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(24)俺という男の女々しい本音
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俺は何か勘違いしてたらしい。
我が物顔で彼女のタバコを取り上げたら、お前に言われる筋合いはないと冷たい返事が返ってきた。
『気遣いは嬉しいけど、本当の恋人でもない一稀さんにそこまでする権利ないでしょ』
ど正論だった。だけど同時に嘘だろとしか思えなかった。
だって帰ってきて堪らずに抱き締めた時も、彼女はキラキラした目で俺を見てた。
届いたばかりのコタツに大喜びで、俺が作った料理を美味しそうに食べて、隣であんなに楽しそうに笑ってたじゃないか。
なのにああ言い放った時の顔は、心底俺を疎んじるような冷たい表情だった。
だから彼女のことが分からなくなった。俺が家を出ると言った時のあの寂しそうな、今にも泣き出しそうな顔にはどんな意味があったんだろう。
「どうしろってんだよ」
グラスに注ぐことすらやめて、ボトルに直接口をつけてウイスキーを流し込むと、今にも泣き出しそうなあの顔が、俺を責めてるみたいで苦しくなった。
酒のせいで体が熱くなって、ようやくコートを脱ぎ捨てた俺は、ポケットから飛び出したスマホと合鍵を見つめて溜め息を吐く。
元々このタイミングで俺には片付けなきゃいけない用事があった。父親の四十九日の法要だ。
彼女がスマホを買い与えてくれたことで、ビジネスに関しては手を止めずに株価の動向をチェック出来てた。それがなければとっくにここに戻って来てた。
いや、もっと早くそうするべきだった。こんなことになるくらいなら。
ベッドルームから回収したノートパソコンと、充電が切れたままのスマホにコードを挿す。
コンシェルジュから渡された伝言リストに目を通すと、俺の持ち物の充電が終わるのを待たずに、彼女から渡されてるスマホでメールを立ち上げて、自分のアカウントにログインする。
「まあ、こうなるわな」
半月近く連絡はシャットアウトしてた状態だ。事務方の仕事を任せてきたオリバーから大量に承認依頼のメールが来てる。
時間が空くと彼女のことばかり考えてしまいそうで、何がいけなかったのか、答えの出ない自問自答してしまう。
だから気を紛らわせるためにも仕事のことを考えて、彼女の気配を消してしまいたかった。
イギリスへの国際電話でオリバーのお小言を聞き、ここに残る理由なんてもうないのに、もうしばらく帰れないと告げて仕事に関する打ち合わせをする。
充電が出来た頃合いを見計らってノートパソコンを立ち上げると、溜まったメールの処理に追われた。
ただひたすら仕事のことだけを考える。俺にはそれが性に合ってて、この何日かが異常だっただけなのかも知れない。
そうこうしてるうちにすっかり空が白んで、夜通し作業をしていたことに気が付いた。
「もうそんな時間か」
いつものクセで彼女に買い与えられたスマホを手に取ってから、一切通知のない画面を見て言いようのない気持ちになった。
(俺、どうしたかったんだろう)
彼女を焚き付ける形でヒモになって、最初は興味本位で彼女のそばに居座って、傍観者として過ごしてるつもりだった。
なのに気が付けば、どんな些細なことでも見逃したくないし聞き逃したくなくて、毎日彼女の世話を焼くのが楽しくて堪らなくなってた。あの笑顔で名前を呼んでくれるから。
俺が俺として必要とされてる気がしたから。
傷付いてる自覚のない彼女を癒してやりたかった。だけど俺は知らない間に傷付けていたのかも知れない。理由までは分からないが、きっと距離の取り方を間違ったんだと思う。
俺はあくまで彼女の優しさに付け入って、ヒモとして飼われただけの男なのに。
あんなにキラキラした笑顔を向ける彼女が、俺に心を許してるのは、男として好意を持ってくれてるからだと思い始めてた。
電話越しに彼女が泣いた時、不意に名前を呼んだのも、帰ってきた彼女を抱き締めたのも、全部全部、俺に好意があるからだと勝手に思い込んでいたから。
なのに結果は違った。
赤の他人のクセに大きなお世話だと、鬱陶しそうな顔をして線を引かれた。
「何やってんだろうな、俺は」
我が物顔で彼女のタバコを取り上げたら、お前に言われる筋合いはないと冷たい返事が返ってきた。
『気遣いは嬉しいけど、本当の恋人でもない一稀さんにそこまでする権利ないでしょ』
ど正論だった。だけど同時に嘘だろとしか思えなかった。
だって帰ってきて堪らずに抱き締めた時も、彼女はキラキラした目で俺を見てた。
届いたばかりのコタツに大喜びで、俺が作った料理を美味しそうに食べて、隣であんなに楽しそうに笑ってたじゃないか。
なのにああ言い放った時の顔は、心底俺を疎んじるような冷たい表情だった。
だから彼女のことが分からなくなった。俺が家を出ると言った時のあの寂しそうな、今にも泣き出しそうな顔にはどんな意味があったんだろう。
「どうしろってんだよ」
グラスに注ぐことすらやめて、ボトルに直接口をつけてウイスキーを流し込むと、今にも泣き出しそうなあの顔が、俺を責めてるみたいで苦しくなった。
酒のせいで体が熱くなって、ようやくコートを脱ぎ捨てた俺は、ポケットから飛び出したスマホと合鍵を見つめて溜め息を吐く。
元々このタイミングで俺には片付けなきゃいけない用事があった。父親の四十九日の法要だ。
彼女がスマホを買い与えてくれたことで、ビジネスに関しては手を止めずに株価の動向をチェック出来てた。それがなければとっくにここに戻って来てた。
いや、もっと早くそうするべきだった。こんなことになるくらいなら。
ベッドルームから回収したノートパソコンと、充電が切れたままのスマホにコードを挿す。
コンシェルジュから渡された伝言リストに目を通すと、俺の持ち物の充電が終わるのを待たずに、彼女から渡されてるスマホでメールを立ち上げて、自分のアカウントにログインする。
「まあ、こうなるわな」
半月近く連絡はシャットアウトしてた状態だ。事務方の仕事を任せてきたオリバーから大量に承認依頼のメールが来てる。
時間が空くと彼女のことばかり考えてしまいそうで、何がいけなかったのか、答えの出ない自問自答してしまう。
だから気を紛らわせるためにも仕事のことを考えて、彼女の気配を消してしまいたかった。
イギリスへの国際電話でオリバーのお小言を聞き、ここに残る理由なんてもうないのに、もうしばらく帰れないと告げて仕事に関する打ち合わせをする。
充電が出来た頃合いを見計らってノートパソコンを立ち上げると、溜まったメールの処理に追われた。
ただひたすら仕事のことだけを考える。俺にはそれが性に合ってて、この何日かが異常だっただけなのかも知れない。
そうこうしてるうちにすっかり空が白んで、夜通し作業をしていたことに気が付いた。
「もうそんな時間か」
いつものクセで彼女に買い与えられたスマホを手に取ってから、一切通知のない画面を見て言いようのない気持ちになった。
(俺、どうしたかったんだろう)
彼女を焚き付ける形でヒモになって、最初は興味本位で彼女のそばに居座って、傍観者として過ごしてるつもりだった。
なのに気が付けば、どんな些細なことでも見逃したくないし聞き逃したくなくて、毎日彼女の世話を焼くのが楽しくて堪らなくなってた。あの笑顔で名前を呼んでくれるから。
俺が俺として必要とされてる気がしたから。
傷付いてる自覚のない彼女を癒してやりたかった。だけど俺は知らない間に傷付けていたのかも知れない。理由までは分からないが、きっと距離の取り方を間違ったんだと思う。
俺はあくまで彼女の優しさに付け入って、ヒモとして飼われただけの男なのに。
あんなにキラキラした笑顔を向ける彼女が、俺に心を許してるのは、男として好意を持ってくれてるからだと思い始めてた。
電話越しに彼女が泣いた時、不意に名前を呼んだのも、帰ってきた彼女を抱き締めたのも、全部全部、俺に好意があるからだと勝手に思い込んでいたから。
なのに結果は違った。
赤の他人のクセに大きなお世話だと、鬱陶しそうな顔をして線を引かれた。
「何やってんだろうな、俺は」
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