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リュカ(本編補足)
22話 それから
しおりを挟むそれから、いろんなことがあった。
4月下旬はいつものようにザガンと依頼を受けたのだけど、隣を歩いているザガンとの距離が、ちょっと離れていた。それに会話は普通にしてくれるものの、目が合うとそっと逸らされるし、頬がほんのり赤い。
照れちゃっているのが可愛くて、でもこの状態で手を出したら逃げられそうな気がしたので、なるべく普段通りを心がけた。別れ際にぎゅっと抱き締めて、ほっぺにキスはしたけどね! まぁさすがはザガン、それでも平静を装っていたし、翌日には落ち着いたみたいで、いつもの無表情に戻っていた。
5月上旬にはザガンが動物園に行きたそうにしていたから誘ったんだけど、まさか猫耳パーカーを着てくるとは思わなくて、ホント驚いたなぁ。あまりの衝撃に、笑顔のまま固まってしまったくらい。可愛すぎてどうにかなりそうだったし、そんな可愛いザガンを抱き締めることで、どうにか……ううん、やっぱり萌え殺されそうだった。
この動物園デートで、初めて手を繋いだんだよね。実はずっとタイミングを計っていたし、ザガンの手を握った瞬間なんて心臓がバクバクしてた。でもザガンは無表情で見上げてくるし、何も言ってこないから、逆に勇気をもらえたんだ。あ、これくらいなら大丈夫なんだって。
自分用のぬいぐるみを買おうとするのも可愛かったし、意図せずお揃いにしちゃうのも、照れてツンツンするのも可愛い。
動物園デートを終えたあとは、ホテルに移動して、ちゃんと好きだと伝えた。珍しくすごく驚かれたので、やっぱり初エッチ中に伝えた時は聞いてなかったみたい。でもそれで良かったと、心底思う。
だってみるみるうちに顔が赤く染まっていくザガン、本当に可愛かったから。エッチの最中だと元から頬が火照っていているから、これほど変化しなかっただろう。ぬいぐるみに顔を押し付けて隠すのもあまりにも可愛くて、人前なのについ頭にキスしちゃった。
夕食はそれまでも時々一緒に取っていたけどお風呂は初めてで、全裸になったザガンは相変わらず綺麗で、抱き締めずにはいられなかった。乳首まで触ったらさすがに窘められたから、慌てて謝ったけど。こんなふうに、ザガンは駄目なことについては駄目だとちゃんと言ってくれるので、逆に何も言わない時は問題無いと判断出来る。
2回目のエッチもとても気持ち良かったし、俺に抱かれて気持ち良さそうに喘いでるザガンは、最高に可愛かった。大好き。
でも5月下旬。第5ダンジョン内では、ある問題が起きてしまった。
ここでザガンより先にボスフロアに到着するのは、ループしていた時と変わらない。ボス戦闘後に君が現れるのも記憶通りだったけど、俺達の関係はまったく違っていたので、戦闘にはならず。ただしノエルがかつてのように、この場に残ることを選んだ。
先月せっかくザガンと会えたのに、ミランダ達のせいで戦闘になってしまい、話せなかったノエル。だからか、崩落後に合流した時、ザガンが先に行ったことを知るとキレてしまった。『みんなのせいで、あの人と話せなかった! あの人は私の兄様なのに!』と。
その内容に友人達はビックリして無言になり、激昂したノエルは沈黙をどう捕らえたのか、一緒に暮らしていた頃のザガンがいかに素晴らしかったかを捲し立てる。そんな兄大好きなノエルを宥めるのは大変だったけど、しかし何もしていない彼に攻撃しかけるのは俺も許せなかったので、便乗して伝えておいた。
『俺が今まで会っていた友人はザガンだし、俺はザガンを愛してるから、そのつもりでいてね』と。
その日はノエルがずっとピリピリしていて気まずい空気が漂っていたが、夜に女性陣だけで話し合ったようで、翌日は元に戻っていた。
ともかく、ノエルはようやくザガンときちんと話せたことで、すごく嬉しそうだった。
けれど次第に、剣呑な雰囲気になってしまう。ザガン自身から、大好きな兄の悪口を言われてしまい反論するノエルと、兄であることをひたすら隠そうとするザガン。
「闇属性の者達にとって、この国は悪意に満ちた地獄だ。その中で生きる苦痛がどれほどのものか、お前はわかっているか? わからないだろう。お前は闇属性ではないのだから」
この言葉を聞いて、俺は自分の過ちに気付かされた。何度も何度もループして、そのたび闇組織はザガンを殺してきた。邪神を復活させて王都を破壊してきた。だから闇組織は敵だと思っていた。
でもザガンの言うように、彼らにとってはこの国が地獄だから、壊そうとしているだけである。――『周囲が迫害しなければ、闇属性の者達も、誰かを傷付けようとはしなかっただろうにな』というのも、以前ザガンが言っていた言葉。
邪神のせいで闇属性を差別せずにはいられなかった? それが歴史だから? そんなもの、迫害している側のふざけた言い訳だ。だから俺は、彼らも守らなければならないんだろう。だって彼らもまた、ソレイユ王国の民なのだから。
しかし今までのザガンを想うと、どうしても許せそうにない。怒りが湧きそうになる。
それを抑える為に、無言で睨み合っている兄妹の間にあえて入った。
先に転移していったノエル。ザガンと2人きりになれて……この時ザガンに、ノエルが兄について詳しく覚えている旨を教えたのは、彼女が長年ザガンを慕い続けていたのを間近で見ていたから。俺も、2人が兄妹なのを知っていることくらいは、伝えておきたかったし。
ただしあくまでもノエルから聞いていた話と、ザガンが教えてくれたプロフィールを合わせた結果であって、何度もタイムリープしたからじゃないよ? というわけで、そう説明しておく。
自分の中で燻っていた怒りのせいか、ちょっと笑顔が堅くなっていたかもしれないけど。でもちゃんと、いつもと同じ笑顔を浮かべられていたよね?
なのにダンジョンから出たあと、ザガンに会えなくなってしまった。
明らかに避けられている。どうしよう、どうすれば。ああもう、なんであんな踏み込んだこと言ってしまったんだろう。ザガンが元貴族であることを隠しているのは、明白だったのに。
ものすごく後悔して、焦燥に駆られて。
だから6月初め、野宿の準備をしている時にザガンの気配が近くなってきた時は、慌てて呼び止めた。止まってくれて心底ホッとしたし、きちんと理由を確認したうえで謝罪した。泣き落としに近かったかもしれない。それでも許してもらえたので、本当に良かった!
ところでこの時ザガンが乗っていたものには、見覚えがあった。ループするたび数分だけ見ていた、あの人の部屋に置かれていた、自転車みたいな模型。サイズが違いすぎて最初気付かなかったけど、よくよく見るとデザインが似ていた。ザガンの半分はあの人の魂なんだなぁと、改めて実感する。
ザガンとノエルが気まずくなることもなかった。ノエルも理解しているから。実際はどうあれ、戸籍上での兄は死亡していると。それに2人とも、一緒に食事するだけでも幸せそうだった。
ただこの時の、ツキ――『月』の話には、驚くばかりだった。
彼が月について知っているのは、理解出来る。だって彼のいたパラレルワールドには、月が浮かんでいたから。でもまさか、この世界にもあるものだったなんて。
絵本だけなら、まだ創作の可能性があった。幽体離脱とか夢とか、とにかくなんらかの理由であちらの世界を見た人間が、月を創作にした可能性。でも何十枚にもおよぶ写真、しかもあの世界同様に欠けたり満ちたりする月を見せられたら、実在していると信じるしかない。
つまり絵本通り、邪神が月を隠してるのか。この空にも、あの世界と同じように月が浮かんでいる。じゃあどうして、その事実が現代に伝わってないの?
この理由を調べたら、もしかしたらタイムリープを防げるんじゃないかと思ったんだ。だってループするたび、世界は俺に月を見せていたから。むしろなんで、今まで気付かなかったんだろう? あの世界がパラレルワールドなら、こっちに月が浮かんでいないのは、どう考えてもおかしいのに。
大臣達からアカシックレコードの話を聞いた時、直接的な原因がわからなくても、第9都市や王都を守れればループが止まるのではないかと思った。でももしかしたら、まったくの見当違いだったのかもしれない。だからといって、国を守らない選択肢は存在しないけど。
翌早朝、ザガンがもう行くというので見送ることにした。けれど離れがたくて、魔導車に跨るザガンをぎゅっと抱き締める。
どんな理由があろうと、ザガンに無理してほしくない。危険なことをしてほしくない。だってどれだけ強くても、君はいつもいつも――死んでいた。
「今度は絶対に、俺が君を守るから……」
そう決意を胸にして呟いたけど、ザガンに比べてまだまだ弱い俺は、きっとあまり頼りにされてない。だからどうしたのかと聞かれて、咄嗟に誤魔化した。
強くなりたい。もっともっともっと、ザガンを守れるくらいに、強く。
自分の能力を、あっという間に向上させる。幸運にも、その機会は訪れてくれた。
第6都市の冒険者ギルドでは、今までザガンと一緒に依頼を受けてきた書類を見せて、彼が来たら俺に連絡するよう頼んだのだけど。翌朝にはザガンに会えて嬉しかったし、寂しそうにしてたのも可愛かったなぁ……じゃなくて、一緒にキマイラ討伐に出掛けることになった。
その道中で、ザガンから教わったんだ。光属性の魔力操作方法を。
今まで火や風と同じようなものとして教わっていたし、専門書にもそう記されていた。なのに実際は違っていて、闇属性と同性質だったなんて。闇属性を差別して危険視するようになった結果、神ソレイユの光属性がそれと同性質だと認められなくなり、いつの間にか事実が捻じ曲がったのかもしれない。
とにかく、俺にもザガンと同じように触手が出せるとわかれば、練習するしかない。自由自在に扱えるようになれば、ザガンのエッチで可愛い姿をもっと見れるかもしれないもの!
……いやもちろん、強くなる為だよ。ザガンがキマイラと戦っている間、俺は待っていることしか出来無かったから。ボロボロになって帰ってきた彼の世話するだけの自分が、情けなくなる。絶対に、もっと強くなろう。
そう改めて決意した翌日、心臓が止まってそのまま死ぬんじゃないかという、出来事があった。
「だから俺は、…………お前の告白に、答えられない」
と言われてしまったんだ。あまりにもショックで意識を失いそうになったし、叩かれた胸がひどく痛んだ。でもすぐに冷静になれた。だってザガンが、泣きそうだったから。
普段無表情で感情を見せない君が、怒鳴ってきた。涙を滲ませていた。それに胸に置かれている手から、寂しい、離れたくないって気持ちが伝わってくる。
俺と同じ好きかどうかわからないなんて、たいした問題じゃないんだよ。俺との抱擁やキスを受け止めてくれるだけ嬉しいし、エッチしたら、幸せいっぱいになるんだから。君はこのまま、俺からの愛を受け止めてくれるだけで良い。
なのに俺のことをちゃんと考えて、いっぱい悩んでくれたんだね。それくらい俺を好きになってくれているのに、ずっと独りだったせいで、自分の心に気付かないんだね。そんなザガンが、どうしようもなく可愛くて、愛おしい。
ねぇザガン? 俺の大好きなザガン。俺は、君の魂が2人分であることを知ってるよ。そしてどちらの存在も、俺だけは知っている。君達が同化した理由も。
聞いたら驚くかもしれないけど、君達は何度も繰り返されているタイムリープを止める為に、今の形になったんだ。俺だけではどうしても無理だった、世界崩壊となる原因を断つ為に、君は今ここにいる。
ねぇザガン――俺だけのザガン。俺は結局、今まで一度も君を救えなかった。でも今度こそ、絶対に守るから。……だからどうか、この無限に繰り返される時間から、俺を救ってほしい。
なんておこがましいことを、少しでも考えたからだろうか。
それから1ヶ月間もザガンに会えなかったし、久しぶりに会えたかと思えば、ザガンはすごく苦しそうだった。俺の思考が、ザガンに何かしら影響を与えてしまった? いやさすがにそれは、非現実的か。
しかしどうしたのかと聞いても、答えてくれない。俺を頼ってくれない。だからお仕置きすることにした。だって、そういう約束をしたものね?
光属性の魔力操作について教わってから1ヶ月。ザガンほどではないけど触手を操れるようになっていたので、外でエッチするのは嫌そうにしていた彼を触手で捕らえて、逃げられないように海上に移動させた。
慌てるザガンは可愛くて、触手に弄られて悶えるのも可愛い。この時、光属性で良かったと心底思った。だって俺の触手は淡く光っていて、肌に這わせるとより艶かしく見えるんだもの。それに、手では弄れないところまで触れられる。
ああ、ザガンが泣いている。嫌だと言っている。でも、どれだけ辱められても逃げようとはしない。圧倒的強者である君なら、簡単に逃げられるはずなのに。だったらこのままずっと、捕まえていて良いよね? だって君は――俺だけのザガンだもの。
「君をずっと快楽に侵し続けて、俺以外を考えられなくしてあげる。そうすれば、君がどこで何をしているか心配しなくて済むでしょ? ああ大丈夫だよ。君の心が壊れても、絶対に放さないから」
君が死んだあと、いつも回収して亡骸をマジックバッグに入れていた。腐敗しない時間を計算して出して、冷たく硬くなっている頬に触れていた。自分の精神を安定させる為の、ほんの僅かな時間。
それに比べれば、生きてる君を常に傍に置けるなんて、どれだけ幸福なことだろう。どこにも行かないように快楽漬けにして、俺から離れられないようにして。もし心が壊れて言葉を交わせなくなったとしても、生きて呼吸している君を抱き締めるだけで、俺の心はきっと満たされる。
……そう思ったけれど、君は謝罪してきた。そして濡れた双眸で、じっと俺を見つめてきた。
綺麗で鮮やかな赤に、ハッとなる。暴走しかけていた思考がクリアになっていく。そして気付く。もしも君の心が壊れたら、この大好きな瞳が失われてしまうと。この世界が現実だと教えてくれた君を失ったら、きっと俺も正気でいられなくなる。
だから許したし、俺も必要以上に苛めてしまったので謝った。本当にごめんね、ザガン。
ちなみにザガンが頑なに隠していたのは、闇組織のことだった。しかも100人以上に囲まれたって。いつもザガンを殺していた者達のことを聞かされ、取り乱してしまう。もちろんザガンがここにいるので、無事だったのはわかるけど。
それにザガン自身も、彼らに殺されることを知っている。だから抱き締めた。自分が死ぬかもしれないなんて、怖くないはずないのだから。大丈夫、俺がいるからね。まだ頼りないかもしれないけど、それでも絶対に、君を死なせないから。
翌日7月8日はザガンの誕生日で、もちろんプレゼントを贈った。ザガンといつでも連絡を取りたいという望みで用意した、魔導通信機。それは離れている間の俺達を繋いでくれるだけでなく、ザガンに魔導バリアという素晴らしいアイディアを運んでくれた。
7月終わりには、魔導バリアが1つ完成していた。都市を守れるほど広がるそれは、明らかに第9都市での対ダークドラゴンを想定されたもの。元々第9都市は守るつもりだったけど、まさかザガンの力を借りられるなんて思ってもみなかった。
でも考えてみればザガンはアカシックレコードで知っていて、さらに死ぬ可能性があるからといって、逃げるような人でもない。むしろこうして、自分以外も守るように動く、それくらい強くて優しい人。
俺もダークドラゴンと戦うことを知ってるよと、そうザガンに伝えられれば、どれだけ君の心の支えになれただろう。けれどタイムリープしているなんて話せない。大好きな君の、心の重荷になりたくないから。優しい君は、気にしなくて良いと言ったところで心配するだろうし、きっと悩んでしまう。だから絶対に話さない。
8月には、とても嬉しいことがあった。なんとザガンと一緒に生活出来たんだ!
ノエルがザガンを兄だと告げた日から、みんなの前でも気にせず、俺にザガンのことを聞いてくるようになっていたから。それにより少しずつだけど、ミランダがザガンに対して軟化していき、とうとう同じ空間にいることを許容出来るようになった。
そんなわけで第8ダンジョンが開くまでの5日間、朝から晩までずっとザガンといられたんだけど、とにかく幸せだった。何よりザガンが可愛かった。……ホント可愛かった!
みんなと心の距離が近くなっていることや、軽装になることに戸惑ったり。楽しそうに海で泳いだり。遠回しにキスを強請ってくるのも可愛かったなぁ。もちろん、エッチの最中もすごく可愛い。
朝食、自分の席が用意されててビックリしたね。でも抱き締めたザガンからは、嬉しいという気持ちが伝わってきて、俺も嬉しくなったよ。無表情だけどいつもより目元が柔らかくて、微笑んでいるみたいで可愛かった。
ところで滞在中、ザガンはずっと魔導バリアの作業をしていたので、午後はいつも1人で冒険者ギルドに出かけた。俺が屋敷で鍛錬してると、みんな無理しちゃうから。それにもっと強くなる為にも、自分より強い人に稽古をつけてもらいたい。
だから冒険者ギルドの地下訓練所にお邪魔したところ、ありがたいことにギルドマスターが相手してくれた。しかもすごく強くて、俺の未熟なところを的確に指摘してくれる。剣術そのものはもちろん、身体強化における魔力の流れとか、気配察知についてとか。おかげで短期間でさらに強くなれたので、感謝が尽きない。
夕食後には短時間だけど魔法の鍛錬をして、お風呂に入ったあとは、ザガンといっぱいエッチして。そのまま一緒に眠り、翌朝ザガンが腕の中にいる状態で目が覚める。本当に幸せだったし、何よりザガンが可愛すぎて……!
だって俺の精液を胎内に溜めたまま、朝食に向かうんだよ? 魔力操作に長けてるカミラやベネットやシンディに、抱かれたのがバレバレになるんだよ? しかもそのまま作業するし。魔力変換が完了するまでずっと俺の魔力を感じ続けているなんて、可愛い以外の言葉が見つからないよ!
一緒にいた時間が長くなるほど離れがたくなるのは、心から君を愛しているから。
なので最終日は夏祭りがあったけど、差別のせいで遊びに行けないザガンと共に、屋敷に残った。今すぐ差別を消せないのが、歯がゆくて仕方無い。でもザガンの浴衣姿は見れたし、しかも格好良いと褒めてもらえたので、すごく嬉しかったな。
カキ氷も美味しくて……ただやっぱりザガン自身、思うところがあるみたいだ。差別についてとか、これから待ち受けている戦いについても、悩まずにはいられないだろう。相変わらず無表情だけど哀しそうなのがわかるから、ぎゅっと抱き締めて、少しでも彼の心を癒せるように慰める。
そんな時、どういう偶然なのか魔清が出現し、スピリットの生まれてくる瞬間を目撃した。俺は初めて見たけど、ザガンは違っていて。そうしてエトワール大森林の抜けた先にある隣国、テール王国について話してくれた。
女神テールと出会ったこと。闇属性が差別されていないこと。神ソレイユと、女神リュヌのこと。
ザガンがリュヌという女神の眷属なのには驚いたし、自分が神ソレイユの眷属であることは、スッカリ忘れていた。王城でたまに神ソレイユの眷族と言われてたけど、実在しているかどうかあやふやだったし、最近はそれどころではなかったから。
でも俺は神ソレイユの眷属だから、《特異点》となり何度もタイムリープしてるんだよね。それにその影響を最初に受けたのがザガンなのも、女神の眷属だからかもしれない。
とにかく俺は、ザガンが傍にいてくれる未来にしたいんだけど……ザガンは自分以外の闇属性達もみんな、救いたいみたいだ。
「この国で生まれた闇属性の者達が全員、あの地で生まれていれば、平穏に生きられただろうにな。せめてテール王国へ、連れて行くことが出来れば良いかもしれないが」
そこにはきっと、ザガンを殺そうとしている闇組織の者達も含まれているんだろう。
ザガンが望むのなら……いや望まなくても、俺は王子として、彼らも守らなければならないんだ。そうでなければ、この国から闇属性の差別を無くすことなんて不可能である。だがしかし、何度もザガンを殺してきている彼らに対して、俺は手を差し伸べられるだろうか? 私情を捨てられるのか。正直、その時になってみないとわからない。
ところでこの地図、エトワール大森林じゃなくて、リュヌ大森林なんだね? 太陽の神ソレイユに、邪神と、月の女神。そしてザガンを眷属にしている、闇属性の女神リュヌ。
まだまだ不明な点は多いが、これらが月に関係しているなら、調べないわけにはいかない。
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