48 / 80
チビの正体と自分の役割
閑話 ~終わった恋と幼馴染~
しおりを挟む――「じゃあな」
その言葉に何かを返す前に、彼らを中心として眩く光る。それは一瞬だったが、その瞬きほどの間に三人の姿は見えなくなった。
一瞬の後に周りからは「おぉ」と感嘆の息が漏れる。
人族しか居ない村だ。魔法なんて火を熾すか水を出すかくらいの生活魔法しかない。子供も大人も、初めて見た転移魔法にはしゃぐ姿がそこかしこに見える。
「……」
はしゃいでいないのは数える程度で、それはきっと、オンラーシを憎からず思っていた人間だろう。
自分は自覚してからたった三ヶ月しか経っていない恋だけれど……――ユアンは苦く溜息を吐いた。
年齢差もある。だから、いつかオンラーシが誰かの物になることはわかっていた。
それが、こんなに早いとは思わなかっただけだ。
泣けば良いのに泣くことが出来ない。
ただ胸にポッカリと穴が空いたようで、それがただただ苦しい。
唐突過ぎて別れの品すら用意出来なかったのも口惜しい。
餞別と言いながらブレスレットを手渡したシギが羨ましい。
「……ユアン」
自分のほうが泣きそうな顔をしているアランに名を呼ばれる。先程からチラチラと心配そうに見られていたのは気付いていたが、ユアンのほうに反応する余裕はなかった。
オンラーシとチビには、別れの挨拶は出来たと思う。他の子供たちと同じように、少し強いくらいの力で頭を撫でて貰っている。
どこまでも、オンラーシにとってのユアンは村の子供でしかなかった。
「その、大丈夫か……?」
「……うん。平気。……だと思う……多分」
考えが纏まらないままではそんな言葉しか出てこない。
これでは大丈夫なのかどうかわからないなぁ……と思いながらユアンは少しだけ笑ったが、その笑顔は歪だった。
「行こう。ここ、暑いし」
「え?」
「また川に行こうぜ」
確かに暑い。先程までは気にならなかったが、今は酷く暑く感じる。
なのに握られたアランの手を熱く感じて、ユアンは自分の手が冷え切っていることに気付いた。それは向こうも同じなのだろう。握った後に、少しだけ顔を顰めたのが見える。
「あ、でも……手伝い」
「今日はサボり。ほら、チビどもに気付かれない内に行くぞ」
大人は仕事の為にチラホラと解散を始めていたが、子供たちはまだまだ興奮が冷めないようだ。今なら誰にも気付かれずに移動出来るかもしれない。
そう思いながら周囲を見渡せば、自分の姉であるヨハンナがこちらを見ていることに気付く。
『今日だけよ』
唇の動きでそう言ってくれた優しい姉に小さく頷いて、ユアンは手を引っ張るアランと共にこっそりと移動した。
そのまま広場を抜けて、森の道を歩いて、ようやく川に辿り着いた時――……ユアンの視界が滲んだ。
どこを歩いても、どこを見ても、どこにだってオンラーシとチビの思い出がある。
そして、今後それが増えることはない。
「……、……っ……」
ポロポロと涙が溢れる。
隣にいるアランはもちろん気付いているだろうに、ユアンと一緒に川の流れを見ているだけといった雰囲気だ。でも繋いだ手は離れない。
ユアンから押し殺した声が漏れるたび、ギュッと握られて少し痛いくらいだった。
「泣き虫ユアン」
「うっさい……フルチンアラン……」
なんとか言葉にした憎まれ口に、アランがふっと笑ったのが見なくてもわかる。
こうやって川に来たのはユアンが泣けるようにだろう。
アランに誘われなくても、自分はどこかのタイミングで泣いていたと思う。それでも――……一人きりで泣くより、アランが隣にいてくれるほうが良い。
意地でも泣き声を上げないつもりだったが、無理そうだ。
今日だけは思いっきり泣こう。
そして、思いっきり遊ぼう。
――アランがいれば、自分はきっと立ち直れる。
1
お気に入りに追加
561
あなたにおすすめの小説
願いの守護獣 チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい
戌葉
ファンタジー
気付くと、もふもふに生まれ変わって、誰もいない森の雪の上に寝ていた。
人恋しさに森を出て、途中で魔物に間違われたりもしたけど、馬に助けられ騎士に保護してもらえた。正体はオレ自身でも分からないし、チートな魔法もまだ上手く使いこなせないけど、全力で可愛く頑張るのでペットとして飼ってください!
チートな魔法のせいで狙われたり、自分でも分かっていなかった正体のおかげでとんでもないことに巻き込まれちゃったりするけど、オレが目指すのはぐーたらペット生活だ!!
※「1-7」で正体が判明します。「精霊の愛し子編」や番外編、「美食の守護獣」ではすでに正体が分かっていますので、お気を付けください。
番外編「美食の守護獣 ~チートなもふもふに転生したからには全力で食い倒れたい」
「冒険者編」と「精霊の愛し子編」の間の食い倒れツアーのお話です。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/2227451/394680824
総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?
寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。
ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。
ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。
その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。
そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。
それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。
女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。
BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。
このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう!
男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!?
溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。
異世界ぼっち暮らし(神様と一緒!!)
藤雪たすく
BL
愛してくれない家族から旅立ち、希望に満ちた一人暮らしが始まるはずが……異世界で一人暮らしが始まった!?
手違いで人の命を巻き込む神様なんて信じません!!俺が信じる神様はこの世にただ一人……俺の推しは神様です!!
腐男子(攻め)主人公の息子に転生した様なので夢の推しカプをサポートしたいと思います
たむたむみったむ
BL
前世腐男子だった記憶を持つライル(5歳)前世でハマっていた漫画の(攻め)主人公の息子に転生したのをいい事に、自分の推しカプ (攻め)主人公レイナード×悪役令息リュシアンを実現させるべく奔走する毎日。リュシアンの美しさに自分を見失ない(受け)主人公リヒトの優しさに胸を痛めながらもポンコツライルの脳筋レイナード誘導作戦は成功するのだろうか?
そしてライルの知らないところでばかり起こる熱い展開を、いつか目にする事が……できればいいな。
ほのぼのまったり進行です。
他サイトにも投稿しておりますが、こちら改めて書き直した物になります。
君のことなんてもう知らない
ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。
告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。
だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。
今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが…
「お前なんて知らないから」
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
小さな大魔法使いの自分探しの旅 親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします
藤なごみ
ファンタジー
※2024年10月下旬に、第2巻刊行予定です
2024年6月中旬に第一巻が発売されます
2024年6月16日出荷、19日販売となります
発売に伴い、題名を「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、元気いっぱいに無自覚チートで街の人を笑顔にします~」→「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします~」
中世ヨーロッパに似ているようで少し違う世界。
数少ないですが魔法使いがが存在し、様々な魔導具も生産され、人々の生活を支えています。
また、未開発の土地も多く、数多くの冒険者が活動しています
この世界のとある地域では、シェルフィード王国とタターランド帝国という二つの国が争いを続けています
戦争を行る理由は様ながら長年戦争をしては停戦を繰り返していて、今は辛うじて平和な時が訪れています
そんな世界の田舎で、男の子は産まれました
男の子の両親は浪費家で、親の資産を一気に食いつぶしてしまい、あろうことかお金を得るために両親は行商人に幼い男の子を売ってしまいました
男の子は行商人に連れていかれながら街道を進んでいくが、ここで行商人一行が盗賊に襲われます
そして盗賊により行商人一行が殺害される中、男の子にも命の危険が迫ります
絶体絶命の中、男の子の中に眠っていた力が目覚めて……
この物語は、男の子が各地を旅しながら自分というものを探すものです
各地で出会う人との繋がりを通じて、男の子は少しずつ成長していきます
そして、自分の中にある魔法の力と向かいながら、色々な事を覚えていきます
カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる