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- 8章 -
- 出会い -
しおりを挟む今思い返せば、鈴橋を意識し始めたのはこの時からだろう。
意識して見たことはなかったが、こうして見てみると暖かい風を受けながら揺れる髪に見え隠れする顔は意外と整っていて無意識に喉がなった。
いつも張り巡らせている近寄りがたい空気は今は感じられず、植野は無防備に目を閉じた鈴橋へと歩みを進めた。
1歩、2歩、まだ気がつかない。
3歩、4歩…気がつかない。
更にまた1歩。
ついに鈴橋の目の前まで来ていた。
そこまで来て、植野は戸惑いを見せた。
一体なんて声をかければ良いのだろう。
なにしてんの?
どうしていつも見てんの?
部活はどうした?
なんだかどれもしっくりとこない。
沈黙が続くこと何秒だろうか。
物凄く長く感じたのは緊張していたからだろう。
結局植野が声をかける前に、鈴橋が顔を上げた。
言うべき言葉も決まらぬままばちっりと視線が合ってしまい、なんでも良い、なにか言わないとと口を開きかけた瞬間……
「…ぇ?」
あまりの予想だにしない出来事に声を失う。
鈴橋は目の前に居る植野などまるで居ない存在かのように教科書へと視線を落とすと、静かにページをめくり始めたのだから。
「えーと…」
「……なに?」
「なん、だろうね」
そこには彼特有のオーラ全開で自分を見上げる、いつもの鈴橋の姿があった。
『なに?ってなんだよ』
邪魔が入ったとでも言うように植野を睨みつけ一瞥した鈴橋は、溜め息と共に机に広げた教科書をまとめ始める。
「ちょっ、ちょっと!」
「………」
『メデューサかお前はっ…!』
睨まれた蛙が如く、この視線でヤられる奴はきっと少なくないだろう。淀みなくスタスタと教室を出て行こうとする鈴橋に、この機を逃しては次はないかもしれないと思い切って口を開いた。
「あのさっ! お前、よく教室から見てるよな?なんでだろうって…思って」
その問いに微かに眉を動かした鈴橋だが、1度俯き思考するような間を置いてから再び顔をあげ、いつもの仏頂面で真っ直ぐな視線を向けた。
「別にこれといった理由なんてない。ただ、いつも馬鹿みたいに元気で」
「ばっ……」
馬鹿って、と言いかけた植野だが、続く鈴橋の言葉に音にならず終わった。
「綺麗な飛び方してる奴が居るなって思ってただけだ」
誉められた事にか、はたまたいつもの仏頂面で意外な事を言ったからか。ほおけて言葉を失った植野は、そのまま教室を出る鈴橋を見送ったのだった。
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