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(26)今度こそ間違えないように
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身勝手だとは分かってるけど、私は悩んだ末に一稀さんにメッセージを送ることにした。
親から今年はいつ帰って来るのかと連絡が来て、話の流れでそろそろ恋人に合わせて欲しいと遠回しに言われてしまった。
彼氏とは別れたんだって本当のことを言えば、悲しませるだろうけどそれで終わったのに、脳裏に一稀さんの姿が過ぎって返事をするのが一拍遅れた。
元彼と結婚の予定があったとかそんな話はしてないけど、私の年齢を考えれば、老いた両親が焦れる気持ちも理解出来た。
相談してみる。だから気が付いたらそう答えてた。
「何してんだろ私」
電話を切ってホルダーに戻すと、リビングに鎮座したコタツを見つめて頭を抱える。
今更謝っても受け入れて貰えないだろう。元々一稀さんの気ままで話を受け入れてもらっていただけで、私なんかのヒモだなんて馬鹿げてる。
口約束の契約で恋人のフリを頼んだけど、一稀さんにはなんのメリットもないことだ。なのに合鍵を持って行ったままの彼に縋るような思いでメッセージを打った。
【ごめんなさい】
【勝手だけど、まだ間に合うなら相談に乗って欲しいです】
電話を掛けなかったのは、他の女の人と過ごしてたらって想像したから。
それに、スマホが既に解約されてるような気がして、コールの鳴らない状況に耐えられる自信がなかった。
メッセージがエラーにならないから、多分まだスマホは解約されていないと思う。だけど電源が入っていなければ、このメッセージには気付いてもらえない。
既読にならないメッセージを見つめながら、やっぱり一稀さんを頼ったのはあまりにも自分勝手な気がして、送信を取り消そうと画面をタップした瞬間に既読の文字が表示される。
遅かった。一稀さんの目に留まってしまった。
そんな後悔に苛まれていると、返信よりも先に着信があって、画面に表示される本条一稀の文字に動揺する。
「……もしもし」
なんとか震えずに声を出すことが出来た。
『もしもし、どうしたの?なーたん』
ザワザワして賑やかなのは、今外に居るってことだろうか。
「こんばんは。今大丈夫なんですか」
『なんか他人行儀じゃない?』
「あ、うん。ごめん」
『で、どうしたの。俺なんかで乗れる相談なら話聞くよ』
相変わらず優しくてあったかい声に、後悔と嬉しさで涙が出そうになって、私は鼻を啜りながら話を切り出す。
「あのね、正月に実家に帰って来いって言われてて」
『ああ、親御さんかな』
「私やっぱり、彼氏と別れたって言い出せなくて」
『良いよ』
「え?」
まだ何も言ってないのに、まるで電話の向こうで微笑んでる様子の優しい声が返ってくる。
『なーたんのご両親に会えばいいんでしょ。何か好物とかあるなら買って行った方が良いかな』
「本当にいいの?」
『当たり前じゃん。俺なーたんの恋人だし』
お願いしたのはフリなのに、一稀さんはどこまでも優しい。
甘えちゃいけないと思うのに、声を聞いているだけで安心して心が落ち着く。嘘の関係のままで良いから、この人のそばに居たい。
「じゃあ、お願いして良いかな」
『もちろんだよ。でもごめん、ちょっとバタバタして立て込んでるからすぐには帰れない。なーたん、実家にはいつ帰るの』
冬季休暇の日程を伝えて、毎年三が日辺りまでゆっくりして実家で過ごすことになってると続ける。
「ずっと一緒じゃなくても良いの。そのうちの1日だけ、挨拶程度に顔を出してくれれば」
『そんな寂しいこと言わないでよ。プチ旅行だね、色々準備しないと』
いつも通り優しい一稀さんの声に、いよいよ我慢できなくて涙が溢れて来る。
「ご、ごめっ。わた、し、あんな、酷いこと、言って。なのに、一稀さん、怒らないの?」
『怒ってるよ。だから家に帰ったら覚悟しときなよ』
「んっ、ごめっ、ん。ごめんな、さい」
『もう、泣かないでよ。出来るだけすぐ片付けて家に帰るから、ね。なーたん。泣き止んでよ』
「んっ、ん。分かった」
それから少しだけたわいない世間話をすると、一稀さんは私が泣き止んだのを確認してから、落ち着かせるように優しい声ですぐ行くねと言って電話を切った。
親から今年はいつ帰って来るのかと連絡が来て、話の流れでそろそろ恋人に合わせて欲しいと遠回しに言われてしまった。
彼氏とは別れたんだって本当のことを言えば、悲しませるだろうけどそれで終わったのに、脳裏に一稀さんの姿が過ぎって返事をするのが一拍遅れた。
元彼と結婚の予定があったとかそんな話はしてないけど、私の年齢を考えれば、老いた両親が焦れる気持ちも理解出来た。
相談してみる。だから気が付いたらそう答えてた。
「何してんだろ私」
電話を切ってホルダーに戻すと、リビングに鎮座したコタツを見つめて頭を抱える。
今更謝っても受け入れて貰えないだろう。元々一稀さんの気ままで話を受け入れてもらっていただけで、私なんかのヒモだなんて馬鹿げてる。
口約束の契約で恋人のフリを頼んだけど、一稀さんにはなんのメリットもないことだ。なのに合鍵を持って行ったままの彼に縋るような思いでメッセージを打った。
【ごめんなさい】
【勝手だけど、まだ間に合うなら相談に乗って欲しいです】
電話を掛けなかったのは、他の女の人と過ごしてたらって想像したから。
それに、スマホが既に解約されてるような気がして、コールの鳴らない状況に耐えられる自信がなかった。
メッセージがエラーにならないから、多分まだスマホは解約されていないと思う。だけど電源が入っていなければ、このメッセージには気付いてもらえない。
既読にならないメッセージを見つめながら、やっぱり一稀さんを頼ったのはあまりにも自分勝手な気がして、送信を取り消そうと画面をタップした瞬間に既読の文字が表示される。
遅かった。一稀さんの目に留まってしまった。
そんな後悔に苛まれていると、返信よりも先に着信があって、画面に表示される本条一稀の文字に動揺する。
「……もしもし」
なんとか震えずに声を出すことが出来た。
『もしもし、どうしたの?なーたん』
ザワザワして賑やかなのは、今外に居るってことだろうか。
「こんばんは。今大丈夫なんですか」
『なんか他人行儀じゃない?』
「あ、うん。ごめん」
『で、どうしたの。俺なんかで乗れる相談なら話聞くよ』
相変わらず優しくてあったかい声に、後悔と嬉しさで涙が出そうになって、私は鼻を啜りながら話を切り出す。
「あのね、正月に実家に帰って来いって言われてて」
『ああ、親御さんかな』
「私やっぱり、彼氏と別れたって言い出せなくて」
『良いよ』
「え?」
まだ何も言ってないのに、まるで電話の向こうで微笑んでる様子の優しい声が返ってくる。
『なーたんのご両親に会えばいいんでしょ。何か好物とかあるなら買って行った方が良いかな』
「本当にいいの?」
『当たり前じゃん。俺なーたんの恋人だし』
お願いしたのはフリなのに、一稀さんはどこまでも優しい。
甘えちゃいけないと思うのに、声を聞いているだけで安心して心が落ち着く。嘘の関係のままで良いから、この人のそばに居たい。
「じゃあ、お願いして良いかな」
『もちろんだよ。でもごめん、ちょっとバタバタして立て込んでるからすぐには帰れない。なーたん、実家にはいつ帰るの』
冬季休暇の日程を伝えて、毎年三が日辺りまでゆっくりして実家で過ごすことになってると続ける。
「ずっと一緒じゃなくても良いの。そのうちの1日だけ、挨拶程度に顔を出してくれれば」
『そんな寂しいこと言わないでよ。プチ旅行だね、色々準備しないと』
いつも通り優しい一稀さんの声に、いよいよ我慢できなくて涙が溢れて来る。
「ご、ごめっ。わた、し、あんな、酷いこと、言って。なのに、一稀さん、怒らないの?」
『怒ってるよ。だから家に帰ったら覚悟しときなよ』
「んっ、ごめっ、ん。ごめんな、さい」
『もう、泣かないでよ。出来るだけすぐ片付けて家に帰るから、ね。なーたん。泣き止んでよ』
「んっ、ん。分かった」
それから少しだけたわいない世間話をすると、一稀さんは私が泣き止んだのを確認してから、落ち着かせるように優しい声ですぐ行くねと言って電話を切った。
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