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第9章

頼子の秘密

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恵子は菜乃花との幸せを満喫しましたが、心の片隅で詩絵美や真由が気になっています。
「私と菜乃花だけ幸せを満喫しちゃったけど‥」
先ほど二人にはLINEメッセージを送りましたが、まだ既読になっていません。
買い物の帰りに詩絵美の家に寄ってみようかと思いましたが、詩絵美の母からは家に近づかないように言われているので、LINEメッセージを待ってみることにします。

そう考えながら頼子の家に近づくと、やはり気になります。
「さすがにこの時間はセックスしてないよね。でも貴浩くんが学校閉鎖ならありうるかも。あの2人のセックスの喘ぎ声なんて二度と聞きたくないわ」
少し警戒しながら歩いていくと、門柱に人が寄りかかっているのが見えました。
「え?頼子さん?いやよ、顔を合わせたくないわ」
恵子は立ち止まりました。
「絶対話なんかしたくないわ。とりあえず帰ろう」
振り向いて帰ろうとしましたが、何か様子が変です。
「頼子さん、何かおかしいわ」
その瞬間、頼子が崩れ落ちました。

「え?何?頼子さん?どうしたの?」
恵子は急いで頼子のそばに駆け寄ります。
いくら嫌悪感を感じる頼子でも、この状況でさすがに放っておけません。
「頼子さん、どうしたの?頼子さん」
頼子は目を閉じてぐったりしています。
「頼子さん、頼子さん、しっかりして」
頼子の呼吸がかなり荒くなっています。
「あ、恵子ちゃん‥」
頼子の目がかすかに開きましたが、すぐに閉じてしまいました。
「頼子さん、どうしたの?」
「眩暈が‥目が回るのよ‥目を開けられないのよ‥うっ‥」
頼子は嘔吐しようとしていますが、ほとんど食べていないので、何もでてきません。
恵子は背中をさすりますが、苦しそうな頼子の表情に不安が募ります。

恵子はスマホを取り出し、すぐに詩絵美の母にLINE通話しました。
「お願い‥出てください‥」
詩絵美の母が出ました。
「あっ、すみません。どうしたらいいかわからなくて。頼子さんが大変なんです」
恵子は状況を詩絵美の母に伝えました。
「恵子ちゃん、状況は分かったわ。とにかく恵子ちゃんは落ち着いてね。頼子ちゃんに代わってもらえるかな?」
頼子は苦しそうでしたが、恵子が頼子の体を支えながら起こして、スマホを渡しました。

頼子は辛そうな表情ながらも詩絵美の母の問いに答えていました。
しばらく話した後、頼子は恵子にスマホを渡しました。
「恵子ちゃん、頼子ちゃんはおそらく耳の病気よ」
「耳ですか?」
恵子は予想外の答えに戸惑っています。
「耳って音を聴くだけじゃないのよ。耳で体のバランスを保っているのだけど、その機能がおかしくなっているのよ。私も以前同じような症状が出たことがあるのよ」
「わかりました。命に別状はないのですね」
「頼子ちゃんの呂律は回ってるし、視界不良や意識障害もないみたいだけど、ひょっとすると脳にダメージがあるかもしれないから、すぐに病院へ行くようにして。頼子ちゃん、少しでも歩くことはできるかな?」
「かなり無理そうです」
「私、今、病院なのでそこへ行くことができないのよ。恵子ちゃん、すぐに救急車を呼んであげて。119番へかけたら、いろいろ聞かれるから、ちゃんと答えれば大丈夫よ。すぐに救急車が来てくれるわ。それでおそらく1,2週間入院すれば治ると思うわ」
恵子はさらにいくつか注意事項を教えてもらうと通話を終えました。

「頼子さん、救急車を呼ぶわ」
「恵子ちゃん、ちょっと待って」
「頼子さん、何言ってるの。すぐに病院へ行かなきゃだめよ」
「分かってる。でもボディタイツは着替えたいの」
頼子は立ちあがろうとしますが、平衡感覚が麻痺しているので、すぐに転んでしまいます。
匍匐前進のような感じで玄関へ戻ろうとします。
「恵子ちゃん、ごめん。鍵開けてくれる?そこにキーボックスがあるから。番号は◯⬜︎△×よ」
(え?それって私の誕生日‥頼子さん‥)

恵子は急いでカギを取り出してドアを開けると、頼子を抱えて家に入りました。
「うっ、あっ」
「頼子さん、大丈夫?」
頼子はかろうじて玄関から中に上がりますが、這うのがやっとです。
「恵子ちゃん、目が開けられないのよ。目を開けると激しく目が回るのよ。目を閉じてても立ち上がれないわ。本当にごめん。私の部屋から下着と靴下を持ってきてくれるかな?」
「もちろん、いいですよ」
恵子は頼子から持ってきて欲しいものと場所を伝えて、恵子も詩絵美の母から聞いた保険証など必要なものを話して、その所在を確認して2Fの頼子の部屋へ入りました。

頼子の部屋は綺麗に片付けられていて、探したいものもすぐに見つかりました。
それらをトートバッグに入れているときに脇のカラーボックスにぶつかって、飾ってあった写真立てが落ちて外れてしまい、中の写真が出てしまいました。
「あら、昔の家族写真ね。10年以上前かな」
おそらく頼子が小学校低学年で貴浩が幼稚園に入るころの写真のようです。
「二人とも可愛いわね」
写真を写真立てに戻そうとすると、写真の裏に小さな便箋が入っていたのに気づきました。
開けると、頼子のメッセージが子どもっぽい字で書いてあります。

「新しいパパがやってきて、かわいい弟もできた」
目に入った最初の一文に思わず釘付けになりました。
「え?どういうことなの?」
恵子は思わず驚きの声を上げました。
その先も読もうと思いましたが、今は急がなければなりません。
「頼子さん、失礼しますね」
恵子はスマホで便箋の写真を撮り、写真立てを戻して、荷物を持って急いで1Fに降りました。
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