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お盆時期の伝統衛士
9☆忠義心と能力
しおりを挟む『陛下にあわせろおおおおおおお!!』
悪霊のお爺さんは結界の中にいる李流たちをみて大きな顔を螺旋させて迫って、恫喝し慟哭する。
それは腹の底が冷えるような恐怖を与えるものだった。
普通の人間がその瘴気にあたったなら病にかかっていただろうが、この結界にいるもの達は特殊能力持ち、瘴気には当てられなかった。
体をくねらせて、車の体当たりのように李流、薫、篁に襲いかかるが、身軽な若者たちはすんでのところで翻りかわす。
とりあえず、李流は伝統衛士の飾り刀を構える。
薫は妖狐になり、篁は額に角を出し牙が生える。
本来の姿までに至らないものの、
「期日内に黄泉に帰らなければ地獄行き決定だよ!」
篁は自ら悪霊に突進して頭を捕まえに行くが、クネクネと蛇のように伸びる悪霊に逆に巻き付かれる。
さらに三メートルの高さまで持ち上げられてしまった。
「うぐ、これ本当に…ただの彷徨える悪霊……じゃないっ⁉︎」
「篁!」
薫は篁の縛られてるところまで飛んで、締め付ける胴体を引き剥がそうとするが、するりと通り抜けるような不思議な感覚だが実物のある違和感に力任せでは無理と考えて、
「実態がないならこれっきゃねぇな!」
薫は体から狐火をゆらめかしめ悪霊に炎を移す。
『ああ!熱い!』
篁を巻くことをやめて暴れ出す。
元からつかみどころのない風のような悪霊なのに、暴れることにより結果以内に不規則な気流が流れて踏ん張る事がせいっぱいになる。
《まだ、威津那の呪詛は現在とはな…まぁ、陰の帝の力としては当たり前か……》
李流を依代にしているハルの神はそう呟いた。
「呪詛って、誰がそんなことを⁉︎」
あってはならない不敬な事をする者がいる事に李流は憤る。
『ふふ、懐かしい話よ…』
李流は一人で喋っていて変な気分になるが、人ならぬ者でも敵わないほどの悪霊になっているものに人外の薫や篁が手こずるほどの呪詛……
何よりも、自分に何も対処できない事にもどかしさが焦燥感を湧き拳をギュッと握り二人の奮闘を見守るしかないなんて……
「ハルの神…オレに力を貸してもらえませんか……?」
ハルの神依代として力を貸してもらえるなら宮中を守るために力が欲しいためにそう願う。
《我の力で消滅させれば、お前たちの陛下を思う気持ちを無に消す事とになるぞ?良いのか?》
ハルの神は意地悪げに李流に問う。
「う……それは…」
同じ陛下を思う気持ちを消すことはやはり戸惑って迷う。
気持ちがわかるからだ…
陛下に直接おそばにお会いできるまではこのお爺さんのように恋焦がれた。
陛下へのなんともいえない忠義心、憧れと慕いに心が張り裂けそうになったほどだった。
李流以上にお慕いしている会うことに恋焦がれている強い思いをこのお爺さんに感じるからだ。
そんな気持ちを思い返していると李流の肩に蓮は手を置いた。
それは優しく心強かった。
「お前の気持ちはよくわかる…だがな…悪霊なった爺さんの想いなど、ストーカーのような穢れた迷惑なモノで我らの気持ちとは、すでに別物だ」
蓮そう強く言い切る。
李流のそれは迷いを払拭する。
「俺も本当は陛下をお慕いする気持ちを向けにはしたくなかった……だが、致し方あるまい。甘い考え優しさなど我々が持ち合わせてはいけないのだ。陛下をお守りするならば……ですよね?槐寿さま」
槐寿のほうに振り向き尋ねる。
「だな。私が今すぐ切り捨ててやっても良いのだがな…中務の宮をお守り中なのでな。」
中務の宮の前に大きな木でできた盾ができていた。
それは槐寿家の特徴能力だった。
「申し訳ないね、足手纏いになって……」
中務の宮はどことなく棒読みな言い方は、槐寿はこの事件に対して見守るだけと決めている事を察してのことだ。
臣は真逆にその事を知らず真剣に桃の木の木刀を構えて風を切ると、わずかながらに悪霊の体に傷がつく。
だが、中務の宮をお守りする事が優先なので万が一に備え、クネクネ動く悪霊にに致命傷を与えられていないみたいだ。
その様子を李流は見ると、少しは滝口家の血筋が入っているのだからそういう力に憧れてしまう……
あらためて、自分にはそのような力は持ち合わせていないことが心底残念に感じたのは今日が初めてだった。
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