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1-2.転生冒険者と男娼王子の最初の一日
十七話
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「……学園に入学してからも私の生活は変わらないと思っていた。だが、入学時の式典を終えた私の元に一人の女生徒が現れた。その女生徒の名前はアンヌ。とある男爵家の庶子で……現王妃だ」
フレデリック様から語られた言葉に、あー、あの気にくわない女かと思い出したくもない姿を思い浮かべる。
「謁見の間で会いましたよ。王妃としての心得もない……頭の軽い女でした」
「お前から見たらそうだろうな。私も否定はしない。あれは、初めて会った時ですら、一般生徒が進入禁止の生徒会棟に入ってきて、廊下の曲がり角で私にぶつかってくるような女だったからな。謝罪はしてきたが……下位貴族とは言え、品性の欠片もない謝罪だった」
当時を思い出し、頭が痛くなったのか、フレデリック様の眉間にしわが寄る。俺としては、フレデリック様に廊下でぶつかったって事に怒りを覚え、みすみすぶつからせたという警備や護衛の怠慢にも怒りを覚えた。
「当然罰は与えたんですよね?」
「一応な。だが、弟が……ジョエルがアレを気に入ったのだ」
重い溜息を吐いたフレデリック様が組んでいた指を外し、眉間を指で揉む。俺としては認めていないが母国の現国王である第二王子は、腹違いな事もあり、フレデリック様とは半年程度しか年齢が離れていないので学年としては同学年に当たる。
俺の家出前から王族としての心得すらわきまえていないような男だったが、あの女を初対面で気に入るとは……割れ鍋に綴じ蓋ってやつだろうな。フレデリック様や国を巻き込まずにやってくれって感じだが。
「当時の生徒会……私やジョエルの王族とその側近、前年から務めている者たちだけで構成されるはずだったところに、ジョエルがアンヌを加えた。私としては、庶子であった娘にたいして、不相応の役だと訴えたのだが……父上に冷遇されつつあった私の言葉を聞くものは居なくてな……前年から務めていた者達は多少私についてくれたが……まあ、何があったかは想像できるだろう?」
「あのアホがやりそうなことと言えば……クビにでもしました?」
「おおむね正解だ。正確には……学園に居れなくなったというのが正しい。家族での食事の際、庶子の友人が身分を理由に生徒会入りを前年からの生徒会役員と私に反対されていると告げたらしくてな……気がつけば、彼らは家の都合による自主退学。私は、選民意識の強い王子として下位貴族出身の生徒に広まっていた」
淡々と告げるフレデリック様からは僅かな後悔が滲んでいる。だが、その状況でフレデリック様に何ができたであろう。
得体のしれない女、それを気に入る弟、味方にならない側近、弟の言葉をうのみにする父王、排除された先輩生徒。例え、次期後継者であっても、ただの一王子でしかない。王が黒を白と言えば、白となる世界で、フレデリック様は無力としか言いようがなかった。
「下位貴族出身の生徒からは王族という理由以外でも遠巻きにされ、上位貴族の中でも良識を持つ者は私から距離を置き、選民意識の強い上位貴族は私を旗頭に担ぎ上げようとする。そして、私をそんな状況に追い込んだ切欠になったアンヌは、しつこいほどに私を構った……フレデリック様は、本当はお優しい方だと知っていますだとか……私は、そんなフレデリック様が大好きですとかな」
疲れたように吐き捨てたフレデリック様に、脳内お花畑を相手にするのは疲れただろうなと、同情する。俺が側に居れたら、婚約者として排除出来ただろうになんとも不甲斐ない。
「三年間付きまとわれ、ジョエルやその側近達からは恨みのこもった眼差しを向けられ……それがようやく終わると思った卒業祝いの式典で……事は起きた」
表情の抜け落ちたような、光のない目でフレデリック様が言葉を続ける。
「王族として、生徒会役員として壇上の上にいた私を、側近候補であった騎士団長の息子であったデビットが取り押さえ、ジョエルが私が犯したという罪をつらつらと連ねていった。アンヌに暴漢を差し向けたなどという事から国庫の横領まで身の覚えのない事ばかりを……いや、一つだけあったな。一度だけ……男を侍らせているアンヌに、娼婦のように見えてしまうから気を付けるようにと……それを、まるで娼婦のようだと言ったと解釈されたものだったが」
いや、単純に慎みを持てってフレデリック様は言っただけで何も悪くなくないかそれ。確かに娼婦という単語を使ったのは悪手だったと思うが、言われても仕方のないほどの有様だろう。
「罪状を告げた後、ジョエルは罪を認めろと言い、アンヌは心から償うのであれば皆許してくれるはずですと宣い……だが、してもいない事を認める事はできん。先に述べた娼婦のくだりだけは認めたがそれ以外は否定した」
「それで……その証言は認められたんですか?」
「認められたと思うか?全ては、茶番……最初から結末は決まっていた。壇上の裏に潜んでいた父上が現れ、私の罪を認めるとそのまま地下牢へと幽閉された。貴族牢などではなくな……結局、私の存在は父上にとっても邪魔でしかなかったようだ」
自嘲するように笑うフレデリック様にかける言葉が見つからない。国全てが敵に回ったような状態で、フレデリック様を助けようとした人間はいなかったに違いない。そうでなければ、王宮娼夫などになっているはずもないのだから。
「無実を叫んでも無駄だと諦め、これ以上の下は無いと地下牢で打ちひしがれていた私の前に……また、アンヌが現れた」
力なく俺の肩に頭を寄せたフレデリック様が呟く。
「……一人で?」
「ああ……どうやって忍び込んだのかはわからないがな」
首筋に額を寄せ、擦り付けるように甘えてくるフレデリック様を撫でながら、その続きを待つ。正直、あまりにも頭お花畑なアレに嫌な予感しかしない。
「アンヌは……私を見て、忌々し気に口を開いた。いい気味ね、メインヒーローの癖に私に落ちないからそうなるのよこのバグ!……と。……どうやらあの女にとって、私もジョエルや側近達のようになる予定だった事だだけは察した。理解できんところもあったがな」
言われた事を思い返しながら口調まで似せてきたフレデリック様に嫌な予感が的中した。前世同郷かよあの女!
フレデリック様から語られた言葉に、あー、あの気にくわない女かと思い出したくもない姿を思い浮かべる。
「謁見の間で会いましたよ。王妃としての心得もない……頭の軽い女でした」
「お前から見たらそうだろうな。私も否定はしない。あれは、初めて会った時ですら、一般生徒が進入禁止の生徒会棟に入ってきて、廊下の曲がり角で私にぶつかってくるような女だったからな。謝罪はしてきたが……下位貴族とは言え、品性の欠片もない謝罪だった」
当時を思い出し、頭が痛くなったのか、フレデリック様の眉間にしわが寄る。俺としては、フレデリック様に廊下でぶつかったって事に怒りを覚え、みすみすぶつからせたという警備や護衛の怠慢にも怒りを覚えた。
「当然罰は与えたんですよね?」
「一応な。だが、弟が……ジョエルがアレを気に入ったのだ」
重い溜息を吐いたフレデリック様が組んでいた指を外し、眉間を指で揉む。俺としては認めていないが母国の現国王である第二王子は、腹違いな事もあり、フレデリック様とは半年程度しか年齢が離れていないので学年としては同学年に当たる。
俺の家出前から王族としての心得すらわきまえていないような男だったが、あの女を初対面で気に入るとは……割れ鍋に綴じ蓋ってやつだろうな。フレデリック様や国を巻き込まずにやってくれって感じだが。
「当時の生徒会……私やジョエルの王族とその側近、前年から務めている者たちだけで構成されるはずだったところに、ジョエルがアンヌを加えた。私としては、庶子であった娘にたいして、不相応の役だと訴えたのだが……父上に冷遇されつつあった私の言葉を聞くものは居なくてな……前年から務めていた者達は多少私についてくれたが……まあ、何があったかは想像できるだろう?」
「あのアホがやりそうなことと言えば……クビにでもしました?」
「おおむね正解だ。正確には……学園に居れなくなったというのが正しい。家族での食事の際、庶子の友人が身分を理由に生徒会入りを前年からの生徒会役員と私に反対されていると告げたらしくてな……気がつけば、彼らは家の都合による自主退学。私は、選民意識の強い王子として下位貴族出身の生徒に広まっていた」
淡々と告げるフレデリック様からは僅かな後悔が滲んでいる。だが、その状況でフレデリック様に何ができたであろう。
得体のしれない女、それを気に入る弟、味方にならない側近、弟の言葉をうのみにする父王、排除された先輩生徒。例え、次期後継者であっても、ただの一王子でしかない。王が黒を白と言えば、白となる世界で、フレデリック様は無力としか言いようがなかった。
「下位貴族出身の生徒からは王族という理由以外でも遠巻きにされ、上位貴族の中でも良識を持つ者は私から距離を置き、選民意識の強い上位貴族は私を旗頭に担ぎ上げようとする。そして、私をそんな状況に追い込んだ切欠になったアンヌは、しつこいほどに私を構った……フレデリック様は、本当はお優しい方だと知っていますだとか……私は、そんなフレデリック様が大好きですとかな」
疲れたように吐き捨てたフレデリック様に、脳内お花畑を相手にするのは疲れただろうなと、同情する。俺が側に居れたら、婚約者として排除出来ただろうになんとも不甲斐ない。
「三年間付きまとわれ、ジョエルやその側近達からは恨みのこもった眼差しを向けられ……それがようやく終わると思った卒業祝いの式典で……事は起きた」
表情の抜け落ちたような、光のない目でフレデリック様が言葉を続ける。
「王族として、生徒会役員として壇上の上にいた私を、側近候補であった騎士団長の息子であったデビットが取り押さえ、ジョエルが私が犯したという罪をつらつらと連ねていった。アンヌに暴漢を差し向けたなどという事から国庫の横領まで身の覚えのない事ばかりを……いや、一つだけあったな。一度だけ……男を侍らせているアンヌに、娼婦のように見えてしまうから気を付けるようにと……それを、まるで娼婦のようだと言ったと解釈されたものだったが」
いや、単純に慎みを持てってフレデリック様は言っただけで何も悪くなくないかそれ。確かに娼婦という単語を使ったのは悪手だったと思うが、言われても仕方のないほどの有様だろう。
「罪状を告げた後、ジョエルは罪を認めろと言い、アンヌは心から償うのであれば皆許してくれるはずですと宣い……だが、してもいない事を認める事はできん。先に述べた娼婦のくだりだけは認めたがそれ以外は否定した」
「それで……その証言は認められたんですか?」
「認められたと思うか?全ては、茶番……最初から結末は決まっていた。壇上の裏に潜んでいた父上が現れ、私の罪を認めるとそのまま地下牢へと幽閉された。貴族牢などではなくな……結局、私の存在は父上にとっても邪魔でしかなかったようだ」
自嘲するように笑うフレデリック様にかける言葉が見つからない。国全てが敵に回ったような状態で、フレデリック様を助けようとした人間はいなかったに違いない。そうでなければ、王宮娼夫などになっているはずもないのだから。
「無実を叫んでも無駄だと諦め、これ以上の下は無いと地下牢で打ちひしがれていた私の前に……また、アンヌが現れた」
力なく俺の肩に頭を寄せたフレデリック様が呟く。
「……一人で?」
「ああ……どうやって忍び込んだのかはわからないがな」
首筋に額を寄せ、擦り付けるように甘えてくるフレデリック様を撫でながら、その続きを待つ。正直、あまりにも頭お花畑なアレに嫌な予感しかしない。
「アンヌは……私を見て、忌々し気に口を開いた。いい気味ね、メインヒーローの癖に私に落ちないからそうなるのよこのバグ!……と。……どうやらあの女にとって、私もジョエルや側近達のようになる予定だった事だだけは察した。理解できんところもあったがな」
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