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以心伝心!

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笑顔でこっちを見つめてくる王子に内心ため息をつきつつ、頷いて席を立つ。
3人も一緒に王子の下へ来てくれた。

「…さて、様々な観点から仕分けすることが重要であることはご理解いただけたかと思いますが…。
 念のため、1つ実例を挙げてみましょう。」

全体に配った書類とは別に、王子は何やら紙を取り出した。
これは城に相談に来た人が、その相談内容を記入する書類だと王子が説明してくれる。

「…『うちの農道を整備してほしい』という内容の相談です。この相談、どう思われます?」
「どうと言われましても…。土木業者か何かに直接行っていただくべき内容かと思いますがね。」
「そうですなぁ。城の兵士が剣ではなく、つるはしを持つのはちょっとねぇ。」

いかにも、それはそうだ、と口々に笑い声とともに同意していくお偉いさん方。
何が面白いのよ。相談してきた人の気持ちも知らないで。
私はその相談内容に覚えがあった。

「…そうですねぇ。実際、この相談へは何の対応もされていません。
 しかし、この相談は後日また城へ持ち込まれることになるのです。」
「何ですと?」
「そうですね、ユイさん?説明をお願いします。」
「…その相談は、確かに私たちへも持ち込まれた内容のものです。
 相談された方は、土木業者にも国にも、相手にしてもらえずに私たちのところに藁にも縋る思いで来たと。
 そう仰られていました。」
「相手にしてもらえないなんて人聞きの悪い…。
 我々国は、この国を守り運営していくのが使命なのです。
 国民の言うことを何でも聞いて対応していては、民間の事業が潰れかねませんよ!」

何を偉そうに…!その業者に相手にしてもらえなかったって言っているのが、分からないって言うの?
…ここまで来たら、言いたいこと言ってやるわ。
3人をチラリとみると、私の気持ちを汲んでくれたのか頷いてくれた。
アレックスはいつものように困ったように笑っていたけど。
…ごめん、道連れね。

「お城でどのように相談を聞いているか知りませんが、
 ちょっと話を詳しく確認すれば民間業者の手に余る内容であることは、分かりましたけど?」
「何?」
「ユイさん、気にせず続けてください。」
「この相談、上辺だけ見ればただの道の整備依頼です。
 しかし!整備することになった原因は魔獣なのです。」
「魔獣?しかし、依頼書にはそんなこと…。」
「書かれていません。依頼内容をどのように書いたら分かりやすいかなんて、ほとんどの人は意識していません。
 自分の生活で最も困っている部分に注目しがちです。
 この方も、作物を出荷するための道が使えない、このままでは冬を越せないと、かなり焦っておられましたから。
 民間の土木業者の方は、この方のお話を伺った上で、
 原因となる魔獣が排除されない以上従業員へのリスクが高いと判断して、依頼を断っていたんです。
 …それを何ですか。あなたたちは話も聞かずに…。」
「我々を侮辱する気か!」
「落ち着いて下さい皆さん。ユイさん、あなたもです。
 私は恨み節をさせるためにここに呼んだわけではありません。お分かりですね?」
「…失礼しました。」

さすがに王子に止められてしまった。まだまだ言い足りないのに…!
まぁ仕方ないわ。お仕事の話だもの、気持ちを切り替えないと。

「…とはいえ、私たちでは魔獣を討伐することは難しいので、
 依頼内容を整理してお城へ再度依頼し直すことを提案させていただきました。」
「何です。結局は国頼りではありませんか、馬鹿馬鹿しい。」

フンと鼻息荒く返すおじさんに言い返したくなるが、その前に王子がため息をついた。

「国が国民の陳情に耳を傾けるのは、当然のことだと私は思いますがね。
 …ともかく、一旦下げられた依頼が魔獣討伐依頼となって戻ってきたわけです。
 そうなれば、国としては詳しく話を聞かないわけにはいきませんので、
 最終的には道の整備期間の護衛、となったわけですが。」

工事を断った業者も、警備がつくならばということで整備依頼を受けてくれたそうですよ、と王子が続ける。
依頼者方すれば、解決したい内容は変わっていないのに、
書き方1つでこんなに対応が変わってくるなんて、驚いたでしょうね。
何にせよ、無事に問題が解決して安心したのは確かだ。
大したことはできなかったのに、その依頼者さんからとても感謝されてお礼として農作物をたくさんいただいた。
工事に行った人たちも、工事している間の食事の面倒を見てくれたって喜んでた。
農家さんからしてみれば、出荷できずに腐らせるよりも食べてもらった方かいいってことなんでしょうけど。
物流が滞りがちで物価の高い今の街からしてみれば、嬉しい待遇よね。

「先に説明した通り、依頼の仕分けは画期的。
 危険性が高いか、緊急性があるか、国が兵士を派遣する内容かどうか。
 それが分かるだけでもかなり違ってくるでしょう。」
「しかし、この例を挙げて考えるとするならば、依頼書の書き方が問題だったのでは?
 依頼書がしっかり書かれてさえいれば、このような手間もかからなかったと思いますがね。」
「ではあなたは全国民に依頼書の書き方を指南すると?かなりの労力ですねぇ。
 都市部だけでなく地方もとなると…。
 いえむしろ農村の方が問題が山積しているでしょうから、そちらを優先するべき。
 国は優先順位に従って行動をしなければ、そうでしたね?」

いやはや各農村に指南役を派遣するとなると手間と時間が、何より魔獣と遭遇するリスクが…。
と頭を押さえて大げさに悩んで見せる。
お偉いさん方はちょっと引いてるし、王様に関してはもう無の表情をしているけど、良いのかしら…?

「まぁ、追々達成する目標としてはアリでしょうが、
 現状を打開するために、という流れからすれば現実的ではありませんね。
 というか、そういった他人任せで自らが変わろうとしない態度にこそ、
 国民が幻滅しているということになぜ気づかないのか、甚だ疑問ではありますが。」

さっき私の発言を止めた人とは思えない発言ですね、王子。
何を感じ取ったのかは分からないけど、王子は私ににっこりと笑いかけた。
…同類と思われたくはないけれど、さっきの発言は良かったと思います、王子。
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