67 / 80
現在過去未来、それぞれの後悔
⑧
しおりを挟む隠されていたことを説明したからと言って、本人が納得するかは別問題な訳で。
「そんな大事なこと! なんで今更言うんだよ、クソ親父!! あんたら夫婦勝手すぎるだろ!!」
禁足地とされた対象者はイルリオナちゃんの許嫁だったらしい。いや、それも本人が納得していないので候補者というところだろうか。
「赤ん坊のイルを奪われることを考えたら、ひとまずそういうことにしたんだよ! 苦肉の策だったの!!」
「知るかぁあ!!」
大声を張り上げているが、二人とも取っ組み合いにはなっていない。魔法も使っていないしせいぜい押し合いくらいのレベル……それでも目の前で喧嘩をされると、部外者としてはどうしたら良いのか悩むわけで。
「相手が竜族とか、無理! 会ったことがないとか本当に無理!」
「いや、会ったことはあるよ。イルが赤ちゃんの時に」
ファディーノさん、それは……意味がない。
物心がつく頃とされる三、四歳でも後々になって覚えていることは少ない。そんなことを言ったら俺だって色々と覚えていたかったことがある。チビほど自意識がしっかりとしていれば(本人曰く純粋な赤ん坊ではなかったらしいが)覚えているだろうけど、普通の人間には無理な話だ。
「それでも! それでも……ベルグリッタが来れないんだよ。僕たちが行くしかないじゃないか!」
「これだけ会っていなくて? それで親父殿の言うとおり、私のことを愛してくれていたとして? 今更だよ」
ベルグリッタ様がイルリオナちゃんを産んで直ぐに、竜族から結婚の打診があったそうだ。とはいえ相手は赤ん坊で、結婚云々は成人を待ってからとなったらしい。
しかも聞いたところでは、獣族と竜族の結婚相手は〝ただ一人〟と決めた人だけだそうで……つまるところ、その二種族は結婚相手に対する執着が激しい。攫うまではしなかったらしいが、頻繁にお相手がイルリオナちゃんに会いに来て構いまくるせいで日常生活が困難になったそうだ。そして「イルが大人になって、結婚に納得したら連れて行くから」と言ってこの森に引っ込んだとのこと。
森に突撃してきたら、戦争になったとしても結婚はさせないとまで言い切ったらしい。
だからそのお相手限定の〝禁足地〟だったんだけど、そのあたりを説明出来ずに時が過ぎて今に至ると。
俺、矢の射かけられ損じゃないかな。生きているから良いけれど。
「あの人と話すことなんてない……」
そう言いながらも、イルリオナちゃんの表情は晴れていなかった。それを言い切るには迷いがある、といった感じだ。
「俺は部外者だけど……でも、会えるなら会ったほうが良いよ。それは本当に、そう思う。恨みでも辛みでも、なんでもいいから伝えた方が良い。伝えることがなくても、一目会うだけで気持ちの整理が出来るから……」
「お前に……!」
「わかるよ。俺も……捨てられっ子だから」
ははは、と笑って言えるくらいには大人になった。
違うな。本当に吹っ切れたのは、チビって存在が産まれてからだ。と考えると結構最近までウジウジとしていたかもしれない。まぁ思い出したときにってくらいで、毎日のように考えてたわけじゃないけれど。
「親のことも家族のことも覚えていない。一度くらいは会ってみたかったけどね」
三歳で児童施設に保護された。向かえに来てくれるかな、なんて考えたこともある。幼少期はそれを振り払うようにヤンチャに過ごして、名誉の負傷として顔に傷も作った。村ではそれで誤解をされた訳だが後悔はしていない。
「周りに恵まれていたってのもあるけど……親が居なくっても生きては行ける。どっちを選択したとしても、それは本人の自由だけどね。会って後悔するのと、会わないで後悔するの……俺は会って後悔したほうがいいと思うってだけだ」
遠目に見るだけでも、もしかしたら気持ちの整理がつくかもしれないし。
「僕たちが出て行っても、あいつだってそんな直ぐに気付かないと思うしさ……会うだけ会ってみようよ、イル。それで話したくないって思うんならもう無理は言わないから」
「……」
「そういえば。行くとして、ファディーノさんは場所がわかるんですか?」
確か座標がわからないと転移は出来ないと聞いた。その質問に対しては「離宮の場所までは把握していないけど、内殿の結構奥のほうまで知ってるよ。支倉くんに案内してもらったから」と教えてくれた。
あそこ、セキュリティは結構ガバガバなんだろうか。
0
お気に入りに追加
558
あなたにおすすめの小説
ちっちゃくなった俺の異世界攻略
鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた!
精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!
主人公の兄になったなんて知らない
さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を
レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を
レインは知らない自分が神に愛されている事を
表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
六日の菖蒲
あこ
BL
突然一方的に別れを告げられた紫はその後、理由を目の当たりにする。
落ち込んで行く紫を見ていた萌葱は、図らずも自分と向き合う事になった。
▷ 王道?全寮制学園ものっぽい学園が舞台です。
▷ 同室の紫と萌葱を中心にその脇でアンチ王道な展開ですが、アンチの影は薄め(のはず)
▷ 身代わりにされてた受けが幸せになるまで、が目標。
▷ 見た目不良な萌葱は不良ではありません。見た目だけ。そして世話焼き(紫限定)です。
▷ 紫はのほほん健気な普通顔です。でも雰囲気補正でちょっと可愛く見えます。
▷ 章や作品タイトルの頭に『★』があるものは、個人サイトでリクエストしていただいたものです。こちらではいただいたリクエスト内容やお礼などの後書きを省略させていただいています。
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
謎の死を遂げる予定の我儘悪役令息ですが、義兄が離してくれません
柴傘
BL
ミーシャ・ルリアン、4歳。
父が連れてきた僕の義兄になる人を見た瞬間、突然前世の記憶を思い出した。
あれ、僕ってばBL小説の悪役令息じゃない?
前世での愛読書だったBL小説の悪役令息であるミーシャは、義兄である主人公を出会った頃から蛇蝎のように嫌いイジメを繰り返し最終的には謎の死を遂げる。
そんなの絶対に嫌だ!そう思ったけれど、なぜか僕は理性が非常によわよわで直ぐにキレてしまう困った体質だった。
「おまえもクビ!おまえもだ!あしたから顔をみせるなー!」
今日も今日とて理不尽な理由で使用人を解雇しまくり。けれどそんな僕を見ても、主人公はずっとニコニコしている。
「おはようミーシャ、今日も元気だね」
あまつさえ僕を抱き上げ頬擦りして、可愛い可愛いと連呼する。あれれ?お兄様、全然キャラ違くない?
義弟が色々な意味で可愛くて仕方ない溺愛執着攻め×怒りの沸点ド底辺理性よわよわショタ受け
9/2以降不定期更新
麗しの眠り姫は義兄の腕で惰眠を貪る
黒木 鳴
BL
妖精のように愛らしく、深窓の姫君のように美しいセレナードのあだ名は「眠り姫」。学園祭で主役を演じたことが由来だが……皮肉にもそのあだ名はぴったりだった。公爵家の出と学年一位の学力、そしてなによりその美貌に周囲はいいように勘違いしているが、セレナードの中身はアホの子……もとい睡眠欲求高めの不思議ちゃん系(自由人なお子さま)。惰眠とおかしを貪りたいセレナードと、そんなセレナードが可愛くて仕方がない義兄のギルバート、なんやかんやで振り回される従兄のエリオットたちのお話し。
種付けは義務です
S_U
BL
R-18作品です。
18歳~30歳の雄まんことして認められた男性は同性に種付けしてもらい、妊娠しなければならない。
【注意】
・エロしかない
・タグ要確認
・短いです!
・モブおじさんを書きたいがための話
・名前が他の書いたのと被ってるかもしれませんが別人です
他にも調教ものや3Pもの投稿してるので良かったら見てってください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる