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リュカ(本編補足)
21話*
しおりを挟むザガンの喘ぎが変化したように聞こえた。不思議そうな、戸惑っているような声。でもまだ目を瞑っている。起きたわけじゃないのかな? わからなかったのでまた奥を突いてみると、ひっと小さく喉を鳴らして、目を開いてきた。
「ぁ、あ……なに、なに、が……」
「ああ、起きたんだねザガン。良かった」
顔を覗き込んでみると、寝起きで混乱してるみたいだけど焦点は合ってるし、顔色もだいぶ良くなっていた。そういえば触れてる素肌も、だいぶ熱を取り戻していることに気付く。さっきまた、入れただけでイっちゃったから。
「お、まえ……リュカ、なに、……あ」
ザガンが震える手を伸ばしてきたので、その手を握ると、指先はまだ冷たかった。あったまるようにと指先にキスしたら、腰を小さく動かして胎内の奥をつつく。ザガンは眠っていたから、気付かれることはないと思うんだけど。それでも気恥ずかしいし、今度こそちゃんと気持ち良くさせてあげたくて、緩やかに刺激を与えていく。
「ぁっ……あん、んっ? なに、や、あ」
俺の動きに合わせて、小さく声を漏らすザガンが可愛い。それにまだ思い出せないのか、ちょっと眉尻が下がってる。
「ふふ、訳わからないって顔して戸惑ってるザガン、すごく可愛い。いつもは冷静で、ほとんど表情が動かないのにね」
「ふぁ……あ、あんっ、……んあ、あ……」
「ん、気持ち良さそうな声。俺もザガンに包まれて、とても気持ち良いよ。はぁ……今ね、ザガンの中に俺のペニスが入ってるの。お尻からずっぽり、俺の熱くて大きいのを咥えてるんだよ。わかる?」
感じすぎてお尻が痺れてしまい、胎内に何が入っているか判断付かないのかもしれない。だから握っていた手を、お尻に持っていってあげた。俺のペニスが入っていると認識すれば、自分から誘ったことを思い出すだろうと。
指先が結合部分に触れたことで、ザガンのアナルがきゅっと締まった。身体も小さく痙攣する。でもザガンは困惑したまま、それでいて恥ずかしげに頬を赤くして俺を見つめてきた。
「そ、そんな……何故、こんな……ぁ、んっ」
なかなか思い出せないのは一度眠ったせいなのか、あるいはハッキリ喋っていたようで、意識が朦朧としていたからか。そういえば、普段よりちょっと口調が悪くなってたな。この前、お昼寝で寝ぼけていた時みたいに。
となるとそもそも、どうしてここに横になっているのかを思い出せていないのかもしれない。俺達と戦闘している最中に崩落に巻き込まれて、極大魔法を使用して魔力枯渇になり、気絶したことを。
そんな朦朧とした状態でも、俺が泣きそうになっているのを見て、俺に抱かれることを受け入れてくれたんだね。そんなに俺に甘いなんて……愛されてるって、今だけは勘違いしても良い?
「まだぼんやりしてるザガン、ホント可愛い。いいよ、そのまま俺でいっぱい感じて」
どうしようもなくザガンが愛しくて、ちゅ、ちゅ、と頬や眦にキスをする。閉じられた目からぽろりと涙が零れたので、辿るように唇を寄せていけば、横を向いて触れられやすくしてくれるザガン。そんな可愛い行動に促されるまま耳を食めば、気持ち良さそうな声が漏れてくる。
「はう……リュカ、……んあ、ぁ、……あふ……あ、あん」
どうすればよりザガンが感じるのか探ろうと、まずは奥まで埋めたまま回すように緩く腰を動かしてみた。ザガンはそれに合わせて断絶的にペニスを締めてくるし、感じ入るように目を閉じる。可愛い。ちょっと強めに奥をつついてみると、ビクビクッと腰が震えたあと、動きを制するようにきゅううと胎内を締め付けてきた。
「んんっ、ん――ッ、――……ッ」
ピンッと身体が弓形に反れるのも可愛い。もしかして今、イったのかな? きつく唇を結んでいるし、また涙が零れてる。俺もペニスを強く搾られて快感が湧いたものの、射精はしなかった。入れる前に1回、入れただけで2回出しているので、さすがにしばらくイきそうにない。
「ザガン、大丈夫?」
「んっ、……ん、う……あふ……」
動くのを止めて、彼の濡れている眦にキスして涙を吸う。それから感じ入っている顔を観察しながら、綺麗な黒髪を撫でた。サラサラしてて、手触りが良い。少しすると落ち着いたみたいで、涙で濡れた双眸は明後日の方向を見ているけれど、胎内はまた緩やかな動きに変わる。
なので上体を起こして、今度は前立腺を重点に刺激するよう動いてみた。カリが縁に引っかかるくらい抜いたら、先端で腹側を擦るように入れていく。ちょっと膨らんでいるところを通ったら、また引いて前立腺を掻いてカリまで抜いて、また入れて。
そんなふうに何度も前立腺を擦っていると、だんだんザガンの喘ぎが大きくなっていく。
「ぁ、あん……、ん、ん、……ふあ、あ」
「ザガン、はぁ……ザガン可愛い、ザガン大好き」
気持ち良さそうに腰をくねらせるものの、俺の言葉には反応してくれなかった。好きと伝えるのは、まだちょっと早かったかもしれない。いやそもそも、思考が散漫になっていて、言葉そのものを聞いていないのか。
聞いてもらえていなかったのは残念だけど、こんな危機的状況からのどさくさに紛れた告白なんて、格好良くないと思い直す。今度もっとちゃんとした場面で、ザガンの意識がハッキリしている時に、告白しよう。
「ひんっ……ひ、う……っ!」
前立腺を苛めていたら、またザガンがイった。背中を逸らし身体を強張らせ、きゅううと胎内を締めてくる。でもザガンが射精することはない。まだ勃起していないから。早くおちんちんが勃起する姿、見たいな。きっとすごく可愛いだろう。もちろん今の状態でも、すごく可愛いけど。
再び落ち着いたのを確認したら、今度は結腸の入口をつついた。だいぶザガンを感じさせられたと思うので、そろそろまた俺自身がイけるように動いていく。出来ればもっと奥まで埋めたい。そうして根元までザガンに包まれたい。もっともっと奥に侵入して、ザガンを俺のものにしたい。
とん、とん、とん、とん、と何度も奥をつつく。ここ、開いてほしいな。刺激を与えているうちに柔らかくなって、入れるようになるかな? ふふ、当たるのに合わせてザガンから声が漏れている。ビクン、ビクン、と小さく腰が跳ねて、おちんちんが揺れてる。可愛い、ザガン可愛い。
「ふぁ、……あ、あん、……あ、んんっ、ん――……ッ!」
だいぶ柔らかくなったみたいで、ちょっとだけ先端が結腸に入った感覚がした。直後、ザガンがまた軽くイき、きゅううと胎内を締めてくる。
結腸から抜くかどうか迷い、結局そのままザガンの様子を見守った。ザガン大丈夫? と声をかけながら太腿を撫でる。すると次第に強張らせていた身体から力が抜けていき、瞑っていた瞼を開いてきた。そして俺を見返してくる。
涙が滲んで蕩けている目とか、上気して赤らんでいる頬とか、濡れた唇から漏れている熱い吐息とか。頑張って耐えようとしているみたいだけど、ひくひく震えている身体や胎内とか。とにかく全てが艶やかで可愛くて、興奮してしまう。
「は、ん……俺は、魔力切れを起こして、気絶した、のか……?」
やっぱりそこから、わかっていなかったらしい。そんなところも可愛いなぁ。
「ふふ、ようやく思い出したんだね。思い出すまでに3回も軽くイっちゃうなんて、ザガン可愛い」
「ひっ……ぁ、あっ、あん、……んっ」
「あのあと気絶した君を抱えて、水場まで運んだんだよ。あそこにいるのは危険だったから」
説明しつつも律動を再開する。先程よりゆっくりと、でも奥に到達するたび、結腸入口に先端が嵌るように。くぽ、くぽ、くぽと規則的に突いて、さらに入口を広げていく。ザガンも奥が1番感じるみたいで、自分から刺激を求めるように腰をくねらせた。それに気持ち良さそうな顔して喘いでる。
「ザガン、俺を助けてくれてありがとう。お礼に俺の魔力をいっぱいあげるから、全部、下のお口でゴックンしてね」
「ん、あん、ん……も、起きたから、MPポーション飲めば、い……ひぅっ」
「んんっ……奥ちょっと突くだけで、中も縁もピクピクして、頑張ってしゃぶってくるよ。俺の魔力、美味しいね?」
どうやらお昼寝の時とは違い、今回は寝ぼけていた時のことをほとんど覚えていないらしい。でもザガンが中に全部出して良いと言ってくれたのは事実だし、朦朧としてたからこその本心だったはず。そうであってほしいと願いながら、ザガンが反論出来無いように動いた。
ごめんねザガン。君が大好きで、触れることを君自身に許されたと思っていたから、今更止めてほしいと言われるのは、あまりにもつらいんだ。
それにキスしたり胎内の粘膜に包まれたりと、互いの体液交換を行ったからか、ザガンの感情がなんとなくわかるんだけど……抱かれるのが恥ずかしいだけみたい。それよりも大きな感情が、気持ち良いというもの。
だからより気持ち良くなれるように、俺に恋してもらえるように動いていく。優しくゆっくりと、甘い快感に酔わせていく。
「ふぁ……あ、あん……ん、……リュカ、……ん」
くちゅんと、開きかかっている結腸入口に先端を食い込ませたら、そこで緩く腰を動かして、優しく解していく。少ししたらペニスを半ばまで抜いて、括約筋や腸壁全体に刺激を与えつつ、またゆっくりと結腸入口まで埋める。感じ入っているザガンの、頬や頭を撫でるのも忘れない。
それを何度か繰り返していると、胎内の動きが変わったように感じられた。まるで腰を引こうとしても絡み取られるような、より奥に引き込まれるような感覚。でも普通にきゅうきゅう締め付けてくる腸壁の感触は、そのままある。
どういうことだろう? もしかして属性によるものかな。相性良いと、そういうことも起こるらしいし。とにかく腸液がきちんと分泌されるくらいには、魔力が回復したらしい。
「あんん……、リュカ、リュカ……あう、ん……っ」
「はぁ、すごい……ザガンが、闇属性だからかな。ザガンの柔らかな胎内とか、魔力に絡み付かれていると、すごく刺激されて……んん、そろそろ……っ、出る」
ザガンのお腹を、俺の精液でいっぱいに満たしたい。もっともっと俺のものになってほしい。だから細い腰を掴んで、ペニスを奥まで埋めていく。
ただイきたい衝動に駆られすぎたせいか、それともザガンの魔力に引っ張られたからか。あるいは緩んでいただけかもしれないが、ずぬっと、結腸奥までペニスが入ってしまった。
「は、ぁ……、ん――……ッ!」
根本まで胎内に包まれ、ペニス全体をきゅうきゅう絞られる。あまりの快感に腰どころか全身が震えるし、射精せずにはいられなかった。
ビュルルルと勢いよく精液が出ていく。溜まっていたものか無くなっていく感覚に、何度も吐息が漏れる。
「ッ――――~~……♡!」
俺の射精に呼応するように、ザガンもイっていた。全身を強張らせて、時々大きな快感の波に攫われているのか、ビクンッと腰が跳ねる。
「ッ……っ、――――あ、あ、っ……! あ、あう……っ」
「は、すご……ザガンのお尻、すごく締め付けてくる。搾られてる。とても、気持ち良いよ」
すさまじい快楽に感動で胸が震えるし、根元まで受け入れてくれたのも嬉しくて、愛おしくて。抱き締めて頭を撫でつつ、腸壁に精液を塗りこめようと、小刻みに腰を動かした。まだまだ魔力に変換されて吸収されるだろうけど、短時間でもザガンの胎内で俺の精子が暴れていると考えると興奮するし、さらに愛しさが募る。
「ふぁっ……あ、ぁん……う……」
「ふふ。俺に種付けされながら、ぬちぬち掻き混ぜられるの、気持ち良いね?」
「ひ……、ぁ……あんぅ……う」
ザガンにも想像してほしくて、わかりやすく伝わりやすそうな、かつ羞恥を煽るような言葉をあえて選んだ。すると予想通り困惑げに眉を下げるし、頬の赤みが増した。それでいて喘ぎながらも、じっと俺を見つめてくる。
その眼球に、薄っすらとハートが浮かんでいた。ザガンの回復してきた魔力が、快感に喜んでいる証拠である。あぁもう可愛い、ザガンすごく可愛い。
「あ、ぅ……リュカ、おれ、おれ……」
「うんうん、ザガンのお尻、きゅんきゅん甘噛みしてくるよ。エッチなこと言われて感じちゃうの、ホント可愛いなぁ。ねぇ気付いてる? 蕩けて目にハートが浮かんでるし、舌も出ちゃってるよ。ふふ、キスしてほしいんだね。もちろんいっぱいしてあげる。ほら、ちゅー」
もの足りなさそうに開いている唇にちゅっとキスして、そのまま深く合わせて、舌を絡めていく。艶かしい感触が気持ち良くて、舌先から快感が湧いてくる。
「ふ、ぁ……ん、んむ……ん、ん」
「ん、ザガン……ん、ふ……」
どうしようもなく愛しくて、欲しくて、何度も何度も掬うようにザガンの舌を舐めた。舌先同士を合わせて、ちろちろ動かしたり。舌先がすごく感じるのか、抱き締めている身体が大きく震えたので、宥めるように舌裏を舐めたり。
そのうち唾液が溜まると、ザガンが喉を鳴らして飲んでくれた。可愛くて、唇を合わせた状態でも、ふふっと声が漏れてしまう。
大きな刺激は与えないようにしながらキスを堪能していると、だんだん苦しくなってきたのか、ザガンから熱い吐息が伝わってきた。なのでちゅうと舌先を吸い、舌裏を舐めてから、そっと唇を離す。するとザガンは、呼吸を整えようとはふはふ吐息を零す。
「ふ……はぁ、ん……は……、はじめて……なのに、こんな」
「大丈夫、もう初めてじゃないよ。ザガンが気絶している時に、いっぱいキスしたから」
ポーションを理由にザガンから望んでくれたんだけど、やっぱり覚えてないんだね。ふふ、ちょっとだけ眉間が寄っている。彼の表情が動くのは初めてで、拗ねているのも伝わってきて、愛しさが溢れる。
侘びを込めてザガンの顎に伝っていた唾液を拭ったあと、抱き締めていた腕を離して、ザガンの股間が見えるくらいに上体を起こした。
「童貞おちんちんも、いっぱい舐めたよ。魔力が枯渇していて勃ちはしなかったけど、気持ち良さそうに腰をくねらせていて、すごく可愛かった。うん……まだ勃たないね。射精もしてないし。やっぱり1回出しただけじゃ、回復しないか。指先は、だいぶあったかくなってるけど」
いまだ勃起しないおちんちんを揉んで確認したあと、ザガンの手を取ると、こちらは熱が戻っていた。ホッとして指先にキスしたら、互いの指を絡めていき、きゅっと握る。
本当はすでに2回射精してたけど、覚えていないなら、このまま黙っておこう。中に入れただけでイっちゃったなんて格好悪いこと知られたくないし、自己回復不可能なほど魔力が欠乏していて死にそうだったことも、わざわざ伝える必要は無い。俺が抱いたから命が助かったなんて、下手すれば当て付けになるようなこと、知らないままで良い。
君が大好き――この想いだけが、繋いでいる指先から伝われば良いから。
ちなみにザガンは、理由はわからないけど、とにかく困惑しているみたい。けれどじっと見つめてくる双眸には相変わらずハートが浮かんでいるし、もっとエッチしたそうに腰を撓らせている。もしかして、そんな自分に困惑しているのかな。ホント可愛いなぁ。
「大丈夫、まだザガンの中にいてあげる。ちゃんと勃起するようになるまで、いっぱいエッチしようね」
ちゅっと唇にキスしたら、また腰を動かし始める。そうしてゆっくりと、ザガンとのエッチを堪能した。
「……ん……、……」
意識は浮上したけど、まだ瞼は開きそうになくて微睡んでいると、何かを抱いていることに気付いた。触れているのが気持ち良いし、顔を寄せると、良いニオイが鼻腔を擽る。なんだろう?
眠気に逆らってどうにか目を開けると、黒いものがあった。黒い……あぁ髪だ。ザガンの綺麗な黒髪。愛しい人を抱いていることがとても嬉しくて、頬が緩む。背中から抱き締めている状態で顔が見えなかったので、少しだけ身体を起こしてザガンの顔を確かめてみると、まだぐっすり眠っていた。ふふ、寝顔可愛いな。
昨日はたくさん、エッチした。指先まであったかくなったあとも結腸奥にたくさん射精したし、魔力が完全回復してからも出して、ザガンのお腹を俺の精液でたぷたぷにした。魔力が回復したことで童貞おちんちんが勃起して射精するようになったの、本当に可愛かった。
それとエッチな言葉に反応して、魔力の黒くて小さいハートを飛散させるものだから、ついつい言葉でも苛めちゃった。恥ずかしそうに瞳を潤ませるし、胎内の蠕動が激しくなるのも可愛い。
結局ザガンが疲れて眠るまでして、身体を綺麗に拭いたあとは、俺もすぐに眠った。大好きなザガンを抱き締めながら。本当にすごく幸せだったし、今もすごくすごく幸せだ。
「ザガン、大好き」
再び横になり、彼の後頭部にキスをする。そしてザガンと密着するように引き寄せたら、彼の下腹部に掌を置いた。ここから俺の魔力が感じられる。まだザガンの胎内に、俺の精液が溜まっている。それが嬉しくて、愛しくて、ふふっと笑みが零れていく。
その震えが抱いているザガンの身体に響いてしまったのか、ザガンが微かに声を漏らした。目を瞑って息を潜めていると、ちょっと頭が動いたり、抱き締められているのを確認するみたいに身動ぎしたり。
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イタズラ心が湧いて、お腹に置いていた手を可愛いおちんちんへ移動させ、軽く揉んでみる。するとザガンはふるりと震えて、逃げるように横になって身体を丸めた。可愛い反応が愛しくて、晒されたうなじへと、ちゅっとキスをする。
「ザガン、起きたんだね。おはよう」
「……、…………おはよう」
戸惑いがちに、それでもきちんと返答してくれたザガン。諦めかけていた愛しい人と、こんなふうに朝の挨拶が出来るようになれた事実がどうしようもなく嬉しくて、やっぱり小さく笑ってしまう。ザガンからも嬉しい気持ちが伝わってくるから、相乗効果でさらに嬉しくなる。
独りじゃない朝が嬉しい、俺に包まれているのが心地良い、そんな可愛らしい感情。
「ザガンの中から、まだ俺の魔力が感じられるよ。しばらくは光に浸されたままだね」
「……そうだな」
再び下腹部を掌で覆いつつ、お腹の中からも俺を感じられるよねと知らせてみたら、普通に肯定された。もっと遠回しな言葉を使ってくると思っていたので驚いたけど、でも素直なザガンも可愛い。俺に身を委ねて、リラックスしているのも可愛い。
もっとザガンに触りたいな。なんなら朝からエッチしたい。昨日たくさんしたけど……駄目かな? 朝だからと咎められたものの俺から離れる様子は無いので、官能を煽るようなエッチな言葉をかけて愛撫すれば、なし崩しで許可してもらえそうな気がするんだけど。
でも頬にキスして、アナルに指を入れようとしたところで、ザガンのお腹からぐうぅぅと音が聞こえてきた。思わず動きを止めてしまったし、ザガンと見合わせてしまう。
「…………腹が減った」
「ふ……あははっ。そうだよね。何時間もエッチしたし、そのまま寝ちゃって夕食取ってないものね」
いつも通りの無表情と、淡々とした声。でもちょっと申し訳無さそうなのが伝わってきて、それが本当に可愛くて、つい声に出して笑ってしまった。もう、ホント好き。
ということで起きる準備をしたら、ザガンが外に小さなテーブルセットと弁当を出してくれたので、一緒に朝食を食べた。森林に囲まれた小さな泉を風景に、ザガンと朝からゆっくり過ごせるなんて、とても贅沢で幸せな時間である。彼の入れてくれたコーヒーも、相変わらず美味しい。
でも一緒に行動しないかという提案は、却下されてしまった。仲間と合流するまでで良いからと頼んでも、首を横に振られてしまう。わかってる。理由はわかっているけど、どうしてもザガンとずっと一緒にいたくて、引き留めてしまう。
「やっぱり別行動じゃないと駄目?」
「駄目だ。お前の仲間達は、俺を恐れているだろう。そんな連中に一緒にいるところを見られて、また喧嘩を売られたら面倒だ。それに、俺は独りが良い」
「またそんな寂しいことを言って。俺はザガンと一緒にいたいのに」
「王子という自覚を持て。ダンジョン攻略に参加している者達は冒険者か騎士か魔導師であり、ほとんどの者が俺を闇属性だと知っている。貴族出身の連中に、共にいるところを見られたら厄介だろう」
「そうだね、貴族社会はいろいろ面倒だから。特に俺は光属性だから、期待してくる人が多いし。君といたら、何を言われるか。……いっそ片っ端から潰そうかな」
ザガンといられない社会に、価値なんてあるの? と酷いことを考えてしまい、ポロッと言葉に出してしまう。すると当然のように窘めてくるザガン。
「止めろ。闇属性が悪とされているのは昔からだ。人の意識は、そう簡単には変わらない。それに闇属性達が、多くの人間を殺しているのは事実だろう」
「ザガンは悪くないじゃない」
「悪いのさ。同じ闇属性だからな」
その言葉に、心臓がギュッと締め付けられる。ザガンのあまりにも高潔で強靭な精神に触れると、どうしても涙が出そうになる。君が圧倒的強者であるほど、切なくて悲しくて、胸が張り裂けそうになるんだ。
何も言えなくなってしまい、代わりにきつく君を抱き締める。するとポンポンと優しく背中を叩かれた。
「街で歩くぶんには平気だ。民間人のほとんどは、Sランク冒険者に闇属性がいることを知っていたとしても、その外見までは知らない。髪を隠している限りは闇属性だとバレない。だから街での依頼ならば、今まで通り付き合ってや……らなくもない」
「ザガン……。ふふ、相変わらず素直じゃないなぁ。そこが可愛いんだけど。それじゃあ、今度またデートしようね」
腕を緩めてザガンの頬にキスすると、ぱちぱち瞬きして俺を見返してくる。なんだか驚いてるみたい? とにかく可愛くて、唇にもキスしようとしたら、手で塞がれてしまった。しかも身体を押して、距離を取られてしまう。
「つれないなぁ」
「うるさい。俺はもう行く。じゃあなリュカ」
「うん、気を付けて」
照れちゃって可愛いと思ったけれど、指摘はせずに、行こうとするザガンに手を振る。するとザガンはコクリと頷いてから背を向けて、歩き出した。独りで生きようとする彼が、振り返ってくることはない。
そんなザガンの遠ざかっていく背を見守りながら、ふぅと息を吐く。
もしも。もしも俺が王子であることを辞めて、なんの責任も負わない自由な身になれば、今すぐ君と一緒にいられるようになるのだろうか? 2人きりで、いろんなところに行けるのか……なんて、そんなこと出来るはずないけれど。
俺は王の直系血族であり、次代の王弟である。王家の人間として国民を守るという義務を科せられている代わりに、彼らからの税を贅沢に消費しながら生きてきた。そして20歳過ぎて見習い騎士を卒業して、ようやく責任を果たせるようになったのだ。
約1億の国民に支えられている者として、身分を捨てるなんて絶対にしてはならない。ソレイユ王国第2王子として、我がソレイユの民を、決して裏切ってはならない。
でもずっと果たせなかった。邪神を倒したあと、何故かタイムリープして。何度目かでここは現実世界じゃないと勘違いしてしまい、絶望して。幾度となく同じ時間を繰り返しているうちに、タイムリープから抜け出したいという願望以外が、おざなりになっていた。いつしか国民の命が軽いものになっていた。
誰がどこで死のうと、どうせタイムリープしたらみんな何も無かったように生きている。どれだけザガンの亡骸を回収しても、数ヶ月後にはまた生きた君に会える。だってここは、夢幻だから。
ループから抜け出すことだけが目的となり、ひたすら足掻いて、足掻いて、足掻き続けた。その期間の自分は、正直誇れるものじゃない。でも結果として運命の歯車が大きく変動して、再び赤子からやり直すことになった。
そうして改めて王族としてあるべき姿を学んで、ザガンと出会い、ここが現実だと判明した今。ようやく、思い出したんだ。俺は王子として、国を、国民を守る為に、自分に科せられた責任を必ず果たさなければならないと。
今度こそ、全てを守ろう。第9都市も王都も。何よりザガンを、絶対に死なせない。必ず闇組織から守ってみせる。第9都市のマニフィーク公爵と無事交流を深められたので、きっと上手くいくはずだ。
もちろん最大の問題であるタイムリープだって確実に止めるし、邪神を倒して闇属性への差別も無くしていく。君と一緒に生きられる未来を掴めるよう、努力するから。
「だからどうか、俺を好きになってね、ザガン」
木陰に隠れてしまい見えなくなった君に、この言葉が風に乗って届く……のは無理だけど。でも近いうちに必ず告白するし、どんどんアプローチしていくつもりだ。次はいつ会えるかな。デートはどこに誘おう?
でもまずはダンジョン攻略を進める為に、仲間達と合流しなければならない。みんな度胸があるので、崩落した3階層分はそのまま穴から下りてくるだろう。そこからこの自然階層に繋がる階段も、さほど遠くない場所にある。あとは青空に穴が空いてる下を目指せば良いだけなので、もしかしたらすでに待っているかもしれない。
世界の力が満ちている清々しい青空の下、大きく伸びをしたあと、よしっと呟いて気合を入れる。そしてザガンとは別方向へと、歩を進めた。
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