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現在過去未来、それぞれの後悔

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 隠されていたことを説明したからと言って、本人が納得するかは別問題な訳で。

「そんな大事なこと! なんで今更言うんだよ、クソ親父!! あんたら夫婦勝手すぎるだろ!!」

 禁足地とされた対象者はイルリオナちゃんの許嫁だったらしい。いや、それも本人が納得していないので候補者というところだろうか。

「赤ん坊のイルを奪われることを考えたら、ひとまずそういうことにしたんだよ! 苦肉の策だったの!!」
「知るかぁあ!!」

 大声を張り上げているが、二人とも取っ組み合いにはなっていない。魔法も使っていないしせいぜい押し合いくらいのレベル……それでも目の前で喧嘩をされると、部外者としてはどうしたら良いのか悩むわけで。

「相手が竜族とか、無理! 会ったことがないとか本当に無理!」
「いや、会ったことはあるよ。イルが赤ちゃんの時に」

 ファディーノさん、それは……意味がない。
 物心がつく頃とされる三、四歳でも後々になって覚えていることは少ない。そんなことを言ったら俺だって色々と覚えていたかったことがある。チビほど自意識がしっかりとしていれば(本人曰く純粋な赤ん坊ではなかったらしいが)覚えているだろうけど、普通の人間には無理な話だ。

「それでも! それでも……ベルグリッタが来れないんだよ。僕たちが行くしかないじゃないか!」
「これだけ会っていなくて? それで親父殿の言うとおり、私のことを愛してくれていたとして? 今更だよ」

 ベルグリッタ様がイルリオナちゃんを産んで直ぐに、竜族から結婚の打診があったそうだ。とはいえ相手は赤ん坊で、結婚云々は成人を待ってからとなったらしい。
 しかも聞いたところでは、獣族と竜族の結婚相手は〝ただ一人〟と決めた人だけだそうで……つまるところ、その二種族は結婚相手に対する執着が激しい。攫うまではしなかったらしいが、頻繁にお相手がイルリオナちゃんに会いに来て構いまくるせいで日常生活が困難になったそうだ。そして「イルが大人になって、結婚に納得したら連れて行くから」と言ってこの森に引っ込んだとのこと。
 森に突撃してきたら、戦争になったとしても結婚はさせないとまで言い切ったらしい。
 だからそのお相手限定の〝禁足地〟だったんだけど、そのあたりを説明出来ずに時が過ぎて今に至ると。
 俺、矢の射かけられ損じゃないかな。生きているから良いけれど。
  
「あの人と話すことなんてない……」

 そう言いながらも、イルリオナちゃんの表情は晴れていなかった。それを言い切るには迷いがある、といった感じだ。

「俺は部外者だけど……でも、会えるなら会ったほうが良いよ。それは本当に、そう思う。恨みでも辛みでも、なんでもいいから伝えた方が良い。伝えることがなくても、一目会うだけで気持ちの整理が出来るから……」
「お前に……!」
「わかるよ。俺も……捨てられっ子だから」

 ははは、と笑って言えるくらいには大人になった。
 違うな。本当に吹っ切れたのは、チビって存在が産まれてからだ。と考えると結構最近までウジウジとしていたかもしれない。まぁ思い出したときにってくらいで、毎日のように考えてたわけじゃないけれど。

「親のことも家族のことも覚えていない。一度くらいは会ってみたかったけどね」

 三歳で児童施設に保護された。向かえに来てくれるかな、なんて考えたこともある。幼少期はそれを振り払うようにヤンチャに過ごして、名誉の負傷として顔に傷も作った。村ではそれで誤解をされた訳だが後悔はしていない。

「周りに恵まれていたってのもあるけど……親が居なくっても生きては行ける。どっちを選択したとしても、それは本人の自由だけどね。会って後悔するのと、会わないで後悔するの……俺は会って後悔したほうがいいと思うってだけだ」

 遠目に見るだけでも、もしかしたら気持ちの整理がつくかもしれないし。

「僕たちが出て行っても、あいつだってそんな直ぐに気付かないと思うしさ……会うだけ会ってみようよ、イル。それで話したくないって思うんならもう無理は言わないから」
「……」
「そういえば。行くとして、ファディーノさんは場所がわかるんですか?」

 確か座標がわからないと転移は出来ないと聞いた。その質問に対しては「離宮の場所までは把握していないけど、内殿の結構奥のほうまで知ってるよ。支倉くんに案内してもらったから」と教えてくれた。
 あそこ、セキュリティは結構ガバガバなんだろうか。
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