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番外・後日談
27. 正しい野望の燃やし方
しおりを挟む半日休みを取ったはずが、何故か体力を使うことになった午後。
だけどあのアレッシオが、まさかの嫉妬!
嫉妬だよね? そうだよね? ―――をしてくれたとあって、とっても疲れましたが心は最の高に満たされました……。
俺が可愛いって言うとちょっぴり拗ねるんだあいつ。自分は俺のこと可愛い可愛い言うくせに、俺に言われるのは嫌とか。たまにそういう子供っぽい面もあるのを、俺には遠慮なく見せてくれるというところがまたね。
甘えられてる特別感がこう、たまらんのですよ。あああ好き……。
なんて悶えていたら、俺が意識を取り戻した頃には帰宅していた子猫がチクリ。
「みゅ。そーゆー発言だだ漏れにすると、ダメ夫に引っかかったお嬢さんみたいに聞こえるぞ」
なにい!? 失礼な!
いざとなったら自力で爵位買えるぐらいの金を稼げて、熱でへろへろになっているパートナーに「あーん」で食べさせてやるような男がダメ夫はないだろ!
とは思いつつ、でも第三者が耳にしたらそんな風に聞こえるのかもしれんから、俺の心のメモリーに保存するだけで我慢しとくさ。
ちなみにアレッシオはシャワー中だ。
配管を伝って声が別の場所に漏れる問題があって、一緒に風呂に入ったことってないんだよね。
声漏れの何が問題かって? そりゃあ、いろいろと、あれでそれなんだよ。ごにょごにょ。
というのは置いといて、風呂工事は壁をぶち抜いてドアを作るよりも大工事になるみたいなんだよな。水回りは慎重にしなきゃだし。
「そんなん、温泉旅館風の別荘でも建てちまえば?」
「素晴らしい意見だ」
子猫よ、ナイス提案!
……いやいやいや、俺はこれでも真面目な領主様をやっているんだから、私欲でそんなもん建てちゃダメだろ。
…………でもいつか、一緒に風呂に入ってみたいなあ、なんて……。
………………こぢんまりとした、隠れ湯的な温泉宿みたいなのだったら、そんなに費用も日数もかからないと、思うし……。
保留、いや、要検討としておこう。うむ
そんなこんなで十月末、秋祭り復活の日と相成りました。やったー!
収穫祭めっちゃ楽しみだったんだよ。俺が食い意地張ってんのって、あっちの世界の『俺』が影響していると思うんだよね。人が豊かな生活を送るのに美味いメシは欠かせないって信念が染みついてたし。
でもって、こっちの世界の人々も、当たり前だけど美味しいものが食べられるんなら食べたいんだよ。春と秋の二大祭りが全国的に人気なのって、その日は特別に食べられる料理がいろいろ出てくるからっていう面もあるんだ。
だから今回の祭りにおいては、祭り予算が必ず民の代表者に行き渡るよう徹底させた。もう何年も予算がくすねられていたせいで、毎年ガッカリ祭りを開催するしかなかった領民達は、「予算が増えた!」と大喜びだったらしい……。
いや、予算は増やしてないし、毎年計上はしてたんだよ。それが間でごっそり抜かれていたから、彼らは毎年のように、ほぼ自腹で祭りを開催するしかなかったわけで。
それじゃあろくな食べ物も提供できないし、催し物に回すお金も足りないよね。
マジごめんね……。
しかしこれで、かつてのような盛大な祭りをすることができる。ロッソ杯みたいに本邸近くの住民だけじゃなく、ロッソ領全体の村や町でそれぞれの祭りが行われるから、領民全体が楽しめるってわけだよ。
たくさん収穫できた食材で、たくさんの料理の出店が並ぶ。昔は定番料理が二種類ぐらいだったそうなんだが、俺と料理長がタッグを組んでせっせとレシピを流したもんで、今年は今までにないメニューがぐんと増えたそうな。くっくっく。
「さて、視察に向かうぞ!」
「はい、参りましょうか」
「ふっふふ、楽しみですね」
「お供いたします」
ニコラは奥さんの土産になりそうなものはないか探したくて、ラウルは商売のネタ探しを楽しみたいようだ。
まあ俺も視察と銘打って、やることは祭り見物だしな。みんなそれぞれ好きに楽しんでくれたらいいなと思う。エルメリンダは今日休みにしてあげたから、メイド友達と一緒に回るらしい。旦那のジェレミアも半日シフトにしたから、ちゃんと一緒に遊べるぞ。
しかし俺は視察だろうがただのお出かけだろうが、護衛必須。なのでアレッシオとデートと言い切れないところが唯一残念なところだ。
本邸の庭は広過ぎて、門まで行くのにも馬か馬車を使う。今回は馬車でだだっぴろい庭を抜け、門をくぐればそこはもう町だ。
馬で行こうかとも思ったけど、護衛の観点から今回は馬車にして欲しいって言われたんだよね。久々の祭りだから、最初は様子見のために乗り物に入ってて欲しいということだ。
「祭りに何か仕掛けてきそうか?」
誰とは言わないけど、ほら、いたじゃん。なんか俺に勝つことに執念燃やしてそうな奴が。
窓の外に目をやれば、ロッソの馬車に気付いた領民が頭を下げている。下げる前に笑顔だったのがちらりと見えてなんか嬉しいな。
あっちの若いお嬢さんは、護衛の騎馬にきゃあきゃあ黄色い声を送っていそうな雰囲気だ。わかるぞ、かっこいいもんな護衛騎士って。
町の至るところに飾られている花は、生花より造花が多い。でもさすが職人の多い領地の民だけあって、どれも見事だ。本物と見紛いそうなものもあれば、造り物とわかるのに味があって魅力的な作品もある。どうやら子供達も花づくりに参加したようだな。
これらを確実に邪魔したそうな奴が一人いたろ。そいつは大丈夫なんだろうか。
「あなたに妙な対抗心を燃やされている御仁のことですが、現時点でこちらに仕掛けてくる余裕はなさそうですよ」
アレッシオがクスリと嗤った。
「馬術大会は成功したから、さほど焦っていない……というわけでもなさそうだな」
「そうですね、馬術大会は大成功だったそうです。それはもう立派な大会だったそうですよ」
なんか含みのある言い方だな? 軽く首を傾げた俺に、側近達は一様にニヤリと嗤った。
ニコラ君の笑顔までほんのり黒いなと思っていたら、ニコラが爆弾発言を落とした。
「借金だったんです」
「は?」
「あちらの馬術大会、費用のほとんどを借金でまかなってたんですよ。それが返済できていないうちに、お次は収穫祭まで閣下に対抗して盛大にやろうとしていましてね。金貸しが目をギラつかせて見張っているそうです」
「……バカなのか?」
「バカですねぇ」
「バカですよね」
「バカでよろしいかと」
意見が一致した。確定だな。
何か事業を始める時に、いくらかお金を借りるってのはよくある話だが、どう聞いても普通の額じゃないだろ。大イベント二回分だぞ。
「要するに、見栄を張り過ぎたのが仇になり、こちらに妨害行為をわざわざ仕掛けてくる余裕がなくなっているわけです。収穫祭もご丁寧に同じ日に設定したようですからね。同時進行で別の仕事が可能な方ではないとの評判をお聞きしますし、本日は特段何事もないのではと考えます」
もちろん油断は禁物だし、夜になれば酒も出るであろう祭りにトラブルはつきものだ。自警団も領内を交代制で見回り、ギスギスしてはいないけれど、いつもより警戒は強めているそうだ。
「ですので、今回は余事を気にせず、ただ視察を楽しみましょう」
「そうだな」
視察だよ。お仕事だよ!
あー楽しみ♪
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