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ロッソを継ぐ者
101. 最後の仕上げ
しおりを挟む以前から少しずつ増やしていた拠点は、西部に詳しい人員を関わらせるよう注文をつけていたのが功を奏し、大方が安全と思われる地帯に建設されていた。
それにお祖父様達のつくり上げたものが全て破壊されたわけでもなかった。過去、道が塞がって孤立したことのある地域には別方向からの道が増やされており、場所によっては村をまるごと移住させていたところもあった。
最大の収入源が宝石といっても、ロッソ領の産業はそれだけではない。加工業に優れた職人も多いけれど、割合は農家のほうが多い。
作物畑や果樹農家。特に多いのが果物関連。山を丸裸にする規模の森林伐採はなく、どこも地盤がしっかりとして山自体の保水力が高く、山崩れのリスクは低かった。
彼らの場合、作物や農地がダメになってしまった場合の収入や、その後の生活について考えておかねばならなかった。
しかし生ハムメロンがうめえ。うめえよ……。
「生き返る。これがなければ倒れていたかもしれん」
「同意見です」
「まさしく」
十六歳、八月。
北部寄りのロッソ領は王国内でも涼しいが、今年は例年より暑かった。南部に比べたらこれでもマシなんだけどね。
ガツンと甘いメロンに塩気のある生ハムは、俺達にとって命綱と化していた。
「王国東部は、今年も何事もなさそうですね」
「西部の一部地域は今年も荒れたらしいがな。遅れて来るかもしれないから油断するなよ」
そこまでやらなくていいんじゃないか、やりすぎなんじゃないか……という空気が一部で微妙に漂っている。それは『来る』ことに確信を持てない、想像をしたこともない者の間から出ていた。
ほぼ確実に来るんだっていう根拠は公表していないからね。その上、人々の頭にあるのは『来た時にどう耐えるか』がメインになる。嵐とは人の身にはどうにもならないというのが常識であり、その後にどうするかを事前にここまで突き詰める領主はいないそうだ。
でも俺は領主様だからね、領主命令でやらせちゃうんだからな。
肩書きが『領主同等』のありがたみよ。俺に実権をプレゼントしてくれた陛下、マジ感謝です。
それにイレーネもありがとうだ。王都の天使はロッソにも再降臨した。臣下筋の小貴族から俺に対する反発が出ていないのは、彼女のおかげである。俺が彼らを招いた社交パーティーを催さない点についてはフェランドに全責任を押し付け(ただの事実だが)、一部はお祖父様を想起させるとかで好意的だったようだ。
生ハムメロンの水分、塩分、糖分を噛みしめる日々の中、懐かしい人々が現われた。
「ヴィク様、ヴィカ様、お久しぶりですね!」
ヴィオレット兄妹がやってきた。それも、ルドヴィクの婚約者も一緒にだ。栗色の髪に浅葱色の瞳の王女様は、気が強そうな眉に切れ長の瞳が悪役令嬢ならぬ悪役王女っぽい美人さんだった。けれど自分の元侍女を苦しめた奴らを全員成敗した人なので、最初から俺には好印象である。
悪役令息の顔した奴ならここにもいるしな。ようこそ同類。俺とアレッシオが並んだ瞬間の笑顔が最も輝いていたのは気付かなかったことにしておくよ。義妹とも仲が良さそうで何より。
「先日から彼女もヴィオレット領で暮らすようになったのだ。今回はおまえに紹介したかったのと、父の仕事の関係で来ている」
「公爵閣下の?」
ヴィオレット公爵領も王都北部にあり、王都よりウチに近い。いざという時のために、双方のルートを築いておこうという提案だった。その話乗った。
公爵家が俺を重んじ、俺がこの兄妹と今も仲良しという証明にもなる。大人数のお客様のおもてなしが大変ではあるけれど、今後が楽になるありがたい後押しだ。
王女とミラも再会できて嬉しそうだしな。女性陣のおもてなしはイレーネに任せ、ルドヴィクを執務室に招き入れた。
「結婚式は再来年以降になると思う。今は誰もが多忙で、落ち着いて準備をするどころではないからな。エテルニアは婚期がどうこうとうるさい輩が多いと聞いたから、彼女にはその前に移住してもらった」
「それがいいでしょうね」
「ジルはまた身長が伸びたぞ。成績も常に学年三位以内に入っている。次に会う時を楽しみにしていろ」
「そうですね……本当に楽しみです」
次か。次はいつ会えるんだろうな。手紙のやりとりは続けているけれど、何もかも片付けた後、一度は会えるだろうか。
「奴は相変わらず、と言いたいが、以前よりも荒んでいるな。かつての栄光はなく、まともな貴族は招待しなくなった。取り巻きの顔ぶれも性質の悪い者ばかりで、学生時代の友人らの中にも相手をしない者が出てきた。これは落ちぶれてもうダメだと、見切りをつけられたようだな」
盗んだ馬を返さないと貴族院に訴えたら、一頭残らずアランツォーネに売却したことになっていると判明し。
『父親』の強権を発動して《秘密基地》を奪り上げようとしたら、ブルーノ準男爵に名義が移っていたと判明し。
全使用人に見限られた当主と囁かれ、新しく雇った使用人は居つかない。苛立つとすぐに物を投げて壊し、逆らえない使用人を捕まえてネチネチ細かく隅々まで精神を抉る。……昔の俺の陰湿版みたいだな。
良い使用人が集まらないから、身だしなみもだんだん雑になり、周りにいるのは持ち上げてくれる腰巾着だけ。
俺に対して何か『行動』を起こそうとしたらすぐにでも捕縛できる準備を整えているが、そこは長年、周囲をだまくらかして君臨してきた蜘蛛野郎だ。なかなか決定的なことをやらない。
「あの男は何もかもを遊戯盤の駒の感覚で遊んでいたために、ルール違反にはならないぎりぎりの線を攻めるのが身に染みついているのではないかと思う」
「ヴィク様の見立てが正しいでしょう。私もそう思います」
不愉快な報告は簡潔に終わらせ、ルドヴィクは王国の地図をおもむろに広げた。
人差し指でロッソ領から、南にある田園地帯を通り、港までを示す。
「これらの領主達には、全面協力の約束を取り付けた」
全員て、つまり王族も?
そうらしい。公爵はルドヴィクに、大昔に没収されたあの図面のことを初めて教えてくれたそうだ。
俺が思った以上に、国の上の方々はあれを重く見ていたらしい。予測される嵐のルートだと、王族の直轄領へ真っ先に乗り上がる。しかも北上したルート上の田園地帯は、港周辺に発展した地域の食糧庫にあたる。
俺が領地でやっていることを密かに参考にして、少しずつ対策を進めていたんだそうだ。おお……何となくそうかなと思ってはいたけれど。
「話の通じる相手ばかりだから心配いらんぞ。港のある領地を治めているのは親戚だしな」
そうか、公爵ってそういう血筋だったね! 陛下が親戚なんじゃん!
学生時代に築いた俺のコネが最強だった件。
従者トリオも仕事に慣れて、これからは彼らがロッソ領や他領を行き来して伝言役をしてくれるそうだ。助かります。
■ ■ ■
月日は過ぎて十二月。俺は十七歳になった。
本邸で身内だけの、しかし盛大なパーティーが行われた。
身内だけと言ったのにヴィオレット兄妹と婚約者はたまたま偶然遊びに来ていた。雪が危ないんだから冬の長距離移動はやめろっつったろ!
でも「来ちゃった♪」をされたからには仕方ない。
後日、ジルベルトから届いた手紙には「僕だけ除け者。ずるい」と書かれていた。いやおまえ、あの双子に言ってよ。つうかおまえ、何歳になったんだ……。
うん、プレゼントは届いたよ。俺が贈り物は食い物がいいって注文つけたから、王都で人気の日持ちする菓子類をたっぷりと。料理長が張り合ってまた腕を上げてくれそうです。
その他変わったことと言えば、農閑期に避難訓練を取り入れてみた。何人かのグループを作って声掛けのリーダーを決めて、避難所に指定した建物へ移動させるんだ。
領主命令ってことでみんな従ったけれど、なんでこんな意味不明なことやらなきゃいけないんだって声も上がった。
ところが、それを一喝してくれたのがまさかのニコラ。
「甘えるのも大概にしなさい。あの方の慈悲によっておまえ達の首が繋がっているのだと、いつになれば自覚できるのです」
そこに追随したのは騎士達だ。俺が領主じゃなきゃおまえら不敬罪で五~六回は首と胴体が離れてんぞと、実例も交えてたっぷりと脅してくれた。
反発しつつも命令を聞くか、怯えて従順になるかのどちらかになるだろう。そう思いきや、びびる連中をさらにシメてくれた者がいた。
「この方々の仰る通りだ。甘ったれんのはそこらへんにしとけよ若造ども」
「だから言ったろうが、大事なことやってんだから従えって」
年老いた領民達である。過去の危機を思い出し、俺達が何をさせているのかを薄々感じ取って、声掛けの役は任せろと言ってくれた者達だった。
後で俺はニコラに謝られ、一連の顛末と、部下達の屈託について聞いた。
アレッシオもラウルも、ニコラに同意見だったというのを初めて聞いて少しショックだった。俺は自分がやりたいように突っ走ってばかりで、彼らの想いをきちんと聞けていなかったんだな。
領民の代表者が何人か本邸に訪れて、俺にこれまでの謝罪と忠誠を誓ってくれた。もちろん領民全員が心から俺に頭を垂れているとは思わないけれど、側近達は幾らか胸がすいたようだった。
■ ■ ■
冬が終わり春が来て、四月十九日。ジルベルトが十六歳になった。
成人年齢に達しても、前回とは異なり、中退はせず高等部一年のまま。
俺は成人祝いとして、《セグレート》の高級文具一式を贈った。
さて、超個人的に気になる現時点での身長だが。
俺は百七十六センチ。前回と変化なし。ふ、ここまでか……。いや、ここまで伸びたら充分だって。
ジルベルトは百八十二センチ。絶対大台に乗っていると思ったんだよ……しかもまだ伸びそう。
ラウルは完全に俺と目線が同じになってしまった。小柄な美少年よいずこ……!
ルドヴィクは百八十五センチだそうで、ジルベルト選手との戦いに注目です。
ニコラは高身長トップ組の一人で、なんと百九十一センチ! すげえ。
そしてトップ組もう一人のアレッシオは百八十九センチだ。でかい!
ヒョロっと長いタイプじゃなく、みんな適度に身体の厚みがあってしっかりしているのがまたなんとも。
俺、小柄じゃないのにね。前回より背、伸びたのにね。
というかキャラクターの身長を決定する時、ヨーロッパの身長を基準にしたんだよ。男の平均は百八十センチ以上、その中でも攻略対象は高身長が多いことにした。職場の白人スタッフが確か百九十三センチだったし、そいつを基準に決めたらこうなった。
みんなおっきくなったなぁ……。
なんて。
なるべく楽しいことで頭をいっぱいにしようとしても、その日は訪れる。
今年だ。
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