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第7章

真由との一夜 真由の決意

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「はい、おまちどうさま」
頼子がナポリタンとたまごサンドを運んできました。
「うわあ、美味しそう!頼子さん、ありがとうございます!」
真由の嬉しそうな声が響きます。
「いやあ、作ったのは俺なんだけど‥」
ひがみの入った坂上の声に、真由も恵子も思わず笑ってしまいます。
「でも私たちに運んできたのは頼子さんですからね」
「またまた、恵子ちゃんは絶対頼子ちゃん贔屓だからなあ」
恵子と坂上のやりとりを笑って聞いていた真由ですが、ふと気になってきました。
(頼子さんと恵子ってどんな関係なのかしら)
頼子が気になり、ずっと見ている真由ですが、頼子が恵子をかなり意識しているように見えたのでした。
(頼子さん、チラチラ恵子を見ているわ。恵子のただの幼馴染のお姉さんではないような気がするわ。気のせいかもしれないけど)

「さあ、真由、いただきましょう」
恵子の声に真由はハッと我に返りました。
(2人がどんな関係でも私と関係のないところで作られた関係よね。私が口出しすることじゃないわ。恵子は特別な存在よ。そしてせっかく出会えた頼子さん、本当に大好きよ)
「すごくいい匂いのナポリタンよ。いただきます!うわ、たまごが絶妙で最高だわ。頼子さん、ありがとうございます!」
「だから、作ったの俺だって‥」
坂上の反応に再び真由も恵子も大爆笑です。
「真由、このたまごサンドもすごく美味しいのよ。ひとつあげるわ」
「ありがとう、恵子。うわあ、たまごがふわっふわっ!すごく美味しいわ!」
楽しそうに食べている真由と恵子を、頼子も幸せな気分で見つめていました。
(まさか、真由ちゃんに会えるとわねえ。恵子ちゃんと真由ちゃんを一緒に見られるなんて思ってもみなかったわ)
皿を洗いながら微笑む頼子に坂上が話しかけます。
「真由ちゃん、いい感じの子じゃないかい?恵子ちゃんとはまた少しタイプが違うけど、頼子ちゃんにはお似合いだと思うよ」
「え?坂上さん、また何言ってるんですか?」
「あの真由ちゃん、頼子ちゃんにぞっこんだと思うなあ。ずっと頼子ちゃんを熱い眼差しで見てるよ。初恋の人に再会したような感じじゃないかな」
「坂上さん、勘繰りすぎですよ」
さすがに坂上の勘は鋭いです。
頼子も心当たりがないわけではなく、頼子の心の中で、真由の存在が大きく膨らみ始めていました。

「はい、特製プリンのアタマの大盛り、お待たせ」
「うわあ、いつもながら幸せの瞬間だわ」
プリンを前に恵子は満面の笑みです。
「すごいわね、このプリン」
真由の喉もゴクんと鳴ります。
「よかったら真由ちゃんの分も作ろうか?」
坂上の言葉に真由もつられてしまいます。
「あ、はい。お願いします」
恵子は我慢できずに食べ始めています。
「う~ん、し・あ・わ・せ❤️」
恵子の反応に真由も思わず笑ってしまいます。

すぐに真由のプリンも運ばれてきました。
さっそく一口ぱくりです。
「うーん、美味しい!恵子のプリンと少し違うけど、このプリンも最高に美味しいわ」
「私のプリンなんか比べられないくらい美味しいわよ」
「何言ってんのよ。恵子のプリンも最高のプリンよ。作り方教えてもらったこのプリンは私の宝物なんだから!」
真由は傍に置いてあるバッグを撫でました。
中には昨日、恵子と一緒に作ったプリンが保冷剤と一緒に入っています。
「でもプリンのアタマの大盛りって初めてだわ。生クリームとカラメルが明らかに多いわね。たまにはこういうのもいいわね」

プリンを美味しく食べていると、カフェのお客さんが増えてきて、頼子も坂上も忙しくなってきました。
真由のバスの時間も近づいています。
「もっと頼子さんと話したかったなぁ‥」
真由は少し残念そうです。
「ちょっと忙しくなってきたから無理みたいね」
「でもここで働いていて、恵子の家の隣に住んでいるのが分かったんだから大収穫だわ」
「なんかそれ、ストーカーみたいな発言だよ」
恵子は真由の獲物を狙うような視線に思わず笑ってしまいました。
「さあ、真由。そろそろ時間ね」
「うん、仕方ないね」
恵子と真由は立ち上がって、レジで会計を済ませようとしました。
すぐに頼子がやってきます。
「真由ちゃん、よかったらまた来てね」
「はい、また来ます」
「恵子ちゃん、明日の夜、待ってるからね。貴浩もいないから、ね」
(頼子さん、ここでそんな意味深なこと言わなくてもいいのに)
「あ、はい。夕食、楽しみにしています」
そして、2人それぞれ会計を済まして、カフェを出てバス停へ向かいました。

「恵子、本当にありがとう。頼子さんに会えたのも恵子のおかげだわ」
真由はまだ夢を見ているかのようです。
「私、何もしてないわよ。たまたま偶然よ。それにしてもまさか頼子さんだとは思わなかったわ。本当にびっくりよ」
「出会えるように導いてくれたのは恵子よ。頼子さん、私のことをいっぱい覚えていてくれたわ。本当に夢を見てるみたいだったわ。これからも会えそうだし、本当に恵子には感謝だわ」
真由はいきなり恵子に抱きつきます。
「ま、真由、こんなところでもう‥プリンがひっくり返るわよ」
「うわあ、このプリンはパパとママに届けなきゃいけないからひっくり返せないわ。ふう、危ない、危ない」
2人は顔を見合わせて笑います。
「恵子、私のわがままなんだけど、私と頼子さんが上手くいくように協力してくれないかな?」
「え‥ええ、真由のためなら協力するわよ、もちろんよ!」

真由は恵子の一瞬の躊躇を見逃しませんでした。
「ねえ、恵子」
「え?何?」
「明日の夜、頼子さんに会うの?」
真由が寂しそうに聞きます。
「ええ、週末は一緒に夕食を摂ることにしているから。今週は頼子さんが家に招待してくれるのよ」
「恵子はいつでも頼子さんに会えるのよね‥羨ましいわ」
「真由だってN大学の近くで会えるようになるんじゃない?」
真由は押し黙って、何か考え事をしているようです。

「恵子、正直に教えてほしいんだけど」
「改まって何?」
恵子は真由のこわばった表情に、真由が勘づいたことを悟りました。
「恵子、明日の夜は頼子さんと夕食だけなの?」
「真由‥」
「ねえ、お願いだから正直に教えて」
恵子は真由から視線を逸らして正面を向きました。
「夕食のあと、セックスをするわ。そのために頼子さんは私を家に招待してるのよ」
真由の足が止まりました。

「恵子と頼子さん、もうそういう関係ができていたのね。それなのに頼子さんに会えたって大喜びして‥私、バカみたいね」
真由の目から大粒の涙がこぼれます。
「真由、それは違うわ。私、頼子さんとセックスしているわ。でも真由ともセックスしているわ。私にとって、頼子さんも真由も私にとって大切な人よ。だからセックスするのよ」
「じゃあ、私が頼子さんとセックスしたらどうなの?」
「まったく構わないわ。それは真由と頼子さんの関係なんだから、私が何か言うことではないわ」
「恋人になっても?」
「もちろん変わらないわ」
真由は再び歩き出しました。

「恵子には全然敵わないわ。自分の信念を持っている恵子に益々憧れるわ」
「そんなことないわよ」
「でも私、これからも頼子さんを愛しているわ。一度きちんと思いを伝えたいなあって思っているの」
真由の目に固い決意を恵子は感じました。
「真由、素敵よ。私は真由を応援しているわ」
「ありがとう、恵子。もちろん恵子とのセックスは絶対続けるからね」
真由は強い眼差しで前を見つめました。
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