久遠の海へ ー最期の戦線ー

koto

文字の大きさ
上 下
19 / 36
最期の連合艦隊

3-5

しおりを挟む
 戦後のソ連海軍史では、クリル戦線(日本名:占守島の戦い)を悲劇的に述べている。それは、大きくこの2つによるためだ。
 1つ目は占守島への強襲上陸である。上陸可能地点は占守島唯一の竹田浜で、そこでは日本軍部隊が既に防衛戦闘の準備を終えていた。硫黄島、沖縄と防戦を経験した日本軍は、その経験を活かしてより一層強固な防衛陣地を作り上げていたのだ。そこに強襲上陸せざるを得ないのは、余りにも酷な話であった。
 もう1つは、別名“占守島の悲劇”と呼ばれるものだ。これは、ソ連海軍が迫る日本海軍に気が付けず、その結果第1クリル海峡(日本名:占守海峡)で上陸中だったソ連軍の兵員輸送艦と揚陸艇が壊滅したもことである。
 
「主砲撃ち方はじめ!!!」
 パラムシル沖海戦の第二幕である艦隊戦。その始まりは、まぎれもなく奇襲であった。
 濃い霧に包まれた中にもかかわらず、駆逐艦響の艦橋からは敵艦に着弾したことを証明する爆炎をハッキリと視界に入れることができた。確実に有効弾を与えられたのだ。
 
 ――この濃霧の中で初段命中、さすが歴戦の駆逐艦だ。
 
 艦長の宇久奈はそう思わずにはいられない。今の響は主砲2基4門と言えど、それは艦の前部と後部にそれぞれ設置されている。占守島へ前進する響は、つまり前方の敵艦を攻撃するために使えるのはたった1基2門のみだということだ。
 一方、残り3隻の海防艦が搭載している主砲は第1次大戦時から存在するもので、退役した駆逐艦の主砲を移し替えたものでしかない。そもそも敵艦隊との戦いを想定していない海防艦なのだから、武装は主砲以外には機銃と対戦用の爆雷投射機しかない。当然のこと、魚雷も搭載していない。それだけに、強力な武装を有する響に与えられた責任は重大だった。

「敵艦、探照灯点灯!」
「構わん、同目標への攻撃を続けろ」

 響からの砲撃を直撃された敵艦は、即座に探照灯を点灯させていた。
 ソ連海軍の分艦隊は海上挺身隊の事を知らされておらず、それゆえに片岡湾への攻撃における脅威は陸上からの砲撃のみであると考えていたのだ。だからこそ、予想外の砲撃に混乱をきたしていた。その証拠に探照灯の光は四方八方を照らし、的外れな方向へ砲を放っていた。
 その混乱に乗じて、響の分間10発射撃可能な連装砲は火を噴き続ける。海防艦も発砲を開始しており、被弾艦の黒煙がより一層目立つようになっていた。

 海上挺身隊は占守島からソ連海軍の艦艇数について事前に連絡されており、彼らは4隻で航行していることを知っていた。同時に、占守島からの砲撃を避けるために艦列が乱れている事も予想していた。
 だからこそ、海上挺身隊は響を先頭に“ひし形”に展開し、3隻が同時に前方へ攻撃可能な艦列を取っていたのだ。初弾を受けた敵艦艇は集中砲火を受け、わずか数分で沈黙した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

【改訂版】 戦艦ミカサを奪還せよ! 【『軍神マルスの娘と呼ばれた女』 2】 - ネイビーの裏切り者 -

take
SF
ノベルアッププラスへの投稿に併せて改訂版に改編中です。 どうぞよろしくお付き合いください!  数百年後の未来。人類は天変地異により滅亡寸前にまで追い込まれ、それまでに彼らが営々と築いてきたものは全て失われた。  わずかに生き残った人々は力を合わせ必死に生き延び、種を繋ぎ、殖やし、いくつかの部族に別れ、栄えていった。その中の一つがやがて巨大な帝国となり、その周囲の、まつろわぬ(服従しない)いくつかの未開な部族や頑なな国との間で争いを繰り返していた。 就役したばかりの帝国の最新鋭戦艦「ミカサ」に関する不穏な情報を得た皇帝直属の特務機関を統べるウリル少将は、一人のエージェントを潜入させる。 その名は、ヤヨイ。 果たして彼女は「ミカサ」の強奪を防ぐことが出来るのか。

久遠の海へ 再び陽が昇るとき

koto
歴史・時代
 第2次世界大戦を敗戦という形で終えた日本。満州、朝鮮半島、樺太、千島列島、そして北部北海道を失った日本は、GHQによる民主化の下、急速に左派化していく。 朝鮮半島に火花が散る中、民主主義の下、大規模な労働運動が展開される日本。 GHQは日本の治安維持のため、日本政府と共に民主主義者への弾圧を始めたのだ。 俗に言う第1次極東危機。物語は平和主義・民主化を進めたGHQが、みずからそれを崩壊させる激動の時代、それに振り回された日本人の苦悩から始まる。 本書は前作「久遠の海へ 最期の戦線」の続編となっております。 前作をご覧いただけると、より一層理解度が進むと思われますので、ぜひご覧ください。

軍艦少女は死に至る夢を見る~戦時下の大日本帝国から始まる艦船擬人化物語~

takahiro
キャラ文芸
 『船魄』(せんぱく)とは、軍艦を自らの意のままに操る少女達である。船魄によって操られる艦艇、艦載機の能力は人間のそれを圧倒し、彼女達の前に人間は殲滅されるだけの存在なのだ。1944年10月に覚醒した最初の船魄、翔鶴型空母二番艦『瑞鶴』は、日本本土進攻を企てるアメリカ海軍と激闘を繰り広げ、ついに勝利を掴んだ。  しかし戦後、瑞鶴は帝国海軍を脱走し行方をくらませた。1955年、アメリカのキューバ侵攻に端を発する日米の軍事衝突の最中、瑞鶴は再び姿を現わし、帝国海軍と交戦状態に入った。瑞鶴の目的はともかくとして、船魄達を解放する戦いが始まったのである。瑞鶴が解放した重巡『妙高』『高雄』、いつの間にかいる空母『グラーフ・ツェッペリン』は『月虹』を名乗って、国家に属さない軍事力として活動を始める。だが、瑞鶴は大義やら何やらには興味がないので、利用できるものは何でも利用する。カリブ海の覇権を狙う日本・ドイツ・ソ連・アメリカの間をのらりくらりと行き交いながら、月虹は生存の道を探っていく。  登場する艦艇はなんと58隻!(2024/12/30時点)(人間のキャラは他に多数)(まだまだ増える)。人類に反旗を翻した軍艦達による、異色の艦船擬人化物語が、ここに始まる。  ――――――――――  ●本作のメインテーマは、あくまで(途中まで)史実の地球を舞台とし、そこに船魄(せんぱく)という異物を投入したらどうなるのか、です。いわゆる艦船擬人化ものですが、特に軍艦や歴史の知識がなくとも楽しめるようにしてあります。もちろん知識があった方が楽しめることは違いないですが。  ●なお軍人がたくさん出て来ますが、船魄同士の関係に踏み込むことはありません。つまり船魄達の人間関係としては百合しかありませんので、ご安心もしくはご承知おきを。もちろんがっつり性描写はないですが、GL要素大いにありです。  ●全ての船魄に挿絵ありですが、AI加筆なので雰囲気程度にお楽しみください。  ●少女たちの愛憎と謀略が絡まり合う、新感覚、リアル志向の艦船擬人化小説を是非お楽しみください。  ●お気に入りや感想などよろしくお願いします。毎日一話投稿します。

局中法度

夢酔藤山
歴史・時代
局中法度は絶対の掟。 士道に叛く行ないの者が負う責め。 鉄の掟も、バレなきゃいいだろうという甘い考えを持つ者には意味を為さない。 新選組は甘えを決して見逃さぬというのに……。

鈍牛 

綿涙粉緒
歴史・時代
     浅草一体を取り仕切る目明かし大親分、藤五郎。  町内の民草はもちろん、十手持ちの役人ですら道を開けて頭をさげようかという男だ。    そんな男の二つ名は、鈍牛。    これは、鈍く光る角をたたえた、眼光鋭き牛の物語である。

蒼穹(そら)に紅~天翔る無敵皇女の冒険~ 五の巻

初音幾生
歴史・時代
日本がイギリスの位置にある、そんな架空戦記的な小説です。 1941年5月、欧州大陸は風前の灯火だった。 遣欧軍はブレストに追い詰められ、もはや撤退するしかない。 そんな中でも綺羅様は派手なことをかましたかった。 「小説家になろう!」と同時公開。 第五巻全14話 (前説入れて15話)

処理中です...