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慰弦

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- 8章 -

- 休日 -

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『懐かしいなぁ…あの頃はまさかがっくんと一緒にご飯食べたり映画鑑賞するなんて予想もしなかったよ』

ぼんやり鈴橋を見つめながらそんな事を考えていると、その視線に気づいた鈴橋から全力の嫌そうな顔で見返された。


「……なに?」

「っデジャブ!?」

「は?」

「いやいや、なんでもないないっ!!」


いやぁ弁当まじ美味いなぁ!とわざとらしく言いながらもう一口運ぼうとした瞬間、予告もなく背中にズッシリとした重みが被さってくる。


「!?」

「本当だぁっ!美味しそうねっ!学君のお母様作かしら?私も一口貰って良い?」

「っふざけんな!これはがっくんの母さまが俺とがっくんにって…」


乗っかった体重の正体は、息子の要望通り着替えを済ませた若子だった。その体重を押し退ける様に背中をそったが…


「あ、どうぞ」

「わぁい♡いただきま~すっ☆」


鈴橋が了承したならどうしようもない。反論したげな植野を他所に輝かしい笑みを讃えながら息子の隣へと座った若子は、目を閉じて両手をパチンと合わせた。


「綾ちゃんの為にも、美味しいの食べてお勉強しなきゃね!」


なんと子供思いの母なのだろうか。若子の立場にたって考えてみれば、我が子が他の母親が作った料理を美味い美味いと食べる姿を見るのは多少やるせない気にもなるだろうに。

少しだけ罪悪感に苛まれ、なにかフォローを入れようと口を開きかけたその時…


「じゃ、綾ちゃん、あーん♡」

「………」


若子が我が子に向かって可愛く口を開き、甘えるように両の手の人差し指で自分を指した。


「っ、誰がやるかっ!」


色々な意味を含む恥ずかしさから赤面した植野は隣に座る母から距離をとるように立ち上がる。


「えー…ケチィー…」

「そういう問題じゃねぇだろっ!!」

「良いもん良いもんっ!綾ちゃんがやってくれないなら学君にやってもらうもん!」

「あ゛ぁ!?お前なに考えてっー」


そんな驚愕な母の一言に、いくら免疫はあれども思わず一瞬言葉を失った。その隙に若子は鈴橋へと、先程息子にやったように口を開いた。


「いっ、いやいや!やらないでも良いからねっ、がっく…」


なんて迷惑なことをっ!!

断りづらいだろうこの局面を息子としてもなんとなしなければと阻止しようとするが、そんな植野の言葉をまたずして鈴橋は予想を裏切る行動にでたのだった。


「どうぞ」


と、短く一言。鈴橋はなんの抵抗なく若子の開いた口へとおかずを運んだ。

まさしく、恋人同士がするように。


『うっ、羨ましすぎるっ…ってか、なんでそんな抵抗もなく出来ちゃうわけっ!?』


あまりの出来事に声を出す事すら出来ず、2人を見つめたまま動けない。そんな植野とは違い鈴橋と母は楽しそうに会話を交わし始める。


「どうですか?」

「んー……なにこれっ!物凄く美味しいっ!?冷えてもジューシー!!なにか秘訣はあるのかしら…?」
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