転生冒険者と男娼王子

海野璃音

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1-2.転生冒険者と男娼王子の最初の一日

十八話

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 いや、待て待て待て待て。流石にメインヒーローとかバグとか、前世っぽい単語を並べてるだけで同郷……地球出身と決めるのは早計だ。

 この世界、どうやら穴だらけらしく……七つ星冒険者の中にも転生者がいる。地球とは違う別世界出身だが。

 だが、俺以前に地球出身の転生者がいたというのは、転生者観察が趣味の観測者を名乗る変人七つ星から聞いたことがある。

 そいつ曰く、地球出身の転生者はどこか楽観的で慢心しているからわかりやすいらしい。七つ星になれそうな能力を持っていても世界をなめ切った態度のせいで五つ星から六つ星あたりで死んでいくんだと。もちろん、例外もいるらしいけどさ。それでも七つ星になれたのは俺以外いなかったらしい。

 だから、俺が地球出身の転生者というのを知って、七つ星までのし上がったことに観測者が驚いていたのを覚えている。

 ……そういう前例があるから、あの性悪お花畑女が俺を舐めきっていたのも、王妃としての心得がないのも、地球出身の転生者の可能性高すぎて嫌なんだよ。

「……その、理解できなかったところってなんて言っていました?」

 あれが地球出身の転生者じゃないことを願って、フレデリック様へと続きを促す。

「なんだったか……ああ、そういえば二コラが学園にいないのはおかしいと言っていたことがあるな。地下牢でも……そんなにアンタを捨てた二コラが好きなら原作での二コラと同じ扱いをしてあげる。と……」

 あー、聞かなければよかった。本来、王宮娼夫に堕とされるのが俺だったとか最悪だし、フレデリック様が落ちなかったから堕とされたとか申し訳がなさすぎる。

 だけど、昨日フレデリック様が言っていた通り、出奔していなかったら俺も仲良く王宮娼夫になっていたのだろう。出奔してよかったと思うが、フレデリック様のことを考えると複雑すぎる。

「あとは……まだ入学して間もない頃に人気のない裏庭で、フレデリックはなかなか靡かないけど、ほかの攻略対象は私にメロメロだしやっぱりこの世界はヒロインとして聖女に転生した私のためだけの世界なのね。と、言っていた事があったな」

 理解できないと首を傾げるフレデリック様に理解できてしまった俺は頭を抱えたくる。確定確定。どう考えても異世界を舐め腐った地球出身の転生者。俺の前世の地球とは時空が違うかもしれないけど、この世界に落ちてくる地球出身の転生者と一致一致。

 言動からするにこの世界をモデルにした恋愛ゲームでもあった世界なのだろう。男が魔法で妊娠できる世界で女主人公で恋愛する意味が分からないが……男女兼用の恋愛ゲームというのも俺の前世で見かけたことがあるからその類なのだと思う。

 まあ、ゲームとこの世界を混同するなとは、俺も人のことは言えない。転生ラノベもの的な捉え方はしてたところもあるし、それでも舐めきっていなかったのは実家からの虐待とフレデリック様がいたからだろう。

 あの女は、庶子で幼い頃苦労していたのかもしれないが、それでも貴族になってからは第二王子を堕とし、王妃まで上り詰めている。それがあの頭お花畑の原因だろう。

「なるほど……というか、あの女本当に聖女なんですか?」

 転生者って言うのも驚きだが、あの性格で聖女っていうのが信じられない。いや、表面上はお花畑気味でも外面はいいから騙しきっているのか。

「国教である聖セーファス教会には認められているからあの国では正式な聖女だ。まあ、王妃になると同時に引退したことになっているがな」

 まあ、そんなところか。あの国での聖女というのは聖属性の魔法に適性があり、治療魔術に精通している貴族女性にのみ与えられる称号だ。性格はアレだが、潜在的な能力自体は俺や歴代の転生者のように高かったといえるのだろう。

「とても聖女とは思えないような女なのに見る目のないことですね。フレデリック様への扱いといい節穴にもほどがある」

 性格の悪いお花畑女を聖女として祭り上げ、フレデリック様を貶めることに加担した国など滅ぶべきだ。

 怒りのままに出てきたが、そろそろこの国のギルドにも話がいっているだろう。それでも俺のところに来ないのは昨日の今日で俺の機嫌が損なわれたままのところに押しかけてさらなる怒りを買いたくないとの判断か。

 ギルドがどのような対応をするか見ものだな。六つ星を動員して、大きな犠牲を出してまであの国を取るか……それとも俺の機嫌を優先してあの国から撤退するか。

 一度、ギルドに顔を出して方針を聞きたいところだが……フレデリック様を一人にするつもりもない。おそらく明日か明後日程度には連絡がくるだろうからそれまで保留にしておこう。

「……二コラ?」

 沈黙する俺にフレデリック様が不思議そうに首を傾げ、俺を呼んだ。いけないいけない。今はあの国のこともギルドの事もほっといていい。

「すみません、話を聞いていたらあの国とあの女への怒りが再燃してしまって……」
「なら、私の話はここまでにしよう。どうせ、その後の話は王宮娼夫としての話しかないから面白くもないだろう」

 俺の頬に手をあて、苦笑するように笑うフレデリック様が俺を見上げてくる。俺としては、フレデリック様のすべてが聞きたいのだがこれ以上は俺の正気も危ういので今日はこの程度にしてもらうとしよう。

「……王宮娼夫としての話は次機会があれば聞かせてください」

 見上げてくるフレデリック様を抱える腕に力を加えてその細い体を抱きしめる。
今この腕の中にいるだけで十分だ。

「どうした?こんなに近くにいるのに寂しくなったのか?」

 楽し気に笑うフレデリック様が俺の首へと腕を回し、抱き返してくれる。頭を抱えるように後ろに回った手が柔らかく髪を撫でるのを感じながらフレデリック様の優しさに甘えたのだった。
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