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【クリスマス企画】宰相閣下は祝われまして。(中編②)
しおりを挟むさてはて、そんなことがあった夕暮れ、フィアナはひとり悶々と考えながら街を歩いていた。
フィアナが足を伸ばしたのは、洋服店や雑貨屋などが立ち並ぶストリート。さらなるインスピレーションが湧かないからと、そんな期待もあってぷらぷらとあちこちの店を見てまわっていた。
うち、見覚えのある店の前を通りかかった、そのとき。
「あら、ほんとだわ。こんにちは、フィアナちゃん」
「! キュリオさん!」
扉を開けてひょっこり顔を出したキュリオに、フィアナは目を丸くする。考えごとをしていたので気がつかなかったが、いつのまにかマダム・キュリオの洋服店の前にいたらしい。
「よく気づきましたね、私がいるって」
「あ、えっとね、気づいたのは私じゃなくてね。お客さんが、店の外にフィアナちゃんがいるって教えてくれてね」
「お客さん??」
何やら歯切れの悪いキュリオに、フィアナは首を傾げる。キュリオのところに顔を出すような知人とすると、エリアスにくっついて式典にて出た時にご挨拶させていただいた誰かだろうか。
と、そんな疑問を払拭するように、キュリオの背後からひょっこりもうひとりの人物が顔を覗かせた。
「よ、ひさしぶり! 元気にしてるか?」
「っ、シャ、シャ………っ!?」
「堪えて、フィアナちゃん!! 気持ちはすごくよくわかるけど……!」
思わずその名を叫びそうになったフィアナの口を、慌ててキュリオが手で塞ぐ。目を見開いて口をもごもごさせるフィアナに、元凶となった男性――言わずと知れたこの国の王、シャルツがにっと歯を見せた。
「な、なんでシャルツ陛下がキュリオさんの店にいるんですか!?」
店の中に入って扉を閉めてから、あらためてフィアナはそのように驚愕を露わにする。するとシャルツは、あっけらかんと笑った。
「いや、な? ついに俺も、マダム・キュリオに服を作ってもらうことにしたんだよ。で、仮縫いが終わったって連絡もらったから、試しに来てみたってわけ」
「なんで陛下がきちゃうのよ……。お城にあがりますから待っててくださいねって、手紙にそう書いたじゃないですか」
「だって、せっかく城を出るチャンスだぜ? 最近事務仕事ばっかりで体を凝り固まってるし、大臣やらエリアスやらに追いかけ回されるし……。あ、てわけでフィアナちゃん。俺とここで会ったって、エリアスに内緒ね」
「内緒で来たんですが……」
今頃、上司を探して駆け回ってるだろう夫に代わり、フィアナは頭を抱える。どこの世界に宰相に秘密で城下に降りる王がいるのかと疑いたいが、目の前にいた。まったくなんということだ。
さて、それはそれとして、フィアナは二人にもプレゼントについて聞いてみることにした。
キュリオは街一番の人気デザイナーであるし、シャルツはエリアスの幼馴染だ。それぞれ、これまでとは違った観点からアイディアをもらえるかもしれない。
「……というわけで、こんな感じのものを探しているのですが」
すべてを話し終え、フィアナは二人を見上げる。--途端、人選をミスったと察した。
キュリオとシャルツは顔を見合わせると、どちらからともなくニヤリと笑った。
「ナニって」
「そんなの、決まってるじゃねえか」
「あ、やっぱりいいです」
不穏な空気を嗅ぎ取り、フィアナは早々に撤退を決め込む。けれども身を翻しそうとしたフィアナの前で、シャルツが素早く通せんぼした。
「待て待て待て待て」
「フィアナちゃん、ひどい! せっかく考えたんだから、聞いてってくれてもいいじゃない!」
「だって、どうせ答えは見えてるじゃないですか!」
「いや、わかんねえよ? もしかしたら思っていたのと違う、めちゃくちゃ建設的な意見が出てくるかもしれないだろ?」
「えー……?」
胡散臭そうにフィアナは目をすがめるが、大人ふたりはにこにことこちらを見るだけだ。とはいえ、二人のうち一人は、こんなんでもこの国の王である。無下にするわけにもいかず、フィアナは渋々手を示す。
「わかりましたよ。では、試しにどうぞ?」
「どうぞ、陛下?」
「頭の上にリボン結んで、お色気抜群なランジェリー一枚で、プレゼントは『あ・た……』」
「はーい、ストーーーーップ!! 思った通りすぎて何の捻りもなかったですねー!?」
語尾にハートがつく前に、フィアナは割って入る。だが、キュリオもシャルツも不満そうだ。
「えー!? なんでよー、エリアスちゃんにはこれしかないでしょ!?」
「そうだそうだ。これなら奴を確実に悩殺できるし、何なら殺せる。よし、殺そう」
「セントクロスデーに人の夫殺そうとしないでくれません!?」
ぎゃーすとフィアナは怒る。まったく、とんでもない大人たちだ。そんなことをしたら……セクシーランジェリー一枚でエリアスの前に出ようものなら、間違いなくその日、エリアスは天国に召されるだろう。
髪の毛を逆立て威嚇をするフィアナに、キュリオは「相変わらず、フィアナちゃんは初心ねえ」とくすくす笑った。
「ランジェリー一枚で迫るかどうかは別にして、プレゼントはフィアナちゃんってのは、エリアスちゃんには効果抜群だって思うわよ?」
「いや、ほんとそれな!」
ぴしりと人差し指を突きつけ、シャルツは大きく頷いた。
「あいつ、フィアナちゃんと結婚してから明らかに機嫌いいんだよ。鬼のように仕事終わらせて、跳ぶように帰っていくしさ。よっぽど、フィアナちゃんとの生活が楽しいんだろうな」
「そ、そうなんですか」
先程とは違った意味で、フィアナは赤面する。そんなフィアナに、キュリオはひらりと手を振った。
「贈り物って、モノだけじゃないわ。一緒にすごす時間とか、お互いに共有しあえる感情とか、思い出とか。エリアスちゃんは、そっちに重きを置くんじゃないかしら?」
「……なるほど」
なんだが、朧げだったプレゼントのイメージが、だんだんと掴めてきた。
表情を明るくして、フィアナはふたりを見上げた。
「ありがとうございます! あとは自分で、もう少し考えてみます!」
「ええ、頑張って!」
「ん」
フィアナに応えて、キュリオとシャルツも柔らかく微笑む。
けれども最後の最後に、シャルツがにやりと悪い笑みを浮かべた。
「せっかくだし、悩殺ランジェリーも一枚用意しておこうぜ。ってわけでマダム、手配よろしく!」
「任せてっ。夜なべして作るからっ」
「結構です!!!!」
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