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チビの正体と自分の役割
閑話 ~終わった恋と幼馴染~
しおりを挟む――「じゃあな」
その言葉に何かを返す前に、彼らを中心として眩く光る。それは一瞬だったが、その瞬きほどの間に三人の姿は見えなくなった。
一瞬の後に周りからは「おぉ」と感嘆の息が漏れる。
人族しか居ない村だ。魔法なんて火を熾すか水を出すかくらいの生活魔法しかない。子供も大人も、初めて見た転移魔法にはしゃぐ姿がそこかしこに見える。
「……」
はしゃいでいないのは数える程度で、それはきっと、オンラーシを憎からず思っていた人間だろう。
自分は自覚してからたった三ヶ月しか経っていない恋だけれど……――ユアンは苦く溜息を吐いた。
年齢差もある。だから、いつかオンラーシが誰かの物になることはわかっていた。
それが、こんなに早いとは思わなかっただけだ。
泣けば良いのに泣くことが出来ない。
ただ胸にポッカリと穴が空いたようで、それがただただ苦しい。
唐突過ぎて別れの品すら用意出来なかったのも口惜しい。
餞別と言いながらブレスレットを手渡したシギが羨ましい。
「……ユアン」
自分のほうが泣きそうな顔をしているアランに名を呼ばれる。先程からチラチラと心配そうに見られていたのは気付いていたが、ユアンのほうに反応する余裕はなかった。
オンラーシとチビには、別れの挨拶は出来たと思う。他の子供たちと同じように、少し強いくらいの力で頭を撫でて貰っている。
どこまでも、オンラーシにとってのユアンは村の子供でしかなかった。
「その、大丈夫か……?」
「……うん。平気。……だと思う……多分」
考えが纏まらないままではそんな言葉しか出てこない。
これでは大丈夫なのかどうかわからないなぁ……と思いながらユアンは少しだけ笑ったが、その笑顔は歪だった。
「行こう。ここ、暑いし」
「え?」
「また川に行こうぜ」
確かに暑い。先程までは気にならなかったが、今は酷く暑く感じる。
なのに握られたアランの手を熱く感じて、ユアンは自分の手が冷え切っていることに気付いた。それは向こうも同じなのだろう。握った後に、少しだけ顔を顰めたのが見える。
「あ、でも……手伝い」
「今日はサボり。ほら、チビどもに気付かれない内に行くぞ」
大人は仕事の為にチラホラと解散を始めていたが、子供たちはまだまだ興奮が冷めないようだ。今なら誰にも気付かれずに移動出来るかもしれない。
そう思いながら周囲を見渡せば、自分の姉であるヨハンナがこちらを見ていることに気付く。
『今日だけよ』
唇の動きでそう言ってくれた優しい姉に小さく頷いて、ユアンは手を引っ張るアランと共にこっそりと移動した。
そのまま広場を抜けて、森の道を歩いて、ようやく川に辿り着いた時――……ユアンの視界が滲んだ。
どこを歩いても、どこを見ても、どこにだってオンラーシとチビの思い出がある。
そして、今後それが増えることはない。
「……、……っ……」
ポロポロと涙が溢れる。
隣にいるアランはもちろん気付いているだろうに、ユアンと一緒に川の流れを見ているだけといった雰囲気だ。でも繋いだ手は離れない。
ユアンから押し殺した声が漏れるたび、ギュッと握られて少し痛いくらいだった。
「泣き虫ユアン」
「うっさい……フルチンアラン……」
なんとか言葉にした憎まれ口に、アランがふっと笑ったのが見なくてもわかる。
こうやって川に来たのはユアンが泣けるようにだろう。
アランに誘われなくても、自分はどこかのタイミングで泣いていたと思う。それでも――……一人きりで泣くより、アランが隣にいてくれるほうが良い。
意地でも泣き声を上げないつもりだったが、無理そうだ。
今日だけは思いっきり泣こう。
そして、思いっきり遊ぼう。
――アランがいれば、自分はきっと立ち直れる。
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