陰陽師と伝統衛士

花咲マイコ

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結婚指輪喪失事件

9☆原因

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「あの子は生霊なのよ…
 さらに、宮中は国民の祈りを神に祈る中心の場所だから、なおさら強い思いが具現化して人の記憶を塗り替えてるの…」
 と、苦い顔をして縁結びの使をしている母の葛葉子は薫に言った。
 ここは宮中の西ノ森。
 あやかしの西を守る白狐として薫は暫く留まる任を受けている。
 薫が見張りができない時は母の葛葉子が見張りをしてくれている。
 それは葛葉子の魂に寄り添う菊の本来の役目でもあるからだ。
 適任のあやかしが見つかるまで宮中の西のあやかしの守護をすることになっている。

 さらに、瑠香が勝手に結んだ縁により、不幸になった彼女を哀れに思った道祖神は縁結びの神の使いの葛葉子に命令して夢でいいから叶えてやってくれと言われた。
 結婚した夢は見せたくないけれど、婚約までの夢ならば……
 と、しぶしぶ命令なので、瑠香と強い縁で結ばれている証の婚約指輪を貸してしまったが、彼女は瑠香が記憶を書き換えるほどしつこく思い込みの激しい性格、魂のせいで本当に貰ったと思いこんでしまった。
「現実の指輪を媒体に夢をみている生霊だから、人々にありえない記憶を吹き込んで記憶を変えているの…」
 葛葉子は頭を抱え、はぁ…とため息を吐いた。
「さらに力を貸している縁結びの神様はプライドが高いからどうしても叶えさせたいみたいなの……思いが遂げられない限り瑠香につきまとう気なの」
 そういう母の声は暗く重い。
 狐の耳をひしゃげて嘆く。
 まさかこんなことになるとは思わなかったらしい。
 【使い】の身では神に逆らえない。
「結婚指輪もなくなったって言ってたけど、指にはめられるんだ」
 母の左手を見て薫は言った。
 薬指には結婚指輪がはめられている。
 薫からは母を触れられないが、葛葉子からは息子や物を触れることができるらしかった。
 それゆえ、宝石箱から指輪をぬきとることができたのだ。

「結婚指輪だけは死守してるの。
これが取られたら完全記憶を縁をのっとられちゃう!」
「死守って…」
 死んでも守ってる…と複雑な笑いを薫はした。
 
「道祖神はその女に夫婦の縁は交わせなくても恋人である縁は叶えさせたいということか…」
 思いが遂げられない限り瑠香につきまとう。
「話を要約すると生霊だけではなく、その女には神の加護まで着いているおまけ付きと言うことか…」
 と薫は理解した。

「仕方ない。一晩くらいオヤジと生霊を寝させれば解決するんしゃね?そのあいだに指輪抜き取るとか。」
 と薫は意地悪も込めて言ってみると、すかさず薫の頭を葛葉子は拳で一発叩いた。

「そんなの許すわけ無いだろ!」
 母は尻尾と耳を逆立てて、
「やっぱりとーさんはずっと独り身でいてほしいし!誰にもとーさんを抱かせないんだからっ!」
 母はそう怒鳴り本気で怒ってる。
「だからどうにかしなきゃって思ってるの!薫!なんとか、協力して!」
「どうにかしてやるつもりだけどさ…」
 父の悶々より母のやきもきのほうがやっかいだった。
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