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蜘蛛の処刑台
122. 家族の手紙と衝撃の事実
しおりを挟むいつも読みに来てくださる方、初めて来られる方もありがとうございます。
本日は久々に3話更新です。
途中アッと思ってもお付き合いいただければと思いますので、よろしくお願いいたします。m(_ _m)
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俺達の泊まっている宿へ届いた手紙に、目元がほころんだ。
緊急用の早馬で届けられた大きな封筒の中には、俺宛ての手紙が複数入っていた。
現時点では、途中で何度も馬を交換する早馬が最速の伝達手段だ。道が真っすぐ平坦であるほど、交換所の数が多いほどに馬の負担は少なく、安定した速さで届けられる。
郵便事業と並行して、王都やヴィオレット領との間にある主要な町をこの方法で繋いでいるが、初期費用と維持費がそれなりにかかる。それに悪天候の下では乗り手も馬も疲弊しやすく、濡れた悪路を飛ばすのは危険なので、別の通信手段の模索も必要だ。
大嵐の来る間隔は、今までは三~四十年に一度だったが、二度来る年があるかもしれないし、二十年後にポッと来ない保証もない。今まではそれが来る前に晴れていたけれど、今後は雨の時もあるかもしれないし、狼煙が次回もまた有効とは断言できなかった。
まだ電気を利用する技術はなく、電信技術の発明へ至るには、次に訪れるであろうそれには間に合いそうにない。
何らかの方法で、より速く正確な情報の伝達を……っていうのは、人の営みの中で永遠のテーマだなと、こういう世界に住んでいるといつも思う。
それは置いといて、手紙の内容だ。
まずはルドヴィクから。
「公爵家と王都警官隊の合同で、ロッソ王都邸の包囲が完了した。ジルベルトとともに、決して重要人物を逃がさないよう、その人物が何者かに害されないよう、またその人物が自害してしまわないよう、厳重な監視が続けられているそうだ」
側近達がほう、と目を瞠ったり息をついたり、反応はさまざまだ。彼らも、まさかそうなるとまでは予測できなかったのだ。
―――彼らの作成した推測交じりの過去の『シナリオ』に、証拠能力が認められる。それを最初に聞いた時は冗談だろうと思ったが、本気も本気だった。
「上の方々も思い切りましたねえ……」
そう言ったのは二コラだ。自分の書いたものがそんな力を持つことになるとは思わなかったのだろう。
「前例のないことなので時間はかかっているが、上の方々は必ずフェランドを、そして奴の昔のお仲間数名をしょっぴくつもりでいるようだ。上は上で、実はフェランド以外に目をつけている者がいて、あの男の罪を問うことでそいつも一緒に引っ張りたいみたいだな」
「なるほど。我々はあの男に縄をかけることを目標にしていましたが、ほかの方々から見た場合、根の近い別の敵がいたということですね」
アレッシオに頷きを返すと、ニコラが「はっ」と嘲笑して肩をすくめた。
「それに勘付いたご友人方が始末に動くかもしれないから、今は奴を大事に保護している段階ってわけですか。いいお友達を持ったもんですねえ。よく似ておいでで、学生時代はさぞかし気が合ったことでしょうよ」
だよな~。多分そいつらも、「どうせ証拠もないのに俺らを捕まえることなんてできやしないだろ~へへーん」みたいに調子こいてたんだろうねえ。ところがフェランドがヤバくなってきて、もしかして俺らもヤバくね? と焦り出したと。
高位貴族が多いって話だから、ここぞとばかりに身分を持ち出して大苦情を入れまくり、お友達のフェランドを助けてあげようとするかもしれない。ところが、そいつらは『貴族たるもの優雅に遊んでナンボ』みたいな主義を貫いてきたせいで、国の重要な地位に就いていない奴が多かった。
面倒なのは家と金の力で、重要ポストもゲットしていた奴。それを黙らせるのに時間がかかっているんじゃないかな。ここまで来ればもう流れは変えられないと思うけれど、奴らを確実にぶちこめるまでは、油断せずに見守り要だな。
「私の実父の件と、奴らが令嬢相手にやっていた悪趣味な『お遊び』については公表しない方向でいくらしい」
「そうするしかないでしょうね……」
「閣下のお父様の件は、ご容姿のこともあって前から想像する方はいそうですけど、令嬢方の件は大騒ぎの大混乱どころではないでしょうね」
「でも遊ばれたご婦人が特定できない形で、『こいつらはこういうこともやっていた』っていう事実だけは伝えたほうが、悪質さがよりわかりやすくて良いと思うんですが」
「ああ、その方向で行くことも検討しているようだな」
上は上で、逃がしたくない巨悪ってやつがいる。もとから俺達に好意的ってだけじゃなく、今回は利害も一致しているから、なおさら積極的に動いてくれているんだろう。
「ほかはご家族のお手紙ですか?」
「ん。ジルとイレーネとシシィからだ」
え。ジルベルト……一撃入れちゃったの? マジで? 手は汚れなかった? 雑菌ついてない? ちゃんと洗ったって? よかったよかった。うん、おまえはいつだって可愛いよ。
ああ、イレーネはルドヴィカや王女様のサポートをしてくれているんだね。同年代の女性は彼女らと仲が良くても、今回の件で母親世代がひょっとしたら敵視するかもしれないから、そこらへんを防ぐように動いてくれているのか。ありがとう、助かります。
シルヴィアは令嬢教育もお勉強も順調らしい。刺繍にハマっていて、かなり複雑な意匠にも挑戦中なんだそうだ。完成したらオルフェ兄様にプレゼントしますねお身体気を付けてくださいねだって、あー和む。
「閣下、うちの父様みたいな顔になってますよ」
やに下がっていたらラウルに突っ込まれた。
え、あの熊オヤジみたいな顔? 嘘。どこが?
「そういえば以前、ジルベルト坊ちゃまが仰っていましたよ。シルヴィアお嬢様は半分、閣下をお父様と認識されているそうです。お兄様というのはきちんと理解なさっているのですが、感覚的にお父様なのだそうで」
なにぃぃー!? アレッシオおまえいつジルベルトとそんな話を!? ってか俺、シルヴィアのお父さんなの?
アレッシオが苦笑し、ニコラとラウルが「あ~…」と納得顔になっている。
え……ひょっとして俺のこの気持ちは「おまえのために父ちゃん頑張るよ」なのか?
そうか……そうだったのか。娘の刺繍が楽しみで気合入る父ちゃん。娘がラウル兄様にもお手紙を書いてて血涙出そうな父ちゃん。
……うん、間違いない。頑張るよ父ちゃん。
側近や護衛騎士を引き連れ、日帰りではなくそこそこの日数をかけての視察は充実したものとなった。
移動は馬車ではなく馬を使っている。ただ歩かせるだけでも風を感じ、生活音や人々の声が耳に飛び込み、すえた悪臭や心穏やかになる花の香り、煮炊きの匂いなどが鼻を通って強い印象を与えてくる。
裏の暗がりに汚いものを放り込んで俺の目から隠そうとし始めると、そこが犯罪の温床になるから清掃活動には力を入れさせた。
大嵐の直後に領民が結成していた自警団は、いい働きをしていたと確認できた者の中から、本業のない者を正式に領警察の末端に組み込んだ。やりがい搾取を蔓延らせたくはないからね、きちんと報酬を約束して治安維持に力を尽くしてもらうことにしたよ。
今日は皆で炊き出しの様子を見に行くことにした。馬から見おろすだけだと、威圧感があってびびらせてしまいそうだから、徒歩で行く。
炊き出し用に使っている広場には仕事の斡旋人も待機させており、そこそこ利用者がいるようだ。
職を失った者があやしい仕事に引きずり込まれないよう、ロッソ家の認可を得た斡旋人を用意して、メシを食いに来た人々に「あそこで仕事紹介してもらえるよ」って声掛けさせるようにしたんだよね。
働かずに餌だけもらいたい奴も中にはいるけど、働きたいのにどうやって仕事を探せばいいのかわからなかった人も結構いて、喜んで利用してくれるそうだ。そういう人の中には、嵐が来る前から既に職が無かったという人も多い。
俺達が歩いていると、領民達は頭をさげてくれる。顔が見える程度の角度だから血色の良さがわかるし、唇にも笑みが見える。馬上だと多分これは見えなかったろうな。
活気のある笑い声もあちこちから聞こえてきた。ここはかなり良い空気だな。
そして、炊き出し広場の近くまで来た。
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※箱入り娘な主人公と娘溺愛過保護な父親コンビのとある日のお話。
追記(2021/10/7)
お茶会の後を追加します。
更に追記(2022/3/9)
連載として再開します。
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