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(25)俺という男に出来ること
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彼女の家を出て数日。葬式同様に淡々と作業のようにことが進み、墓に納まった父親に線香を上げて手を合わせる。
案の定この時とばかりに、親戚連中が財産目当てに色めき立ってまとわりついてきたが、そうなることが分かってたから、俺は正式な手続きを踏んで遺産を全て寄付に回すことにした。
俺の行動を身勝手だと罵られたが、事実上絶縁状態にあって見下してた存在に遺産が渡ると分かった瞬間、綺麗に手のひらを返して、その糞に集るしか出来ない哀れな奴らに同情した。
(俺はあんな物が欲しかった訳じゃない)
結局俺は、なんでも後になって気付いて後悔ばかりしている。
もう多分来ることがない墓にもう一度手を合わせると、俺の態度次第で変えられた景色もあったのかも知れないと、もう聞くことの出来ない声を思い出そうとしてやめた。
ホテルに戻って着替えもせずにベッドに倒れ込むと、疲れが溜まってたからか、意識を手放してすぐ泥のように眠った。
「ん、やべ。今何時だ」
暗い部屋に夜景の灯りが入り込んで、歪な影が伸びた天井が目に入る。その光景に、それはここしばらく見慣れた天井じゃなくて、ここがホテルなんだと嫌でも思い知らされた。
ベッドから起き上がって水を飲むと、ソファーに座ってテレビをつける。
リモコンを手に取ろうとして、テーブルに置かれたまま電源が落ちたスマホが目に入って手を伸ばす。
今更彼女から連絡があるとは思えない。だけど女々しい気持ちが拭えずに、スマホを充電して電源が入るのを待つ。
どうしたって、別れ際の彼女の悲しそうな顔が頭の中にこびりついてる。
『一稀さん私、ごめんなさい』
あんな顔をして何か言おうとした彼女の言葉を遮ったのは、他の誰でもない狭量な俺自身なのに、そのくせ本当に縁が切れるのが惜しくて、最後の最後であの唇にキスをした。
人を好きになるのに大きな理由はない気がする。恋なんて気が付けば落ちてるもんだと、彼女のおかげで身をもって体験した。
だってそうじゃないか。すぐに家から追い出すつもりだったからって、ゴミ捨て場に全裸で捨てられるような男を拾って、何も聞かずに風呂や飯まで与えてくれた。
俺が吐いた嘘を信じてなくても受け入れて、ないと不便だからってスマホまで持たせてくれて、馬鹿正直に万札の入った可愛らしい封筒を毎朝テーブルに置いていく。
俺が作った飯を美味そうに食って、床に寝かせられないって、奮発して買ったらしいマットレスのシングルベッドを毎晩譲ってくれる。
思い出せば出すほど、彼女が恋しくて仕方ない。
(奏多……なーたん。あの子に会いてえな)
スマホの電源を入れると、縋るような気持ちで通知を確認する。
「はは、まあそうだよな」
結果はゼロ。そんな都合よくことが運ぶ訳がないと分かっていても、心がギュッと苦しくなった。
無性にタバコが吸いたくなって部屋を出ると、コンビニに立ち寄ってタバコとライターを買い、出たついでに食事を済ませようと、そのまま大通りでタクシーを拾って繁華街に向かう。
イルミネーションが眩しい大通りをタクシーの窓越しに眺めると、そんな時期かと溜め息が漏れる。
(なにがクリスマスだ。浮かれやがって)
チップ代わりに多目に支払ってタクシーを降りると、忘年会で賑わう居酒屋に入って案内された喫煙席に座わり、ビールと適当なツマミを頼んでタバコに火をつける。
「ふう」
彼女が毎日のように吸っていたメンソールの香りが鼻から抜けていく。
『気遣いは嬉しいけど、本当の恋人でもない一稀さんにそこまでする権利ないでしょ』
冷淡に吐き捨てた彼女の顔を思い出すと、なぜあそこまで怒らせてしまったのか、自分の無神経さが情けなくなる。
お通しとビールが運ばれてきてタバコの火を消すと、そんなタイミングでポケットの中でスマホが震えた。
またどうせオリバーからのメールだろうと、それを無視してビールを一気に呷る。
「は、冷えてんな」
乾いた喉に炭酸が弾けて、そのくすぐったさを払うように小さく咳払いすると、割り箸を割ってお通しのしぐれ煮を口に運ぶ。
(うま。この味なーたんが好きそうだな)
食べるなり当たり前のように彼女のことが浮かんで、鼻を鳴らすような溜め息を吐いてビールを流し込む。
そこでふとポケットの中のスマホが気になった。
俺が持ち出したのは、彼女が買い与えてくれたスマホじゃなかっただろうか。確かホテルを出る時に、その直前まで触っていたスマホをポケットに突っ込んだ気がする。
慌ててポケットからスマホを取り出すと、メッセージが二件。
【ごめんなさい】
【勝手だけど、まだ間に合うなら相談に乗って欲しいです】
メッセージが意図することまでは分からないけど、俺は食うものも食わずにさっさと会計を済ませたら、店を飛び出してすぐに彼女に電話を掛けた。
「もしもし、どうしたの?なーたん」
案の定この時とばかりに、親戚連中が財産目当てに色めき立ってまとわりついてきたが、そうなることが分かってたから、俺は正式な手続きを踏んで遺産を全て寄付に回すことにした。
俺の行動を身勝手だと罵られたが、事実上絶縁状態にあって見下してた存在に遺産が渡ると分かった瞬間、綺麗に手のひらを返して、その糞に集るしか出来ない哀れな奴らに同情した。
(俺はあんな物が欲しかった訳じゃない)
結局俺は、なんでも後になって気付いて後悔ばかりしている。
もう多分来ることがない墓にもう一度手を合わせると、俺の態度次第で変えられた景色もあったのかも知れないと、もう聞くことの出来ない声を思い出そうとしてやめた。
ホテルに戻って着替えもせずにベッドに倒れ込むと、疲れが溜まってたからか、意識を手放してすぐ泥のように眠った。
「ん、やべ。今何時だ」
暗い部屋に夜景の灯りが入り込んで、歪な影が伸びた天井が目に入る。その光景に、それはここしばらく見慣れた天井じゃなくて、ここがホテルなんだと嫌でも思い知らされた。
ベッドから起き上がって水を飲むと、ソファーに座ってテレビをつける。
リモコンを手に取ろうとして、テーブルに置かれたまま電源が落ちたスマホが目に入って手を伸ばす。
今更彼女から連絡があるとは思えない。だけど女々しい気持ちが拭えずに、スマホを充電して電源が入るのを待つ。
どうしたって、別れ際の彼女の悲しそうな顔が頭の中にこびりついてる。
『一稀さん私、ごめんなさい』
あんな顔をして何か言おうとした彼女の言葉を遮ったのは、他の誰でもない狭量な俺自身なのに、そのくせ本当に縁が切れるのが惜しくて、最後の最後であの唇にキスをした。
人を好きになるのに大きな理由はない気がする。恋なんて気が付けば落ちてるもんだと、彼女のおかげで身をもって体験した。
だってそうじゃないか。すぐに家から追い出すつもりだったからって、ゴミ捨て場に全裸で捨てられるような男を拾って、何も聞かずに風呂や飯まで与えてくれた。
俺が吐いた嘘を信じてなくても受け入れて、ないと不便だからってスマホまで持たせてくれて、馬鹿正直に万札の入った可愛らしい封筒を毎朝テーブルに置いていく。
俺が作った飯を美味そうに食って、床に寝かせられないって、奮発して買ったらしいマットレスのシングルベッドを毎晩譲ってくれる。
思い出せば出すほど、彼女が恋しくて仕方ない。
(奏多……なーたん。あの子に会いてえな)
スマホの電源を入れると、縋るような気持ちで通知を確認する。
「はは、まあそうだよな」
結果はゼロ。そんな都合よくことが運ぶ訳がないと分かっていても、心がギュッと苦しくなった。
無性にタバコが吸いたくなって部屋を出ると、コンビニに立ち寄ってタバコとライターを買い、出たついでに食事を済ませようと、そのまま大通りでタクシーを拾って繁華街に向かう。
イルミネーションが眩しい大通りをタクシーの窓越しに眺めると、そんな時期かと溜め息が漏れる。
(なにがクリスマスだ。浮かれやがって)
チップ代わりに多目に支払ってタクシーを降りると、忘年会で賑わう居酒屋に入って案内された喫煙席に座わり、ビールと適当なツマミを頼んでタバコに火をつける。
「ふう」
彼女が毎日のように吸っていたメンソールの香りが鼻から抜けていく。
『気遣いは嬉しいけど、本当の恋人でもない一稀さんにそこまでする権利ないでしょ』
冷淡に吐き捨てた彼女の顔を思い出すと、なぜあそこまで怒らせてしまったのか、自分の無神経さが情けなくなる。
お通しとビールが運ばれてきてタバコの火を消すと、そんなタイミングでポケットの中でスマホが震えた。
またどうせオリバーからのメールだろうと、それを無視してビールを一気に呷る。
「は、冷えてんな」
乾いた喉に炭酸が弾けて、そのくすぐったさを払うように小さく咳払いすると、割り箸を割ってお通しのしぐれ煮を口に運ぶ。
(うま。この味なーたんが好きそうだな)
食べるなり当たり前のように彼女のことが浮かんで、鼻を鳴らすような溜め息を吐いてビールを流し込む。
そこでふとポケットの中のスマホが気になった。
俺が持ち出したのは、彼女が買い与えてくれたスマホじゃなかっただろうか。確かホテルを出る時に、その直前まで触っていたスマホをポケットに突っ込んだ気がする。
慌ててポケットからスマホを取り出すと、メッセージが二件。
【ごめんなさい】
【勝手だけど、まだ間に合うなら相談に乗って欲しいです】
メッセージが意図することまでは分からないけど、俺は食うものも食わずにさっさと会計を済ませたら、店を飛び出してすぐに彼女に電話を掛けた。
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