80 / 235
アフェッツオーソ
80話
しおりを挟む
花に対しては常に嘘をつかず、そして花に嘘は通じないと、両者の根底に存在している。ならば思いのたけをすべて吐き出すのが得策である。その意を読み取り、ベルは気後れながらも小さく述べる。
「あの……マスフラワーにカンパニュラで『感謝』、とか。あと、ピンクのカスミソウをフィラフラワーに『感激』を――」
「ストレートだな。二球続けて速球ときたか。最後の球はなんだ、変化球か?」
「通りのお菓子屋さんで見つけた、焼き菓子の詰め合わせに使われてたハート型のバス……」
バスケット、そう言いかけて口を濁す。聞き手の二人が一様に渋い顔を作っているのが目に入ったのである。
「……そうか」
「……三球続けてストレート……で、でも、ベル先輩らしいといえばらしいです! 僕だって、直球ばかりの場合もよくありますから!」
「ありがと……でもなんか、泣けてきそう……」
あえてそれ以上言及しないベアトリス、すかさずフォローを入れるシャルル。その二種類の優しさが違う角度から胸に突き刺さり、またも涙腺を刺激しかねない、とベルは念のため目元を抑えた。自分のレパートリーの程度は知れていたはずだが、実際に考えるとなると熟練にはやはり敵わない。
「気にするな。ストレートのみでも、高め低めと振り分ければそれだけで三振は取れるものだ。変化球など、ストレートを生かすための布石にすぎん」
それはおそらく勇気付けようとするベアトリスの例え話なのであろう。ベルが打たれ弱いであろうということはすでに把握している。それゆえ少し自分も力を弱めねば、ということを思ってやったわけではない。ただ単に「また泣かれると困るから」という裏である。
「野球、詳しいんですね。球種とかあたしはさっぱりです」
ルールすらよく知らないスポーツのことなのでちゃんと理解できていないのだが、とりあえず自分を慰めてくれているのだとベルは捉えた。
サッカーは国民的なスポーツであり、グラウンドはどんな小さな町でも数個保持するほどの国である。だが野球に限っては周辺諸国も含め人気があるとは言えないものである。それも女性であり、お世辞にもスポーツをやるのには体型を考慮すると向いているとは言えないベアトリスが詳し気に語る姿は新鮮であった。
「これくらい常識だ」
「なんでか姉さん、自分がやらないことに詳しかったりするんです。あまり気にしないでください」
「そうだ。お前が今考えるのは、どんなアレンジにするか、だ。ボールの握り方による空気抵抗の差ではない」
「はい……」
自らが振った話の種で多少のズレが生じてしまったことに気付き、ベルはうなだれる。そしてまだまったくと言っていい程アレンジは形になっておらず、明日まで時間があると言っても焦燥感が募り始め、歯噛みをする。そこから数度アイディアを出してみるが、これといった良案が浮かび上がるわけでもない。その度に入るシャルルのフォローが心に痛みを与える。
早い煮詰まりを見越し、ベアトリスが場所をリビングでもある奥の部屋に移し、なにか飲みながらでも考えるように提議、それが可決される。
普通よりも多少多めのミルクを加えたカフェ・クリームにカリソンを用意してかなり遅めのティータイムを楽しむ。当然用意したのはシャルルである。
しかしそれでも光明を見出せずにベルは閉口したままとなる。
それを打破するためにベアトリスは一つの策を出す。面倒見がいいと言えなくもないのは、こういった行為からなのか。
「あの……マスフラワーにカンパニュラで『感謝』、とか。あと、ピンクのカスミソウをフィラフラワーに『感激』を――」
「ストレートだな。二球続けて速球ときたか。最後の球はなんだ、変化球か?」
「通りのお菓子屋さんで見つけた、焼き菓子の詰め合わせに使われてたハート型のバス……」
バスケット、そう言いかけて口を濁す。聞き手の二人が一様に渋い顔を作っているのが目に入ったのである。
「……そうか」
「……三球続けてストレート……で、でも、ベル先輩らしいといえばらしいです! 僕だって、直球ばかりの場合もよくありますから!」
「ありがと……でもなんか、泣けてきそう……」
あえてそれ以上言及しないベアトリス、すかさずフォローを入れるシャルル。その二種類の優しさが違う角度から胸に突き刺さり、またも涙腺を刺激しかねない、とベルは念のため目元を抑えた。自分のレパートリーの程度は知れていたはずだが、実際に考えるとなると熟練にはやはり敵わない。
「気にするな。ストレートのみでも、高め低めと振り分ければそれだけで三振は取れるものだ。変化球など、ストレートを生かすための布石にすぎん」
それはおそらく勇気付けようとするベアトリスの例え話なのであろう。ベルが打たれ弱いであろうということはすでに把握している。それゆえ少し自分も力を弱めねば、ということを思ってやったわけではない。ただ単に「また泣かれると困るから」という裏である。
「野球、詳しいんですね。球種とかあたしはさっぱりです」
ルールすらよく知らないスポーツのことなのでちゃんと理解できていないのだが、とりあえず自分を慰めてくれているのだとベルは捉えた。
サッカーは国民的なスポーツであり、グラウンドはどんな小さな町でも数個保持するほどの国である。だが野球に限っては周辺諸国も含め人気があるとは言えないものである。それも女性であり、お世辞にもスポーツをやるのには体型を考慮すると向いているとは言えないベアトリスが詳し気に語る姿は新鮮であった。
「これくらい常識だ」
「なんでか姉さん、自分がやらないことに詳しかったりするんです。あまり気にしないでください」
「そうだ。お前が今考えるのは、どんなアレンジにするか、だ。ボールの握り方による空気抵抗の差ではない」
「はい……」
自らが振った話の種で多少のズレが生じてしまったことに気付き、ベルはうなだれる。そしてまだまったくと言っていい程アレンジは形になっておらず、明日まで時間があると言っても焦燥感が募り始め、歯噛みをする。そこから数度アイディアを出してみるが、これといった良案が浮かび上がるわけでもない。その度に入るシャルルのフォローが心に痛みを与える。
早い煮詰まりを見越し、ベアトリスが場所をリビングでもある奥の部屋に移し、なにか飲みながらでも考えるように提議、それが可決される。
普通よりも多少多めのミルクを加えたカフェ・クリームにカリソンを用意してかなり遅めのティータイムを楽しむ。当然用意したのはシャルルである。
しかしそれでも光明を見出せずにベルは閉口したままとなる。
それを打破するためにベアトリスは一つの策を出す。面倒見がいいと言えなくもないのは、こういった行為からなのか。
0
あなたにおすすめの小説
後宮薬師は名を持たない
由香
キャラ文芸
後宮で怪異を診る薬師・玉玲は、母が禁薬により処刑された過去を持つ。
帝と皇子に迫る“鬼”の気配、母の遺した禁薬、鬼神の青年・玄曜との出会い。
救いと犠牲の狭間で、玉玲は母が選ばなかった選択を重ねていく。
後宮が燃え、名を失ってもなお――
彼女は薬師として、人として、生きる道を選ぶ。
妻が通う邸の中に
月山 歩
恋愛
最近妻の様子がおかしい。昼間一人で出掛けているようだ。二人に子供はできなかったけれども、妻と愛し合っていると思っている。僕は妻を誰にも奪われたくない。だから僕は、妻の向かう先を調べることににした。
サイレント・サブマリン ―虚構の海―
来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。
科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。
電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。
小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。
「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」
しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。
謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か——
そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。
記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える——
これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。
【全17話完結】
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
存在しないことにされていた管理ギフトの少女、王宮で真の家族に出会う 〜冷遇された日々は、王宮での溺愛で上書きします〜
小豆缶
恋愛
「願った結果を、ほんの少しだけ変えてしまう力」
私に与えられたギフトは、才能というにはあまりにも残酷な自分も人の運命も狂わせるギフトだった。
そのあまりの危うさと国からの管理を逃れるために、リリアーナは、生まれたことそのものが秘匿され、軟禁され、育てられる。
しかし、純粋な心が願うギフトは、ある出来事をきっかけに発動され、運命が動き出す。
二度とそのギフトを使わないと決めて生きてきたのよ
だが、自分にせまる命の危機ーー
逃げていた力と再び向き合わなければならない状況は、ある日、突然訪れる。
残酷なギフトは、リリアーナを取り巻く人たちの、過去、未来に影響し、更には王宮の過去の闇も暴いていく。
私の愛する人がどうか幸せになりますように...
そう、リリアーナが願ったギフトは、どう愛する人に届くのか?
孤独だったリリアーナのギフトが今、王宮で本当の幸せを見つけるために動き始める
【完結】これはきっと運命の赤い糸
夏目若葉
恋愛
大手商社㈱オッティモで受付の仕事をしている浅木美桜(あさぎ みお)。
医師の三雲や、経産省のエリート官僚である仁科から付き合ってもいないのに何故かプロポーズを受け、引いてしまう。
自社の創立30周年記念パーティーで、同じビルの大企業・㈱志田ケミカルプロダクツの青砥桔平(あおと きっぺい)と出会う。
一目惚れに近い形で、自然と互いに惹かれ合うふたりだったが、川井という探偵から「あの男は辞めておけ」と忠告が入る。
桔平は志田ケミカルの会長の孫で、御曹司だった。
志田ケミカルの会社の内情を調べていた川井から、青砥家のお家事情を聞いてしまう。
会長の娘婿である桔平の父・一馬は、地盤固めのために銀行頭取の娘との見合い話を桔平に勧めているらしいと聞いて、美桜はショックを受ける。
その上、自分の母が青砥家と因縁があると知り……
━━━☆・‥…━━━☆・‥…━━━☆
大手商社・㈱オッティモの受付で働く
浅木 美桜(あさぎ みお) 24歳
×
大手化粧品メーカー・㈱志田ケミカルプロダクツの若き常務
青砥 桔平(あおと きっぺい) 30歳
×
オフィスビル内を探っている探偵
川井 智親(かわい ともちか) 32歳
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
貴方だけが私に優しくしてくれた
バンブー竹田
恋愛
人質として隣国の皇帝に嫁がされた王女フィリアは宮殿の端っこの部屋をあてがわれ、お飾りの側妃として空虚な日々をやり過ごすことになった。
そんなフィリアを気遣い、優しくしてくれたのは年下の少年騎士アベルだけだった。
いつの間にかアベルに想いを寄せるようになっていくフィリア。
しかし、ある時、皇帝とアベルの会話を漏れ聞いたフィリアはアベルの優しさの裏の真実を知ってしまってーーー
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる