異世界転移と同時に赤ん坊を産んだ俺の話

宮野愛理

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現在過去未来、それぞれの後悔

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 セキュリティの心配はしたが、ファディーノさんも「さすがにね」と言って外殿と内殿の間に転移することになった。それでも結構なプライベートエリアだが、外殿に入るところの門だと色々と説明に時間が掛かりそうなので除外することに。
 バイラムとファディーノさんに面識はあるらしいし、内殿の門のところでバイラムを呼んでもらおう。エルメーアでも大丈夫だろうし。俺の一存で突破なんて出来ないところが、あそこでの立場を物語っているな……。

「ヒサシ様! ご無事で!! ……ファディーノ様も、ご無沙汰しております。戻りの場所はこちらだろうと思っていましたが、違いなく良かったです」
「久しぶり、バイラム。こっちは娘のイルリオナだよ。いや、ベルグリッタの居場所がわかればそっちに直接行ったんだけどね」
「ファディーノ様をご存じの者も減りました。変に面倒を起こすよりはよろしいかと……しかし助かりました。もう少し遅かったらどうなるかと」

 心なしかげっそりしているバイラムの背後、内殿のさらに先の離宮のエリアで何故か陽炎が立っている。そんなのが起きるような気温だっただろうか。

「エルメーアに状況を聞きまして、転移した先はファディーノ様のところだと推察しておりました。陛下にもそう説明をしたのですが……とりあえず説明は移動しながらにいたしましょう。ベルグリッタ様もそちらにおります」

 至急だとしても歩ける範囲、若干の早足でバイラムとともに向かう。道中で言われた説明は、なんというか……。

「あの陽炎がチビのせい?」
「魔力の揺れがそう見せているのです」

 俺がベルグリッタ様に転移させられてすぐ、チビが異変に気付いたらしい。そのまま会議をほっぽり出してベルグリッタ様とエルメーアを問いただし――とバイラムは言っているが、尋問に近かったと思われる――しかし、説明をする前にベルグリッタ様が倒れてしまったそうだ。

「かなり無理をされていたのだと思います。それがどのような理由なのかは、私にはわかりませんが……最悪の事態も考えられるので、ファディーノ様がいらして下さり安心しました」

 ファディーノさん、長く生きているからか色々な事象に精通しているそうだ。それこそ心霊的なものから、農業・漁業なんかのあれこれ、医学・薬学(といってもこの世界なので民間療法的なものらしいが)そういった学問まで……凄いな。その知識量を見込まれて支倉さんの手伝いをしていたと言われ、然もありなんと思ってしまった。

「まぁでも……寿命ばかりは僕にもどうしようもないけどね」

 ぽつりと呟かれたそれは、話を聞いてからなんとなく予想していたことなんだろう。バイラムに案内された離宮の一室でベッドに横たわったベルグリッタ様は、つい数時間前とは全く変わった姿だった。

「ふふ……こんな姿、見せたくなかったわ」

 弱々しく笑うベルグリッタ様は、こう言っては失礼だけれど枯れ木のようだった。姿変えの魔法を使う余裕もないんだろう。それでも「こんなおばあちゃんな姿、ディノに見せたくなかった」と軽口を叩いている。
 俺だってショックなんだ。何年? 何十年? と離れていたイルリオナちゃんはもっとショックを受けていた。

「イル、僕はお母さんを看るから少し離れていて」

 そんな娘の機微に気付いたファディーノさんにそう言われて、俺とイルリオナちゃんはバイラムに案内されて隣の部屋へと通された。
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