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アフェッツオーソ
80話
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花に対しては常に嘘をつかず、そして花に嘘は通じないと、両者の根底に存在している。ならば思いのたけをすべて吐き出すのが得策である。その意を読み取り、ベルは気後れながらも小さく述べる。
「あの……マスフラワーにカンパニュラで『感謝』、とか。あと、ピンクのカスミソウをフィラフラワーに『感激』を――」
「ストレートだな。二球続けて速球ときたか。最後の球はなんだ、変化球か?」
「通りのお菓子屋さんで見つけた、焼き菓子の詰め合わせに使われてたハート型のバス……」
バスケット、そう言いかけて口を濁す。聞き手の二人が一様に渋い顔を作っているのが目に入ったのである。
「……そうか」
「……三球続けてストレート……で、でも、ベル先輩らしいといえばらしいです! 僕だって、直球ばかりの場合もよくありますから!」
「ありがと……でもなんか、泣けてきそう……」
あえてそれ以上言及しないベアトリス、すかさずフォローを入れるシャルル。その二種類の優しさが違う角度から胸に突き刺さり、またも涙腺を刺激しかねない、とベルは念のため目元を抑えた。自分のレパートリーの程度は知れていたはずだが、実際に考えるとなると熟練にはやはり敵わない。
「気にするな。ストレートのみでも、高め低めと振り分ければそれだけで三振は取れるものだ。変化球など、ストレートを生かすための布石にすぎん」
それはおそらく勇気付けようとするベアトリスの例え話なのであろう。ベルが打たれ弱いであろうということはすでに把握している。それゆえ少し自分も力を弱めねば、ということを思ってやったわけではない。ただ単に「また泣かれると困るから」という裏である。
「野球、詳しいんですね。球種とかあたしはさっぱりです」
ルールすらよく知らないスポーツのことなのでちゃんと理解できていないのだが、とりあえず自分を慰めてくれているのだとベルは捉えた。
サッカーは国民的なスポーツであり、グラウンドはどんな小さな町でも数個保持するほどの国である。だが野球に限っては周辺諸国も含め人気があるとは言えないものである。それも女性であり、お世辞にもスポーツをやるのには体型を考慮すると向いているとは言えないベアトリスが詳し気に語る姿は新鮮であった。
「これくらい常識だ」
「なんでか姉さん、自分がやらないことに詳しかったりするんです。あまり気にしないでください」
「そうだ。お前が今考えるのは、どんなアレンジにするか、だ。ボールの握り方による空気抵抗の差ではない」
「はい……」
自らが振った話の種で多少のズレが生じてしまったことに気付き、ベルはうなだれる。そしてまだまったくと言っていい程アレンジは形になっておらず、明日まで時間があると言っても焦燥感が募り始め、歯噛みをする。そこから数度アイディアを出してみるが、これといった良案が浮かび上がるわけでもない。その度に入るシャルルのフォローが心に痛みを与える。
早い煮詰まりを見越し、ベアトリスが場所をリビングでもある奥の部屋に移し、なにか飲みながらでも考えるように提議、それが可決される。
普通よりも多少多めのミルクを加えたカフェ・クリームにカリソンを用意してかなり遅めのティータイムを楽しむ。当然用意したのはシャルルである。
しかしそれでも光明を見出せずにベルは閉口したままとなる。
それを打破するためにベアトリスは一つの策を出す。面倒見がいいと言えなくもないのは、こういった行為からなのか。
「あの……マスフラワーにカンパニュラで『感謝』、とか。あと、ピンクのカスミソウをフィラフラワーに『感激』を――」
「ストレートだな。二球続けて速球ときたか。最後の球はなんだ、変化球か?」
「通りのお菓子屋さんで見つけた、焼き菓子の詰め合わせに使われてたハート型のバス……」
バスケット、そう言いかけて口を濁す。聞き手の二人が一様に渋い顔を作っているのが目に入ったのである。
「……そうか」
「……三球続けてストレート……で、でも、ベル先輩らしいといえばらしいです! 僕だって、直球ばかりの場合もよくありますから!」
「ありがと……でもなんか、泣けてきそう……」
あえてそれ以上言及しないベアトリス、すかさずフォローを入れるシャルル。その二種類の優しさが違う角度から胸に突き刺さり、またも涙腺を刺激しかねない、とベルは念のため目元を抑えた。自分のレパートリーの程度は知れていたはずだが、実際に考えるとなると熟練にはやはり敵わない。
「気にするな。ストレートのみでも、高め低めと振り分ければそれだけで三振は取れるものだ。変化球など、ストレートを生かすための布石にすぎん」
それはおそらく勇気付けようとするベアトリスの例え話なのであろう。ベルが打たれ弱いであろうということはすでに把握している。それゆえ少し自分も力を弱めねば、ということを思ってやったわけではない。ただ単に「また泣かれると困るから」という裏である。
「野球、詳しいんですね。球種とかあたしはさっぱりです」
ルールすらよく知らないスポーツのことなのでちゃんと理解できていないのだが、とりあえず自分を慰めてくれているのだとベルは捉えた。
サッカーは国民的なスポーツであり、グラウンドはどんな小さな町でも数個保持するほどの国である。だが野球に限っては周辺諸国も含め人気があるとは言えないものである。それも女性であり、お世辞にもスポーツをやるのには体型を考慮すると向いているとは言えないベアトリスが詳し気に語る姿は新鮮であった。
「これくらい常識だ」
「なんでか姉さん、自分がやらないことに詳しかったりするんです。あまり気にしないでください」
「そうだ。お前が今考えるのは、どんなアレンジにするか、だ。ボールの握り方による空気抵抗の差ではない」
「はい……」
自らが振った話の種で多少のズレが生じてしまったことに気付き、ベルはうなだれる。そしてまだまったくと言っていい程アレンジは形になっておらず、明日まで時間があると言っても焦燥感が募り始め、歯噛みをする。そこから数度アイディアを出してみるが、これといった良案が浮かび上がるわけでもない。その度に入るシャルルのフォローが心に痛みを与える。
早い煮詰まりを見越し、ベアトリスが場所をリビングでもある奥の部屋に移し、なにか飲みながらでも考えるように提議、それが可決される。
普通よりも多少多めのミルクを加えたカフェ・クリームにカリソンを用意してかなり遅めのティータイムを楽しむ。当然用意したのはシャルルである。
しかしそれでも光明を見出せずにベルは閉口したままとなる。
それを打破するためにベアトリスは一つの策を出す。面倒見がいいと言えなくもないのは、こういった行為からなのか。
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