81 / 235
アフェッツオーソ
81話
しおりを挟む
「しかたない。なら手本を見せてやる」
ベルは驚き、シャルルは嫌な予感がした。
「あの、いいんですか?」
自分一人の力でやれる、そこまでベルは過剰に思っていなかった。もちろん手本となる例はコーヒーとスイーツで潤う喉から手が出るほど欲しいものである。しかしそれは助っ人としての一線を越えてしまうような後ろめたさがある。それを真似してしまえばいいのだから。もちろんコピーするつもりはないのだが。
「構わん。おい、シャルル」
やはりか、とシャルル。
「また僕」
「もしお前ならどうする? どんなアレンジをするか、少し教えて模範を示してやれ」
ぶつくさと文句を言いつつも「どれにしようか」と思いついたアレンジを数個巡らせるシャルルの目は、やはり良く磨かれた店のショウウインドウのガラスのように輝いている。今日はまだアレンジというアレンジを作っていないので、当然といえば当然か。
「では先輩、模範は正解ではない。これをしっかりと頭に入れて置いてください。ヒントだけ出します。それなら先輩も参考くらいにはできると思います、ってなんか偉そうに言ってすみません」
ベルは心を見透かされたかのようで心臓が一つ大きく脈打った。眉間に皴を寄せるその表情からシャルルは内心を見据えていた。一つの答えの提示に気が引けていることを。ヒントならば、と意気揚々に耳を立てる。
「うん、置いた置いた! それで!?」
今にも飛び出しかねない強い語勢でベルは先を促す。
一瞬その圧に押され、たじろいだシャルルは一つ咳払いをし語を継ぐ。
「もし僕が先輩の立場であれば……むしろインテリアをどうするか、と悩みますね」
それは、それまで『花』と『容器』でどんなメッセージを、と考え込んでいたベルには青天の霹靂と言える内容であった。
集中すると周りが見えなくなる自身の癖に、ベルは以前から気づいていた。根を詰めてピアノを弾くより、ソファでくつろぎながら「あの楽章はこう弾いてみたらどうだろう」と何気なく考えたことが的中したことも多い。発想の転換は、リラックス状態から生まれる。
ベアトリスも弟の提案に「ほう」と評価の小さく言を呑んだ。さらにコーヒーにも口をつける。ミルクの量はベルの比ではないほど混入されており、甘さを控えるつもりはない。
「インテリア、そっか、それも――」
「花のメッセージを伝えるための小道具ならなんでも使う、という意味です。アレンジって結構自由なものですよ。楽しみましょう」
「自由……」
ベルは驚き、シャルルは嫌な予感がした。
「あの、いいんですか?」
自分一人の力でやれる、そこまでベルは過剰に思っていなかった。もちろん手本となる例はコーヒーとスイーツで潤う喉から手が出るほど欲しいものである。しかしそれは助っ人としての一線を越えてしまうような後ろめたさがある。それを真似してしまえばいいのだから。もちろんコピーするつもりはないのだが。
「構わん。おい、シャルル」
やはりか、とシャルル。
「また僕」
「もしお前ならどうする? どんなアレンジをするか、少し教えて模範を示してやれ」
ぶつくさと文句を言いつつも「どれにしようか」と思いついたアレンジを数個巡らせるシャルルの目は、やはり良く磨かれた店のショウウインドウのガラスのように輝いている。今日はまだアレンジというアレンジを作っていないので、当然といえば当然か。
「では先輩、模範は正解ではない。これをしっかりと頭に入れて置いてください。ヒントだけ出します。それなら先輩も参考くらいにはできると思います、ってなんか偉そうに言ってすみません」
ベルは心を見透かされたかのようで心臓が一つ大きく脈打った。眉間に皴を寄せるその表情からシャルルは内心を見据えていた。一つの答えの提示に気が引けていることを。ヒントならば、と意気揚々に耳を立てる。
「うん、置いた置いた! それで!?」
今にも飛び出しかねない強い語勢でベルは先を促す。
一瞬その圧に押され、たじろいだシャルルは一つ咳払いをし語を継ぐ。
「もし僕が先輩の立場であれば……むしろインテリアをどうするか、と悩みますね」
それは、それまで『花』と『容器』でどんなメッセージを、と考え込んでいたベルには青天の霹靂と言える内容であった。
集中すると周りが見えなくなる自身の癖に、ベルは以前から気づいていた。根を詰めてピアノを弾くより、ソファでくつろぎながら「あの楽章はこう弾いてみたらどうだろう」と何気なく考えたことが的中したことも多い。発想の転換は、リラックス状態から生まれる。
ベアトリスも弟の提案に「ほう」と評価の小さく言を呑んだ。さらにコーヒーにも口をつける。ミルクの量はベルの比ではないほど混入されており、甘さを控えるつもりはない。
「インテリア、そっか、それも――」
「花のメッセージを伝えるための小道具ならなんでも使う、という意味です。アレンジって結構自由なものですよ。楽しみましょう」
「自由……」
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
Réglage 【レグラージュ】
隼
キャラ文芸
フランスのパリ3区。
ピアノ専門店「アトリエ・ルピアノ」に所属する少女サロメ・トトゥ。
職業はピアノの調律師。性格はワガママ。
あらゆるピアノを蘇らせる、始動の調律。
C × C 【セ・ドゥー】
隼
キャラ文芸
フランス、パリ七区。
セギュール通りにあるショコラトリー『WXY』。
そこで一流のショコラティエールを目指す、ジェイド・カスターニュ。
そして一九区。
フランス伝統芸能、カルトナージュの専門店『ディズヌフ』。
その店の娘、オード・シュヴァリエ。
ふたりが探り旅する、『フランス』の可能性。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
Parfumésie 【パルフュメジー】
隼
キャラ文芸
フランス、パリの12区。
ヴァンセンヌの森にて、ひとり佇む少女は考える。
憧れの調香師、ギャスパー・タルマに憧れてパリまでやってきたが、思ってもいない形で彼と接点を持つことになったこと。
そして、特技のヴァイオリンを生かした新たなる香りの創造。
今、音と香りの物語、その幕が上がる。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
あやかし蔵の管理人
朝比奈 和
キャラ文芸
主人公、小日向 蒼真(こひなた そうま)は高校1年生になったばかり。
親が突然海外に転勤になった関係で、祖母の知り合いの家に居候することになった。
居候相手は有名な小説家で、土地持ちの結月 清人(ゆづき きよと)さん。
人見知りな俺が、普通に会話できるほど優しそうな人だ。
ただ、この居候先の結月邸には、あやかしの世界とつながっている蔵があって―――。
蔵の扉から出入りするあやかしたちとの、ほのぼのしつつちょっと変わった日常のお話。
2018年 8月。あやかし蔵の管理人 書籍発売しました!
※登場妖怪は伝承にアレンジを加えてありますので、ご了承ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる