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【クリスマス企画】宰相閣下は祝われまして。(中編)
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「プレゼント????」
サラとルーナ、ふたりの少女の声が重なる。
3人がいるのは、王立公園のカフェだ。セントクロスデーに合わせて期間限定スイーツが発売されていると聞いて、せっかくなら食べに行こうと約束をしていたのである。
こくりと頷いたフィアナに、サラとルーナは途端に色めきたった。
「セントクロスデーに贈る、愛の贈り物ね!!」
「エンジェルから氷の宰相に愛のギフト……! はわわわわ、また空から物語が降ってきそうです……!」
「あ、あの、そんな大層な話じゃないので!?」
さっそく思いっきりハードルをあげてきた二人を、フィアナは慌てて宥める。
ひとしきり騒いで二人が落ち着いたところで、フィアナは切り出した。
「一応、日常品というか、毎日使えるものをあげたいなと思っているんだけど、具体的には絞り込みできていないんです。それで、サラさんとルーナさんなら、最近の流行にも詳しいんじゃないかと思いまして」
サラもルーナも、いいところのお嬢さんにして年ごろの娘だ。ファッションにも小物にも、色々と敏感なはずである。
そんな二人のセンスを期待して相談してみることにしたのだが、サラとルーナはさっそく顔を見合わせて目をキラキラさせた。
「流行も何も」
「そんなの決まってますわ!」
「え!? もう答え出ちゃいます??」
てっきりあーだこーだ言い合うものだと思っていたフィアナは、そうそうに結論を導き出したらしい二人にびっくりする。
ぱちくりと瞬きするフィアナに、サラとルーナはぴしりと指を突きつけた。
「フィアナ!」
「フィアナ様!」
「プレゼントといえば、自分の色で相手を染めるの一択よ!(ですわ!)」
「……………はい????」
何を言われたのかさっぱりわからず、フィアナはきょとんと固まる。すると、サラはうっとりと、ルーナは興奮した様子で訴えた。
「ほら、よくあるじゃない~。恋愛小説のヒーローが、自分の瞳の色の宝石だったり、花だったりをヒロインに贈ったりするシーン!」
「えっと、あの、そうなんですか??」
「そうですよ!! その奥に潜むのは、自分の色でヒロインを染め上げたいという願い……! 自分の色を身に付けさせるのことで、彼女は自分のものだとアピールしているんです! 愛情と独占欲とが入り混じる、とっても色っぽいプレゼントなんですよ!!」
「ふぇ!? え、ムリ。ムリムリムリムリ、そういうのはムリ!!」
ふむふむと頷いていたフィアナであるが、ふと、自分にそれをやれと言われていることに気づき、全力で首を振る。
だが、乙女モードにスイッチの入った少女は無敵である。及び腰のフィアナに、二人はずいと身を乗り出した。
「無理って? 何が無理なの??」
「え!? いや、だって、恥ずかしくないですか……?」
「フィアナ様とエリアス様は王都中の女性たちのハートを射止めた、正義の最推しカップルなんですよ? 何を恥ずかしがることがありますか!」
「いーやー! やめてー! 思い出させないでー!」
耳を塞ぎ、フィアナは悶える。
ちなみにエリアスと共に初めて公式の場にフィアナが姿を見せた時、同年代の娘から素敵なマダムにいたるまで、いたるところで様々な女性に手を合わせて拝まれた。
あれはなんだったのだろうとずっと疑問に思っていたのだが、『氷の宰相×春のエンジェル見守り隊 ~推しカップルをみんなで愛でようの会』なるものが存在してること知ったのが、つい先日のこと。まさかそんなファンクラブがあると思わなかったフィアナは、大いに羞恥に震えた。
そんなフィアナに、さらにサラが追い討ちを掛ける。
「ていうか、フィアナだって思いっきりルーヴェルト様カラーを着てたじゃない。今更何が恥ずかしいっていうの」
「………え? 待ってまって、全く覚えがないんですが??」
覚えはない。ないのだが、嫌な予感ならする。怯えた目をするフィアナに、サラとルーナが容赦なくトドメをさす。
「ほら、この間の式典で着てきた、ルーヴェルト様に誕生日にもらったっていっていたドレス! え、気づいてなかったの?」
「ルーヴェルト様の髪色の同じ白銀から、瞳のお色と同じ薄水色への淡いグラデーション……。このうえなく見事なルーヴェルト様カラーの、パートナー概念ドレスでしたわ」
「……………」
式典に出た時、一部の女性陣――おそらく、ファンクラブの面々と思われる――にやたらとドレスを絶賛されたのは、そういうわけだったのか。そして、エリアス。あの人は確実に確信犯だ。そうに違いない。
言葉を無くし、フィアナはテーブルに突っ伏した。なんということだ。知らなかったとはいえ、自分がいかに夫に愛されているかを散々見せつけてまわったということか。そんなの恥ずかしすぎる。
完全に沈黙してしまったフィアナに、サラとルーナが顔を見合わせる。ややあって、代表してサラがフィアナの肩を軽く揺さぶった。
「ほら、元気出しなさいよ」
「フィアナ様、嫌になってしまいました? もうあのドレス、着たくなくなってしまいましたか?」
「………………着ますよ。せっかくもらいましたし、お気に入りですし」
たっぷり沈黙してから、フィアナは渋々答えた。悔しいので、顔はあげない。
そうだ。思い出の詰まった誕生日プレゼントだし、お気に入りだ。これからも着るのは、それが理由。――あれがエリアス色だと認識したことで、もっと愛着が湧いてしまっただなんて。そんなこと、絶対に絶対、秘密なのである。
それでも雰囲気で伝わってしまったのだろう。二人がにんまり笑う気配がある。そうやって、サラとルーナは意気揚々と提案した。
「というわけで。ルーヴェルト様へのプレゼントは、フィアナ(様)カラーのモノをお渡しするのが1番だわ(ですわ)!」
サラとルーナ、ふたりの少女の声が重なる。
3人がいるのは、王立公園のカフェだ。セントクロスデーに合わせて期間限定スイーツが発売されていると聞いて、せっかくなら食べに行こうと約束をしていたのである。
こくりと頷いたフィアナに、サラとルーナは途端に色めきたった。
「セントクロスデーに贈る、愛の贈り物ね!!」
「エンジェルから氷の宰相に愛のギフト……! はわわわわ、また空から物語が降ってきそうです……!」
「あ、あの、そんな大層な話じゃないので!?」
さっそく思いっきりハードルをあげてきた二人を、フィアナは慌てて宥める。
ひとしきり騒いで二人が落ち着いたところで、フィアナは切り出した。
「一応、日常品というか、毎日使えるものをあげたいなと思っているんだけど、具体的には絞り込みできていないんです。それで、サラさんとルーナさんなら、最近の流行にも詳しいんじゃないかと思いまして」
サラもルーナも、いいところのお嬢さんにして年ごろの娘だ。ファッションにも小物にも、色々と敏感なはずである。
そんな二人のセンスを期待して相談してみることにしたのだが、サラとルーナはさっそく顔を見合わせて目をキラキラさせた。
「流行も何も」
「そんなの決まってますわ!」
「え!? もう答え出ちゃいます??」
てっきりあーだこーだ言い合うものだと思っていたフィアナは、そうそうに結論を導き出したらしい二人にびっくりする。
ぱちくりと瞬きするフィアナに、サラとルーナはぴしりと指を突きつけた。
「フィアナ!」
「フィアナ様!」
「プレゼントといえば、自分の色で相手を染めるの一択よ!(ですわ!)」
「……………はい????」
何を言われたのかさっぱりわからず、フィアナはきょとんと固まる。すると、サラはうっとりと、ルーナは興奮した様子で訴えた。
「ほら、よくあるじゃない~。恋愛小説のヒーローが、自分の瞳の色の宝石だったり、花だったりをヒロインに贈ったりするシーン!」
「えっと、あの、そうなんですか??」
「そうですよ!! その奥に潜むのは、自分の色でヒロインを染め上げたいという願い……! 自分の色を身に付けさせるのことで、彼女は自分のものだとアピールしているんです! 愛情と独占欲とが入り混じる、とっても色っぽいプレゼントなんですよ!!」
「ふぇ!? え、ムリ。ムリムリムリムリ、そういうのはムリ!!」
ふむふむと頷いていたフィアナであるが、ふと、自分にそれをやれと言われていることに気づき、全力で首を振る。
だが、乙女モードにスイッチの入った少女は無敵である。及び腰のフィアナに、二人はずいと身を乗り出した。
「無理って? 何が無理なの??」
「え!? いや、だって、恥ずかしくないですか……?」
「フィアナ様とエリアス様は王都中の女性たちのハートを射止めた、正義の最推しカップルなんですよ? 何を恥ずかしがることがありますか!」
「いーやー! やめてー! 思い出させないでー!」
耳を塞ぎ、フィアナは悶える。
ちなみにエリアスと共に初めて公式の場にフィアナが姿を見せた時、同年代の娘から素敵なマダムにいたるまで、いたるところで様々な女性に手を合わせて拝まれた。
あれはなんだったのだろうとずっと疑問に思っていたのだが、『氷の宰相×春のエンジェル見守り隊 ~推しカップルをみんなで愛でようの会』なるものが存在してること知ったのが、つい先日のこと。まさかそんなファンクラブがあると思わなかったフィアナは、大いに羞恥に震えた。
そんなフィアナに、さらにサラが追い討ちを掛ける。
「ていうか、フィアナだって思いっきりルーヴェルト様カラーを着てたじゃない。今更何が恥ずかしいっていうの」
「………え? 待ってまって、全く覚えがないんですが??」
覚えはない。ないのだが、嫌な予感ならする。怯えた目をするフィアナに、サラとルーナが容赦なくトドメをさす。
「ほら、この間の式典で着てきた、ルーヴェルト様に誕生日にもらったっていっていたドレス! え、気づいてなかったの?」
「ルーヴェルト様の髪色の同じ白銀から、瞳のお色と同じ薄水色への淡いグラデーション……。このうえなく見事なルーヴェルト様カラーの、パートナー概念ドレスでしたわ」
「……………」
式典に出た時、一部の女性陣――おそらく、ファンクラブの面々と思われる――にやたらとドレスを絶賛されたのは、そういうわけだったのか。そして、エリアス。あの人は確実に確信犯だ。そうに違いない。
言葉を無くし、フィアナはテーブルに突っ伏した。なんということだ。知らなかったとはいえ、自分がいかに夫に愛されているかを散々見せつけてまわったということか。そんなの恥ずかしすぎる。
完全に沈黙してしまったフィアナに、サラとルーナが顔を見合わせる。ややあって、代表してサラがフィアナの肩を軽く揺さぶった。
「ほら、元気出しなさいよ」
「フィアナ様、嫌になってしまいました? もうあのドレス、着たくなくなってしまいましたか?」
「………………着ますよ。せっかくもらいましたし、お気に入りですし」
たっぷり沈黙してから、フィアナは渋々答えた。悔しいので、顔はあげない。
そうだ。思い出の詰まった誕生日プレゼントだし、お気に入りだ。これからも着るのは、それが理由。――あれがエリアス色だと認識したことで、もっと愛着が湧いてしまっただなんて。そんなこと、絶対に絶対、秘密なのである。
それでも雰囲気で伝わってしまったのだろう。二人がにんまり笑う気配がある。そうやって、サラとルーナは意気揚々と提案した。
「というわけで。ルーヴェルト様へのプレゼントは、フィアナ(様)カラーのモノをお渡しするのが1番だわ(ですわ)!」
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