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1-2.転生冒険者と男娼王子の最初の一日
十六話
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フレデリック様を膝に乗せながらも俺は話を続ける。
「出奔してからは、しばらく森で過ごしました」
「……森?」
俺の突拍子もない言葉にフレデリック様が首を傾げる。
「顔は整っていましたし……実家や王家からの追手を避けるためには一目につかないところが良いと思ったので……完全サバイバルで三年程」
「三年……あの頃のニコラが……?」
困惑を隠しきれないといった表情のフレデリック様。わかる。今考えると俺も無謀な事をしたと思う。
サバイバル知識なんて前世でテレビで見た程度だし、虐待まがいの教育をされていても箱入りで育った俺が三年も森で過ごしたというのはフレデリック様からしたら理解しがたい事に間違いない。
「森というからには、魔物もいたのだろう……?」
「ええ、魔物に襲われたり苦労はしましたが、魔法で何とか。魔法を使う事は禁じられていましたが、学ぶ事は禁じられていなかったので」
実地はぶっつけ本番になったのだが、初級の魔法でも俺の生まれつき多い魔力をもってすれば、平民でも相手できる程度の魔物は敵ではなかった。
多少加減を間違えて消し炭にしたり、想定外の強敵に苦戦したりもしたが制限される事なく魔法を使えるというのは転生者心をくすぐり、俺は魔法へとのめり込んでいった。
「実家から魔法書を持ち出したのもあって楽しくて楽しくて……日々、魔物の死骸は積み重なり、そのおかげで食料に困る事もなく……肉と果物と、時折遭遇した盗賊から奪った調味料で食いつないだ結果がこの体です」
当時を思い出しながら俺は苦笑する。魔法の使用制限も、食事制限すらもなくなった俺は今まで抑制されていた食欲のままに食べに食べた。
最初はただ焼いただけの味付けも何もない肉だったが腹いっぱいに食べられる事が嬉しくて。
次に美味しい肉を探す為に吟味して魔物を狩る様になり、鹿やイノシシ系の魔物を狩っては食い漁り。
ある程度満足してきた頃に料理という存在を思い出して、果物に付け込んだ肉を食べたら旨くて、料理に凝り。
サバイバル生活で汚れてなお、容姿の整った俺に目を付けた盗賊に襲われ、返り討ちにした後、死体漁りをして手に入れた調味料に歓喜し、これでもかと肉を食い。
完全に野生児として才能を開花させた俺は、たった三年でみるみると成長した。今よりは頭一つ分低かったはずだが、それでもこの体が出来上がる為の下地になったと言えるだろう。
「小柄で華奢だった俺から長身で鍛え上げられた肉体美を手に入れた俺は、これなら実家や王家の追手も気がつかないだろうと隣国へ渡る事にしました。森を抜けたまでは良かったのですが……格好があまりにも蛮族すぎた為に最初に立ち寄った村ではオークと間違えられました」
「……オーク」
当時の格好は適当になめした鹿の魔物の皮と盗賊から奪って履きつぶした靴。魔法を使うからほぼ解体用と化した刃こぼれした剣。おそらく俺があの村の人間でもオークと間違えたであろう風貌だ。
「まあ、一応隣国の言葉は話せたので……森に捨てられた子供が生き抜いた青年って感じ受け入れられて、半年くらいはそこの村にお世話になった後、大きな町に向かって冒険者になったって感じです」
「当時のお前を知っていると受け入れがたい話だな……」
俺からしたら野生児生活がなんだかんだ肌に合っていたので今までの人生の中では一番楽しく生きていた時代なのだが、俺以上に箱入りで育ったフレデリック様からしたらありえない話だったようで想像しただけでも疲れたのか俺の肩へと頭をもたれさせた。
「だが、話しているお前を見ていると何の制限もなくなったその生活を楽しんでいたことがわかる。私にはできそうにないがな」
「私も、フレデリック様にそう言う生活は強いたくありません。今後、森で過ごす事があったとしたら、ここと変わらぬ快適な生活を送っていただけるように全力を尽くしましょう」
野生児生活の時は家すらなく、洞窟暮らしだったのだが、そんな生活をフレデリック様にさせるつもりはない。今の俺なら魔法で家も建てれるし、早急に快適な生活を送れるように環境を整えられる事だろう。
「お前といれば、生活に困る事はなさそうだな」
俺を見上げたフレデリック様が俺の頬を撫でて笑みを浮かべる。
「もちろん、あなたに不自由はさせませんよ」
今まで苦労してきたのだから、どのような条件下であれ、フレデリック様が快適に暮らせるようにするのが俺の役目だろう。今のように満ち足りた笑みが当たり前になる様に。
頬を撫でるフレデリック様の手に僅かに甘えるように頬を寄せ、見上げてくるフレデリック様と視線を交わらせる。
「俺が冒険者になるまではこんな感じでしたが……フレデリック様のこの三年間はどう過ごされていたんですか?」
「お前が居た時と変わらんさ。次期後継者として学び、淡々とした日常を過ごすだけ……ああ、だが……私の運命が狂ったのは……十六のあの日。王立学院に入学したのが切欠だったのだろう」
フレデリック様が俺の頬を撫でていた手を降ろし、膝の上で両手の指を組むように手を握った。
「出奔してからは、しばらく森で過ごしました」
「……森?」
俺の突拍子もない言葉にフレデリック様が首を傾げる。
「顔は整っていましたし……実家や王家からの追手を避けるためには一目につかないところが良いと思ったので……完全サバイバルで三年程」
「三年……あの頃のニコラが……?」
困惑を隠しきれないといった表情のフレデリック様。わかる。今考えると俺も無謀な事をしたと思う。
サバイバル知識なんて前世でテレビで見た程度だし、虐待まがいの教育をされていても箱入りで育った俺が三年も森で過ごしたというのはフレデリック様からしたら理解しがたい事に間違いない。
「森というからには、魔物もいたのだろう……?」
「ええ、魔物に襲われたり苦労はしましたが、魔法で何とか。魔法を使う事は禁じられていましたが、学ぶ事は禁じられていなかったので」
実地はぶっつけ本番になったのだが、初級の魔法でも俺の生まれつき多い魔力をもってすれば、平民でも相手できる程度の魔物は敵ではなかった。
多少加減を間違えて消し炭にしたり、想定外の強敵に苦戦したりもしたが制限される事なく魔法を使えるというのは転生者心をくすぐり、俺は魔法へとのめり込んでいった。
「実家から魔法書を持ち出したのもあって楽しくて楽しくて……日々、魔物の死骸は積み重なり、そのおかげで食料に困る事もなく……肉と果物と、時折遭遇した盗賊から奪った調味料で食いつないだ結果がこの体です」
当時を思い出しながら俺は苦笑する。魔法の使用制限も、食事制限すらもなくなった俺は今まで抑制されていた食欲のままに食べに食べた。
最初はただ焼いただけの味付けも何もない肉だったが腹いっぱいに食べられる事が嬉しくて。
次に美味しい肉を探す為に吟味して魔物を狩る様になり、鹿やイノシシ系の魔物を狩っては食い漁り。
ある程度満足してきた頃に料理という存在を思い出して、果物に付け込んだ肉を食べたら旨くて、料理に凝り。
サバイバル生活で汚れてなお、容姿の整った俺に目を付けた盗賊に襲われ、返り討ちにした後、死体漁りをして手に入れた調味料に歓喜し、これでもかと肉を食い。
完全に野生児として才能を開花させた俺は、たった三年でみるみると成長した。今よりは頭一つ分低かったはずだが、それでもこの体が出来上がる為の下地になったと言えるだろう。
「小柄で華奢だった俺から長身で鍛え上げられた肉体美を手に入れた俺は、これなら実家や王家の追手も気がつかないだろうと隣国へ渡る事にしました。森を抜けたまでは良かったのですが……格好があまりにも蛮族すぎた為に最初に立ち寄った村ではオークと間違えられました」
「……オーク」
当時の格好は適当になめした鹿の魔物の皮と盗賊から奪って履きつぶした靴。魔法を使うからほぼ解体用と化した刃こぼれした剣。おそらく俺があの村の人間でもオークと間違えたであろう風貌だ。
「まあ、一応隣国の言葉は話せたので……森に捨てられた子供が生き抜いた青年って感じ受け入れられて、半年くらいはそこの村にお世話になった後、大きな町に向かって冒険者になったって感じです」
「当時のお前を知っていると受け入れがたい話だな……」
俺からしたら野生児生活がなんだかんだ肌に合っていたので今までの人生の中では一番楽しく生きていた時代なのだが、俺以上に箱入りで育ったフレデリック様からしたらありえない話だったようで想像しただけでも疲れたのか俺の肩へと頭をもたれさせた。
「だが、話しているお前を見ていると何の制限もなくなったその生活を楽しんでいたことがわかる。私にはできそうにないがな」
「私も、フレデリック様にそう言う生活は強いたくありません。今後、森で過ごす事があったとしたら、ここと変わらぬ快適な生活を送っていただけるように全力を尽くしましょう」
野生児生活の時は家すらなく、洞窟暮らしだったのだが、そんな生活をフレデリック様にさせるつもりはない。今の俺なら魔法で家も建てれるし、早急に快適な生活を送れるように環境を整えられる事だろう。
「お前といれば、生活に困る事はなさそうだな」
俺を見上げたフレデリック様が俺の頬を撫でて笑みを浮かべる。
「もちろん、あなたに不自由はさせませんよ」
今まで苦労してきたのだから、どのような条件下であれ、フレデリック様が快適に暮らせるようにするのが俺の役目だろう。今のように満ち足りた笑みが当たり前になる様に。
頬を撫でるフレデリック様の手に僅かに甘えるように頬を寄せ、見上げてくるフレデリック様と視線を交わらせる。
「俺が冒険者になるまではこんな感じでしたが……フレデリック様のこの三年間はどう過ごされていたんですか?」
「お前が居た時と変わらんさ。次期後継者として学び、淡々とした日常を過ごすだけ……ああ、だが……私の運命が狂ったのは……十六のあの日。王立学院に入学したのが切欠だったのだろう」
フレデリック様が俺の頬を撫でていた手を降ろし、膝の上で両手の指を組むように手を握った。
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