陰陽師と伝統衛士

花咲マイコ

文字の大きさ
上 下
75 / 81
お盆時期の伝統衛士

10☆蓮と刀と御霊

しおりを挟む
 蓮は悪霊の前に出て代々舎人長が受け継ぐ太刀を怨霊に構える。

「太刀の者を舐めるな……」

 蓮は刀を鞘からスッと抜き、ブレのない円を描いて構える。
 すると武士の格好をした半透明に光る五人青年が突然現れ前に出て刀を同時に抜く。
『精霊を五体も宿すとはな……強い神気を放っておるな』
 李流の中に入ったハルの神は感嘆をする。

 悪霊は殺気のような霊気を放つ蓮を標的に定めると洞窟のような口が血のように真っ赤な口をさらに大きくしさらに激しい牙を口全体にはやして襲ってきた。
『お前を食べれば、この結界からでられるうううう!陛下にお会いできルゥう!』
「もう、魂が真っ黒で地獄行き決定だよ…可哀想だけど……」
 地獄の鬼の血筋を持つ篁は悲しそうな顔をする。
 本心は穏便にあの世に連れて行くつもりだったらしい。
 犯罪も犯していない魂だから閻魔さまも気に留めないと思っていた。
 けれど、呪詛により魂が穢され穢れが宮中で暴れ回ることは現世では大罪を犯したことになる。

「穢れを近づけさせねぇよ。お盆終わってナスに乗り忘れたから穢れになるんだよ、魂になってもボケてしまったらどうしよもないな……ボケナスジジイ…」
 蓮は厳しい言葉を投げかけることは常でその裏の優しさがあったりするが、本来持っている口の悪さがでた。
 宮中ではあまり口の悪い言霊を吐かないルールでもあるが、結界内なので良いと判断と怒りのせいだ。
 蓮と精霊五人の青年は人間業ではありえないほど宙を飛び悪霊爺を太刀で斬っていく。
 それは巻き寿司を輪切りに切る如くにし、悪霊爺の呪詛になった体は崩れ地に落ちる。
 蓮が刀を円を描いて鞘に仕舞うと同時に五人の太刀の者はスッと消えた。

「すっげーーーーっ!かっけえええええ!俺の出るばんねぇーー!」
 狐耳と尻尾を出し、妖狐の本気を出そうとした薫は興奮した。
「なんか、衣装の時代背景が違かったですね!黄泉に逝けなかった御霊かな?」
 篁も興奮しつつ、魂を分析することをかかさないのは鬼の一族ゆえだ。
「千年の昔平安の御代にあだ名する鬼を斬った伝説の武士の御霊の分祠が宿っているのだ。久々に見たの、わしが先を取られるとはやはり年にはかなわないの」
 槐寿はフォフォと微笑むがその手にはつかに手をかけていた。
 蓮の一撃必殺をみんなで褒め称えると蓮は恥ずかしそうに咳払いをして、
「槐寿殿より先にあの御霊を斬らねばならなかったので…我らの陛下を思う気持ちは……それにこの刀の御霊が良いかと…」
(照れると歯切れの悪いところもギャップ萌え……)
 高校生三人は同時にそう思う。
 鬼舎人寮長にニマニマしてしまう。
「そんな刀がまだまだ選び放題ってことか⁉︎
 ……ですか!?太刀の者の血筋じゃなくてもいただけるのか?」
 薫は瞳を輝かせていう。
「俺がそうだろ?」
 蓮は苦笑して己を指差す。
「逆に、神木の刀の一族はいただけないんだけどね。」
 臣は残念そうな顔をする。
「太刀の者としてふさわしければ貸していただくことはできる。
 今は、昔より刀を振るう者は少なくなってしまったから、出番はないが、刀は常に主人を待っているからの」

 悪霊は煙を発して消えていきそうなところに、黒い石と神々しい石が二つ落ちた。
 それを李流は拾い上げる。
『威津那が未来を見誤った結果か……』
 李流の口からハルの神が楽しげに口を借りた。
『一つは威津那殿の呪詛と陛下の包石だな…もう九尾の事件から二十年以上経っているのにな……』
「なんでそんな古いものが今発動したんだい?』
 東殿下はそのことについて察してハルの神にお尋ねにる。
『房菊を…娘を亡くした直後、威津那の当時の複雑な思いと重なり、本来ならば聖なる光を放つ包石は威津那の力で呪詛と化した。
 そして、この者が黄泉に逝く時に宮中を見回る未来を見て、威津那が見誤った未来でこのジジイ思いを使わした。』
 李流の体を借りるハルの神は、包石に微かに残ったお爺さんの御霊を具現化させた。
しおりを挟む

処理中です...