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第9章

頼子の手紙

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恵子は頼子に下着と靴下を渡すと、すぐに頼子の服とボディタイツを脱がせました。
頼子は目を開けられないため、着替えにかなり手間取り、恵子が手伝いながらなんとか頼子の着替えが終わりました。
頼子を下駄箱にもたれさせながら座らせようとしますが、頼子は頭を上げると気分が悪くなるようなので、上がりかまちに仰向けに寝かせます。
恵子は頼子が脱いだボディタイツを頼子の部屋に置きに行って、先ほどの写真をチラッと見るとすぐに1Fに降りて、頼子のトートバッグの中身を頼子と確認しました。
「頼子さん、持ち物はこれでいいですね?」
「うっ、あっ、ありがとう。だ、大丈夫、よ」
結構体を動かしたので、かなり気分が悪いようです。

恵子は初めて119番通報するのでかなり緊張しています。
二度、三度、大きく深呼吸しました。
「頼子さん、それじゃあ、救急車を呼びますね」
「恵子ちゃん、お願いするわ」
「頼子さん、病院へ行けば、すぐによくなるわ」
恵子はもう一度深呼吸すると、119番へTELしました。

「救急ですか?火事ですか?」
恵子の心臓がバクバクしていますが、落ち着いて的確に答えます。
電話を切ると、ふうっと大きく息をつきました。
「恵子ちゃん、ありがとう」
頼子の声がかなり弱々しく、恵子はかなり不安ですが、なんとか気丈に振る舞います。
「頼子さん、もう大丈夫よ」
「恵子ちゃん、救急車来たら、どこの病院か聞いて、貴浩にLINEしてほしいの」
「分かったわ、頼子さん。私、外で救急車を待ちますね」
恵子は玄関のドアを開け放しにして外に出て、頼子の様子を見ながら救急車を待ちました。

10分ほどで救急車がやってきたので、恵子は手を振って合図しました。
すぐに救急車が横付けされ、ストレッチャーが降ろされます。
救急隊員がバイタルチェックを行なった後、頼子だけでなく、恵子にも状況を聞かれました。
頼子が救急車に収容されている間に恵子は鍵をかけてキーボックスにしまいます。
これから市立S病院へ向かうと言われると、恵子は頼子からスマホを受け取り、貴浩にLINEメッセージを送りました。
「頼子さん、メッセージ送りましたよ。必要なものがあれば届けますから、遠慮なく言ってくださいね」
「ありがとう、恵子ちゃん。もう一つだけお願い。坂上さんに伝えてもらえるかな?」
「分かったわ。伝えますね」
恵子が降りると、すぐに救急車が閉められ、サイレンとともに出発しました。

「頼子さん、大丈夫よね」
貴浩と頼子のセックスの件で、頼子に対してネガティブな気持ちを持った恵子ですが、さすがに病気になっている頼子には協力したいと考えています。
「貴浩くんも困るだろうから、できるだけ協力しなきゃ」
今日はいろいろ落ち着かないだろうから、明日にでも市立S病院へ行こうと思いました。

詩絵美の母に報告と御礼のメッセージを送った後、恵子は買い物に行く予定でしたが、先にいつものベーカリーカフェに寄ることにしました。
「今日は」
「おっ、恵子ちゃん、いらっしゃい」
坂上のいつもの声に、恵子は少しホッとしました。
まだお昼前ということもあり、かなり空いています。
「あれ?学校は休みかい?」
「今日から学校閉鎖なんです。新型ウイルス感染が一気に増えて」
「なんかまた増えてきたみたいだよなあ。恵子ちゃんはやっぱり元気そうだね」
「やっぱりってどういうことですか?」
恵子は少し膨れ気味です。
「え?いや、大した意味はないけどさ」
坂上が少し慌てて打ち消します。
「それより頼子さんが大変なんです」
「頼子ちゃんがどうしたの?」
恵子は頼子の状況を説明しました。

「そうか、頼子ちゃん、救急車で運ばれたのか‥確かに症状を聞く限り耳の病気だろうね。多分、脳にはダメージはないと思うけどね」
「耳にそんなはたらきがあるなんて知らなかったです」
「学校でまだ習ってないかな?いずれ理科で習うよ。人間の平衡感覚は耳の役割なんだよ。よく言う「目が回る」ってのは、本当は「耳が回る」なんだよ」
「そうだったんですね。いずれ落ち着いたら頼子さんから連絡あると思いますよ」
「まあ、頼子ちゃんがいない間どうするかだけど、考えなきゃいけないなあ。まあ、とにかく頼子ちゃんが無事に戻ってくるようにだね。恵子ちゃん、お昼にはちょっと早いけど、たまごサンドを食べるかい?」
「あ、今日はいいです。アイスミルクだけお願いします」
坂上と雑談しながらアイスミルクを飲み干すと、恵子はカフェを後にして、手早く買い物を済ませて家に戻りました。

服やサイハイソックスを脱ぎ、コットンハイウエストタイツを履いてリビングのソファに座ると、先ほどの頼子のメッセージを見てみます。
人のメッセージを勝手に読むことの後ろめたさはありましたが、最初の一文を見てしまい、どうしても続きが知りたくなったのでした。
「頼子さん、勝手に読んでごめんなさい」
恵子は写真を拡大しながら読み始めました。


新しいパパがやってきて、かわいい弟もできた
新しいパパはすごくやさしい 
前のパパみたいに私やママをなぐったりしないよね
もうなぐられるのはぜったいイヤ

新しい弟のたかひろはすごくかわいい
たかひろも前のママになぐられてたみたい
私のママはぜったいなぐらないよ
私もたかひろにやさしくして、いっぱいかわいがるんだ
たかひろ、いやなことがあったら、私がぜったい守るよ
だからなかよくしようね

みんながやさしい楽しいおうちがいいな
新しいパパ、新しい弟のたかひろ、これからよろしくね

頼子


恵子はスマホをテーブルに置きました。
「頼子さん、こんな過去があったなんて‥」
今まで知らなかった頼子の暗い過去の一面を知って、恵子の目から涙がこぼれ落ちます。
恵子にとって、大きな衝撃です。
「頼子さんと貴浩くんが血のつながっていない姉弟だったなんて、ショックだわ‥それにしても頼子さんも貴浩くんも辛かったんだろうな‥だから、頼子さんと貴浩くん、セックスもする強い愛情で結びついているのね。それを汚らわしいなんて言ってしまい、本当にごめんなさい。頼子さんかほとんどの男の人を嫌うのも、これが原因かもしれないわね」
恵子の中にあった頼子や貴浩に対する嫌悪感は、すっかり消えていきました。
「頼子さん、勝手に知ってしまってごめんなさい。私の胸の中にしまっておきますね」
恵子はそっと涙を拭いました。



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