久遠の海へ ー最期の戦線ー

koto

文字の大きさ
上 下
20 / 36
最期の連合艦隊

3-6

しおりを挟む
「あと3隻居るはずだ!付近に敵艦は!?」
「視認できません!」
「こちらも敵影なし!!」
 
 ――あと3隻。隊列が乱れたかといっても、そう遠くまで離れることはない。占守島まであと少しだというのに。ここで時間を使いすぎるわけには……。
 
 艦橋の誰もが現状に焦りを感じていた。それは、艦長以下全乗組員が占守島を救いたいと思うからにほかならず、だからこそ、その焦りは時間を追うごとに増していく。
 宇久奈たちは知ることができないことだが、先ほど撃沈したのは片岡湾攻略を任せられた分艦隊の旗艦“レチーヴイ”である。グネフヌイ級駆逐艦の1隻で、基準排水量は約1,600トンと、響とそう違いはない。
 不幸だったのは、響の初弾が艦橋に着弾した事だ。着弾により発生した火災が艦橋の目の前にある速射砲の弾薬に引火し、誘爆を起こした。それによる黒煙がより一層集中砲火を浴びる原因となり、轟沈したのだ。

「探照灯をつかえ!既にこちらの存在も気づかれている!」
 指揮官が全滅した分艦隊と違い、宇久奈は命令を出す。それと同時に強烈な光線が辺りを照らし始める。
 探照灯が原因で集中砲火を受ける可能性は高く、事実過去の海戦で探照灯を点灯した艦が海の底へ沈められていた。探照灯は諸刃の剣と言える物だ。
 
 まだ響が敵艦を捕えられない中、しかし状況は突然変わる事となる。敵艦隊は想定外の方法で見つかることになったのだ。

「艦長!笠戸から緊急入電!“我、敵艦と衝突。機関故障、航行不能……。敵艦3隻視認、これより白兵戦に移る。”以上です!」
「なっ……!」
 
 この濃霧で衝突は決してあり得ない話ではなかった。笠戸は現在のひし形隊形の北側に位置し、響の後方左舷側で航行しているはずだった。しかし、3隻の海防艦は艦隊行動の経験がない。本来あるべき隊形の位置より、かなり北側へ流されていたのだ。だからこそ、カノン砲による砲撃を避け侵攻ルートを大幅に北上してしまった分艦隊と会敵してしまったのだ。

 海防艦“笠戸”は航行不能な状態まで損害を受けたが、もたらされた敵艦3隻発見の報は、損失に余りあるほどの戦果だった。
「敵3隻の撃沈後、我々は占守島の仲間を助けに行く。左舷砲雷撃戦用意!」
 笠戸からの報告で、敵艦隊の位置は確認できた。
 響が進路を敵艦隊へ向け、ほか2隻の海防艦が響の後方に位置するように位置を変える。響を先頭に縦一列に並ぶ陣形、単縦陣を行おうとしているのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

久遠の海へ 再び陽が昇るとき

koto
歴史・時代
 第2次世界大戦を敗戦という形で終えた日本。満州、朝鮮半島、樺太、千島列島、そして北部北海道を失った日本は、GHQによる民主化の下、急速に左派化していく。 朝鮮半島に火花が散る中、民主主義の下、大規模な労働運動が展開される日本。 GHQは日本の治安維持のため、日本政府と共に民主主義者への弾圧を始めたのだ。 俗に言う第1次極東危機。物語は平和主義・民主化を進めたGHQが、みずからそれを崩壊させる激動の時代、それに振り回された日本人の苦悩から始まる。 本書は前作「久遠の海へ 最期の戦線」の続編となっております。 前作をご覧いただけると、より一層理解度が進むと思われますので、ぜひご覧ください。

キャサリンのマーマレード

空原海
歴史・時代
 ヘンリーはその日、初めてマーマレードなるデザートを食べた。  それは兄アーサーの妃キャサリンが、彼女の生国スペインから、イングランドへと持ち込んだレシピだった。  のちに6人の妻を娶り、そのうち2人の妻を処刑し、己によく仕えた忠臣も邪魔になれば処刑しまくったイングランド王ヘンリー8世が、まだ第2王子に過ぎず、兄嫁キャサリンに憧憬を抱いていた頃のお話です。

猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~

橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。 記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。 これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語 ※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります

神楽

モモん
ファンタジー
前世を引きずるような転生って、実際にはちょっと考えづらいと思うんですよね。  知識だけを引き継いだ転生と……、身体は女性で、心は男性。  つまり、今でいうトランスジェンダーってヤツですね。  時代背景は西暦800年頃で、和洋折衷のイメージですか。  中国では楊貴妃の時代で、西洋ではローマ帝国の頃。  日本は奈良時代。平城京の頃ですね。  奈良の大仏が建立され、蝦夷討伐や万葉集が編纂された時代になります。  まあ、架空の世界ですので、史実は関係ないですけどね。

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

海将・九鬼嘉隆の戦略

谷鋭二
歴史・時代
織田水軍にその人ありといわれた九鬼嘉隆の生涯です。あまり語られることのない、海の戦国史を語っていきたいと思います。

【完結】風天の虎 ――車丹波、北の関ヶ原

糸冬
歴史・時代
車丹波守斯忠。「猛虎」の諱で知られる戦国武将である。 慶長五年(一六〇〇年)二月、徳川家康が上杉征伐に向けて策動する中、斯忠は反徳川派の急先鋒として、主君・佐竹義宣から追放の憂き目に遭う。 しかし一念発起した斯忠は、異母弟にして養子の車善七郎と共に数百の手勢を集めて会津に乗り込み、上杉家の筆頭家老・直江兼続が指揮する「組外衆」に加わり働くことになる。 目指すは徳川家康の首級ただ一つ。 しかし、その思いとは裏腹に、最初に与えられた役目は神指城の普請場での土運びであった……。 その名と生き様から、「国民的映画の主人公のモデル」とも噂される男が身を投じた、「もう一つの関ヶ原」の物語。

改造空母機動艦隊

蒼 飛雲
歴史・時代
 兵棋演習の結果、洋上航空戦における空母の大量損耗は避け得ないと悟った帝国海軍は高価な正規空母の新造をあきらめ、旧式戦艦や特務艦を改造することで数を揃える方向に舵を切る。  そして、昭和一六年一二月。  日本の前途に暗雲が立ち込める中、祖国防衛のために改造空母艦隊は出撃する。  「瑞鳳」「祥鳳」「龍鳳」が、さらに「千歳」「千代田」「瑞穂」がその数を頼みに太平洋艦隊を迎え撃つ。

処理中です...