Sonora 【ソノラ】

文字の大きさ
上 下
79 / 235
アフェッツオーソ

79話

しおりを挟む
「リオネルさんは……まぁ仲卸というよりも、なんというかその……」

「使いッパシリのようなものだ。気にするな、やつの家庭が崩壊しようと花だけは届けさせる」

 真顔で平然と恐ろしいことを言ってのけるベアトリスに、それを聞いたベルは空笑いを作る。なにせその目には『遊び』がなく、本気なのだと確信するのには満ち足りていた。

 だが、彼女はシャルルの言葉の詰まり具合でなんとなく予想がついた。そう、フランスではよくある話。きっとリオネルさんは仲卸ではなく彼らの……そこまで考えてこの思考は停止。確かめないし、それはいつか、彼らの口から言ってくれるのであれば聞こう。そう結論付けた。

「それは……ともかく、ありがとうございます」

 しかしそれで安心感が多少でもプラスされたのは事実であり、使う花の心配はないことは強引にだがベルから消失した。あとは中身を創造するだけである。そこがなかなかうまくいかないのだが。

「それで、なにかこういう風なアレンジにしたい、というのはセシルさんの言ったとおりに全くない、でよろしいですか?」

 一旦現在の状況をシャルルが整理する。

「ううん、全くないってわけじゃないんだけど、どうもやっぱり弱い、というか」

「やはり元フローリストだからな。生半可なものでは、というわけか。親になにをそこまで縮み上がるのかは知らんが、まぁわからなくもない」

 悩ましげに返答するベルの心の深層をベアトリスが代弁する。そう、問題の一つに、元とはいえセシルはフローリストだったということが挙げられる。たとえ本人が気にしないとしても、贈る側としては悩みの種として発芽するには十分な理由となるのである。ましてや手助けがあるとはいえベルはまだ素人の域を出ないというのは自分自身がよくわかっていることだった。

「うん、すごく愛されて、愛して、それでいて温かいって感じました」

「だから、あたしもママにできるだけ恩返ししたいの。でも、どうしても迷っちゃう、そんな感じで」

「ちなみに、どんなのを今考えているんだ? とりあえず言ってみろ。まさかお前が買ってきたその鳥篭みたいなのを使う、ってわけでもあるまいな?」

 ベアトリスが視線を向けた先にはシャルルと買ったばかりの籠が、テーブルの上に置きっぱなしで放置されていた。

 言われてベルも「あ、そういえば」とその存在を思い出す。少なくとも脳内でイメージされたビジョンには入っていないのであった。

「いえ、これはまた別の機会に使おうと思ってるんですけど、あの……笑いません?」

 恥じらいを込めた仕草でベアトリスの顔色を覗きこむ。

「笑いませんよ。そこに込められた想いに、嘲笑などありませんから」

「そういうことだ」

 斡旋に入ったシャルルの意見にはベアトリスも言葉少なく同意する。その二人の青い瞳には真摯な色がたたえており、それは紛うことなき本心を表す。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

紅屋のフジコちゃん ― 鬼退治、始めました。 ―

木原あざみ
キャラ文芸
この世界で最も安定し、そして最も危険な職業--それが鬼狩り(特殊公務員)である。 ……か、どうかは定かではありませんが、あたしこと藤子奈々は今春から鬼狩り見習いとして政府公認特A事務所「紅屋」で働くことになりました。 小さい頃から憧れていた「鬼狩り」になるため、誠心誠意がんばります! のはずだったのですが、その事務所にいたのは、癖のある上司ばかりで!? どうなる、あたし。みたいな話です。 お仕事小説&ラブコメ(最終的には)の予定でもあります。 第5回キャラ文芸大賞 奨励賞ありがとうございました。

『俺の死んだ日』〜『猫たちの時間』8〜

segakiyui
キャラ文芸
俺、滝志郎。人に言わせれば、『厄介事吸引器』。 今から3日前、俺は事故死した。いや、事故死したことになっている。 俺を車に乗せていた春日井あつしは、製薬会社の産業スパイ事件に絡んでおり、どうやらその巻き添えを食ったらしい。俺を死なせた原因が自分にあると思い込んだ周一郎はひどく落ち込んでいく。 『猫たちの時間』シリーズ8。クライマックスはまだ。

The wind rises, we must try to live.風立ちぬ いざ生きめやも : 改題『大人の恋の歩き方』

設樂理沙
現代文学
初回連載2018年3月1日~2018年6月29日 2024年8月9日より各電子書店より 『大人の恋の歩き方』と改題し電子書籍として配信中 1~7話辺りまでこちらでサンプル分として掲載しています。―――――――――――――― 予定外に家に帰ると同棲している相手が見知らぬ女性(おんな)と 合体しているところを見てしまい~の、web上で"Help Meィィ~"と 号泣する主人公。そんな彼女を混乱の中から助け出してくれたのは ☆---誰ぁれ?----★ そして 主人公を翻弄したCoolな同棲相手の 予想外に波乱万丈なその後は? *☆*――*☆*――*☆*――*☆*    ☆.。.:*Have Fun!.。.:*☆

翔んだディスコード

左門正利
青春
音楽の天才ではあるが、ピアノが大きらいな弓友正也は、普通科の学校に通う高校三年生。 ある日、ピアノのコンクールで悩む二年生の仲田萌美は、正也の妹のルミと出会う。 そして、ルミの兄である正也の存在が、自分の悩みを解決する糸口となると萌美は思う。 正也に会って話を聞いてもらおうとするのだが、正也は自分の理想とはかけ離れた男だった。 ピアノがきらいな正也なのに、萌美に限らず他校の女子生徒まで、スランプに陥った自分の状態をなんとかしたいと正也を巻き込んでゆく。 彼女の切実な願いを頑として断り、話に片をつけた正也だったが、正也には思わぬ天敵が存在した。 そして正也は、天敵の存在にふりまわされることになる。 スランプに見舞われた彼女たちは、自分を救ってくれた正也に恋心を抱く。 だが正也は、音楽が恋人のような男だった。 ※簡単にいうと、音楽をめぐる高校生の物語。 恋愛要素は、たいしたことありません。

後宮物語〜身代わり宮女は皇帝に溺愛されます⁉︎〜

菰野るり
キャラ文芸
寵愛なんていりません!身代わり宮女は3食昼寝付きで勉強がしたい。 私は北峰で商家を営む白(パイ)家の長女雲泪(ユンルイ) 白(パイ)家第一夫人だった母は私が小さい頃に亡くなり、家では第二夫人の娘である璃華(リーファ)だけが可愛がられている。 妹の後宮入りの用意する為に、両親は金持ちの薬屋へ第五夫人の縁談を準備した。爺さんに嫁ぐ為に生まれてきたんじゃない!逃げ出そうとする私が出会ったのは、後宮入りする予定の御令嬢が逃亡してしまい責任をとって首を吊る直前の宦官だった。 利害が一致したので、わたくし銀蓮(インリェン)として後宮入りをいたします。 雲泪(ユンレイ)の物語は完結しました。続きのお話は、堯舜(ヤオシュン)の物語として別に連載を始めます。近日中に始めますので、是非、お気に入りに登録いただき読みにきてください。お願いします。

オレは視えてるだけですが⁉~訳ありバーテンダーは霊感パティシエを飼い慣らしたい

凍星
キャラ文芸
幽霊が視えてしまうパティシエ、葉室尊。できるだけ周りに迷惑をかけずに静かに生きていきたい……そんな風に思っていたのに⁉ バーテンダーの霊能者、久我蒼真に出逢ったことで、どういう訳か、霊能力のある人達に色々絡まれる日常に突入⁉「オレは視えてるだけだって言ってるのに、なんでこうなるの??」霊感のある主人公と、彼の秘密を暴きたい男の駆け引きと絆を描きます。BL要素あり。

冥土の土産に一杯どうだい?

谷内 朋
キャラ文芸
舞台はこの世とあの世の境にある街【デスタウン】 様々な事情で肉体と魂が離れ、当てもなく彷徨い歩く者たちを温かく迎え入れるビアホールが存在する。その名もまんま【境界線】 ここでは行き先を決めていない魂たちが飲んで食ってくだ巻いて、身(?)も心もスッキリさせたところで新たな世界(若しくは元の世界)へと旅立って行く……ってだけのお話。 Copyright(C)2019-谷内朋

処理中です...