以上に激務だったようだ。
「何人客をさばこうがキリがねぇ…。」
「…大変だったみたいね。」
さすがの脳筋たちも堪えたのか、深い深いため息をついて机に伏してしまった。
ここまでの大人数が押し寄せると、何でも屋の活動は一旦休止せざるを得ない。
少なくとも、私もすずらんの元々の手伝いをするだけで精一杯なのが実際のところだ。
なぜなら…。
「…あいつ、また来なかったのか?」
「…うん。」
「ど、どこに行っちゃったんだよ、ウィル…。」
すずらんでずっと手伝いをしてくれていたウィルは、急に来なくなってしまったのだ。
いや、正確にはお父さんに休むことを伝えていたようなので、急ではない。急ではないのだが…。
活動を共にしていた私たちには何の連絡もなかった。
私はまだしも、故郷から一緒に旅をしてきた2人にも何の話もなかったのだそう。
一体何を考えているのよ…。
「…ま、あいつのことだ。そのうち戻るだろうよ。」
「…うん。」
「思った以上に堪えているみたいだな…。」
「ぼ、僕たちもちょっと…心配だよね。」
「…。」
疲れていることもあってか、部屋の中には少し重い雰囲気が漂っていた。
そんな中、ノックの音が響く。
そうだった!今日集まったのはお疲れ会をするためじゃないわ。
「はい!今開けます!」
「すみませんね。…皆さんお疲れのようで。」
「この人出ですからね…。普段であればお客さんがたくさんで嬉しいところなんですが。」
お迎えしたのは、お察しの通りカイル様とアルバート様。
この2人本当にここに馴染んでしまっているわね。
でもさすがのカイル様も、ここ数日はお城にこもりきり。
冒険者や作戦の立案にかかりきりだったとのこと。…少し顔色が優れない気もする。
「それで、今日話し合いたいことについてなのですが…。」
「あぁ、その前に。皆さんはウィルさんがどこで何をしているか、ご存じですか?」
「え…?」
「あいつがどこにいるのか、知ってるのか!」
「い、今どこに…?」
「まぁ落ち着いてください。…そうですか。その様子だとご存じないようですね。
我々は魔獣退治に参加ずる冒険者の受付を監督してもいるのですが、
その中にウィルさんの名前を見かけまして…。」
「私たちはあくまで参加者の帳簿に漏れがないかを確認しているので、
直接本人を確認したわけではないのですが少し気になって。
レイさんとアレックスさんの名前は見かけなかったので、気のせいかとも思ったのですが、その…。」
「ウィルの奴!何も言わずに行きやがったのか!」
「繰り返し言いますが、本人かは確認できていませんよ。」
「あいつには魔獣退治に参加する理由があるんだよ!」
「で、でもまさか1人でなんて…!」
一体何が起こっているのだろうか。
ウィルが魔獣退治に参加する?1人で?私たちに何の相談もなく?
いや、私は相談するに値しない、その程度の存在だったのかしら。でも2人は…。
どうしよう、何だか…、頭がうまく回らない。
ウィルは、私たちのところから離れて行ってしまったの?
私の心配をよそに、事はとんとん拍子に進んでいった。
なぜか分からないが作戦に投入できる兵士の数がすぐに確定。
なぜか分からないが、人員の補充として冒険者へ呼びかけることも承認。
な、ぜ、か!分からないが、参加した冒険者への報酬金も国から出してもらえることに!
ここまで順調に進んでいると逆に心配になってくるというもので。
何か良からぬことをしたのかとカイル王子に確認したところ、
「いえいえ、皆さん快く納得してくださいまして」「はい、それはもう満場一致で」とのこと。
…これは深く聞いてはいけない内容のようね、把握。
「ともかく、魔獣退治の作戦内容としては当初依頼していた通り、
該当地域全体に展開する形で進んでよかったです。」
「そうですねぇ、依頼内容の核となる部分でもありましたから。」
「近日中に、正式に冒険者たちへの募集をかけることになりそうです。」
その言葉通り、魔獣退治のために冒険者を募っているとの情報は瞬く間に街へと広がっていった。
もともと賑わいのある街ではあるけれど、この話が皆の間で広まっていくと同時に、
街に集まってくる冒険者の数は日に日に増えていった。
もちろん、武器と防具を取り扱う我がすずらんも大変に繁盛し、目の回るような忙しさとなっていくのであった。
「ユ、ユイさん、お疲れ様…。」
「アレックス。あなたも大変だったでしょ、お疲れ様。」
骨つき肉からすずらんに顔を出すアレックスは、ここ毎日いつも以上に疲れたような笑みを張り付けている。
各地から集まってくる冒険者は、武器や防具屋だけでなく食事処にも押し寄せている状況なのだ。
元々人気店だった骨つき肉は、文字通り戦場と化しているようだ。
せめてもの救いは、料理を勉強するために各地を旅していた息子さんが戻ってきたことだろうか。
それでもまだまだ人では足りないと、店長さんは悲鳴を上げているが…。
「だーあのババア!人に何でも押し付けやがって…!」
「レ、レイ。どうしたんだよ…?」
「どうしたもこうしたもねーよ!クソババアが面倒事を押し付けてきやがるから…。」
「レイ?もしかしてと思うけど、ババアって師匠のことじゃないでしょうね?」
「…。」
「この恩知らず!失礼にもほどがあるわ!」
「待て待て、オレにも言い分はある!」
イライラを隠そうともしないでレイがやってきた。
レイは引き続き師匠の御用聞きを主に担ってもらっていたのだけど、
師匠の薬屋もこの冒険者たちが押し寄せる事態となっているようだった。
この街で一番の腕利きの薬屋とあれば、そりゃ確かに傷薬なんかを買い求めようとするだろう。
しかし、如何せん師匠は1人で切り盛りしているので対応できるお客さんの人数には限りはある。
そこでレイには手伝いをお願いすることになったのだけど、思った以上に激務だったようだ。
「何人客をさばこうがキリがねぇ…。」
「…大変だったみたいね。」
さすがの脳筋たちも堪えたのか、深い深いため息をついて机に伏してしまった。
ここまでの大人数が押し寄せると、何でも屋の活動は一旦休止せざるを得ない。
少なくとも、私もすずらんの元々の手伝いをするだけで精一杯なのが実際のところだ。
なぜなら…。
「…あいつ、また来なかったのか?」
「…うん。」
「ど、どこに行っちゃったんだよ、ウィル…。」
すずらんでずっと手伝いをしてくれていたウィルは、急に来なくなってしまったのだ。
いや、正確にはお父さんに休むことを伝えていたようなので、急ではない。急ではないのだが…。
活動を共にしていた私たちには何の連絡もなかった。
私はまだしも、故郷から一緒に旅をしてきた2人にも何の話もなかったのだそう。
一体何を考えているのよ…。
「…ま、あいつのことだ。そのうち戻るだろうよ。」
「…うん。」
「思った以上に堪えているみたいだな…。」
「ぼ、僕たちもちょっと…心配だよね。」
「…。」
疲れていることもあってか、部屋の中には少し重い雰囲気が漂っていた。
そんな中、ノックの音が響く。
そうだった!今日集まったのはお疲れ会をするためじゃないわ。
「はい!今開けます!」
「すみませんね。…皆さんお疲れのようで。」
「この人出ですからね…。普段であればお客さんがたくさんで嬉しいところなんですが。」
お迎えしたのは、お察しの通りカイル様とアルバート様。
この2人本当にここに馴染んでしまっているわね。
でもさすがのカイル様も、ここ数日はお城にこもりきり。
冒険者や作戦の立案にかかりきりだったとのこと。…少し顔色が優れない気もする。
「それで、今日話し合いたいことについてなのですが…。」
「あぁ、その前に。皆さんはウィルさんがどこで何をしているか、ご存じですか?」
「え…?」
「あいつがどこにいるのか、知ってるのか!」
「い、今どこに…?」
「まぁ落ち着いてください。…そうですか。その様子だとご存じないようですね。
我々は魔獣退治に参加ずる冒険者の受付を監督してもいるのですが、
その中にウィルさんの名前を見かけまして…。」
「私たちはあくまで参加者の帳簿に漏れがないかを確認しているので、
直接本人を確認したわけではないのですが少し気になって。
レイさんとアレックスさんの名前は見かけなかったので、気のせいかとも思ったのですが、その…。」
「ウィルの奴!何も言わずに行きやがったのか!」
「繰り返し言いますが、本人かは確認できていませんよ。」
「あいつには魔獣退治に参加する理由があるんだよ!」
「で、でもまさか1人でなんて…!」
一体何が起こっているのだろうか。
ウィルが魔獣退治に参加する?1人で?私たちに何の相談もなく?
いや、私は相談するに値しない、その程度の存在だったのかしら。でも2人は…。
どうしよう、何だか…、頭がうまく回らない。
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