47 / 80
チビの正体と自分の役割
⑮
しおりを挟む悲しいことに、荷物は本当に少なかった。わざわざ荷造りで戻る必要がないくらい、無かった。
キッチンと言うべき竃に置かれた鍋、食器、その食器を入れる棚も備え付けで、自分で購入したのは割れたり欠けたりしててしまった分しかない。
それだって、次にこの家に住む人間が使うだろう。そう思えば敢えて持っていこうとは思わなかった。
衣服に関してはバイラムから「これはヴェルクトリ魔王国では着用出来ません」と言われてしまったし。
まぁ確かに、王様の洋服と言うには質素だから仕方ない。貧乏っちいとも言える。
素っ裸で移動する訳にはいかないので、服はいま着ている分だけにしておこう。
後は記念として、チビの誕生日祝いのワンピースとパンツ、赤ん坊の時に使っていた小さなスプーン――手持ちの荷物はこれのみ。
本当に着の身着のままで引っ越しをすることになってしまった。
しかも出発してから歩く訳ではないので、さっきいなかった村人まで全員を集めての挨拶が終わったらバイラムの転移魔法を使って引っ越し完了らしい。
向こうの引っ越しって結構大変だったのにな。
異世界って凄いな。
「じゃあ……その……ラウ爺、いつまでも元気で」
「オンラーシもな。……向こうでの生活が嫌になったら、直ぐに戻ってきなさい」
そう言ってくれたラウ爺の気持ちは嬉しいが、「実家に帰らせて頂きます」で簡単に帰れる距離ではない。
しかしレオニダスが「魔族の国近くまで私どもは販路を広げていますよ」と言ってくれたので、出戻りは無理でも家出くらいは出来るようになった。
チビのオマケで行くだけだし、何かの時の避難先があるのは有り難い。
「それに、可能なら魔族の国でも商売をしたいんですよね。その時はよろしくお願いします」
「俺にそこまでの権力はないぞ……?」
「良いんですよ。それにかこつけてオンラーシさんに会いに行くだけですから」
「暫くは無理ですよ。振られたんですから、ご実家でお見合いをするお約束でしょう――……オンラーシさん。短い間ですけれど、坊っちゃんの我が儘に付き合ってくださりありがとうございました」
散々レオニダスの我が儘に付き合わされたデーメルが釘を差した。
どうも結婚にも恋愛にも興味のなかった息子が俺を追っかけ始めたので、それならちょうど良いと失恋した時用に約束させられたようだ。頑張れ。
ゲンナリするレオニダスに聞こえないように「私も楽しかったですけどね」と教えてくれたデーメルは、なかなか良い性格をしている。見合いも、本当に嫌がるならこいつがどうにかするんだろう。
「……これ、餞別に持ってけ」
そう言ったシギが渡してくれたのはブレスレットだった。少し太めのチェーンに、多分だけれどチビの緑色、俺の黒色を模した石が揺れるシンプルなデザイン。
「この人の髪色でもあるし、ちょうど良いだろ」
「シギ……」
バイラムは魔法で色を変えてて、本当は紺色!
言えないけどな!!
「……ありがとう」
「おう。ガッツリ振られたし、オンラが羨ましがるような可愛い嫁さん見つけるわ」
ニヤっと笑いながら言われたが、それについては「嫁に行くでも良いんじゃないか?」と言っておいた。
俺のこの居た堪れない気持ちをお前も実感してくれ。
それも嘘をついているという申し訳無さ……。
皆と挨拶を交わし、子供たちの頭を順番に撫でて、最後だけは笑ってこう言った。
「じゃあな」
チビを抱いて、バイラムに肩を抱かれ、ピカッと世界が光って――……次の瞬間に潰されるとは思わなかった。
「……おい。せめて落ち着いてから大きくなれよ」
「早く元に戻りたかったんだもん」
〝はい、到着〟の瞬間にチビが十七歳の姿になりやがった。
その筋肉って飾りなの? と失礼なことを言われたが、五歳児の体重が一気に数倍になったら誰でも潰れるだろう。
感動的な別れとか、初めての魔法体験とか、ワープ先の確認だとか……考える余裕を与えて欲しい。
――とりあえず、ワープ先の床はふかふかとした絨毯敷き。それだけはわかった。
――――――――――
これにて第一部完! と当時書いておりました。
確かに、ここで一区切りだと思います。
蛇足かもしれませんが、この後閑話を2つ挟みましてヴェルクトリ魔王国での生活が始まりまーす。
ここからも楽しんでいただけますように!
5
お気に入りに追加
559
あなたにおすすめの小説
異世界の物流は俺に任せろ
北きつね
ファンタジー
俺は、大木靖(おおきやすし)。
趣味は、”ドライブ!”だと、言っている。
隠れた趣味として、ラノベを読むが好きだ。それも、アニメやコミカライズされるような有名な物ではなく、書籍化未満の作品を読むのが好きだ。
職業は、トラックの運転手をしてる。この業界では珍しい”フリー”でやっている。電話一本で全国を飛び回っている。愛車のトラクタと、道路さえ繋がっていれば、どんな所にも出向いた。魔改造したトラクタで、トレーラを引っ張って、いろんな物を運んだ。ラッピングトレーラで、都内を走った事もある。
道?と思われる場所も走った事がある。
今後ろに積んでいる荷物は、よく見かける”グリフォン”だ。今日は生きたまま運んで欲しいと言われている。
え?”グリフォン”なんて、どこに居るのかって?
そんな事、俺が知るわけがない。俺は依頼された荷物を、依頼された場所に、依頼された日時までに運ぶのが仕事だ。
日本に居た時には、つまらない法令なんて物があったが、今では、なんでも運べる。
え?”日本”じゃないのかって?
拠点にしているのは、バッケスホーフ王国にある。ユーラットという港町だ。そこから、10kmくらい山に向かえば、俺の拠点がある。拠点に行けば、トラックの整備ができるからな。整備だけじゃなくて、改造もできる。
え?バッケスホーフ王国なんて知らない?
そう言われてもな。俺も、そういう物だと受け入れているだけだからな。
え?地球じゃないのかって?
言っていなかったか?俺が今居るのは、異世界だぞ。
俺は、異世界のトラック運転手だ!
なぜか俺が知っているトレーラを製造できる。万能工房。ガソリンが無くならない謎の状況。なぜか使えるナビシステム。そして、なぜか読める異世界の文字。何故か通じる日本語!
故障したりしても、止めて休ませれば、新品同然に直ってくる親切設計。
俺が望んだ装備が実装され続ける不思議なトラクタ。必要な備品が補充される謎設定。
ご都合主義てんこ盛りの世界だ。
そんな相棒とともに、制限速度がなく、俺以外トラックなんて持っていない。
俺は、異世界=レールテを気ままに爆走する。
レールテの物流は俺に任せろ!
注)作者が楽しむ為に書いています。
作者はトラック運転手ではありません。描写・名称などおかしな所があると思います。ご容赦下さい。
誤字脱字が多いです。誤字脱字は、見つけ次第、直していきますが、更新はまとめてになると思います。
誤字脱字、表現がおかしいなどのご指摘はすごく嬉しいです。
アルファポリスで先行(数話)で公開していきます。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞

王道にはしたくないので
八瑠璃
BL
国中殆どの金持ちの子息のみが通う、小中高一貫の超名門マンモス校〈朱鷺学園〉
幼少の頃からそこに通い、能力を高め他を率いてきた生徒会長こと鷹官 仁。前世知識から得た何れ来るとも知れぬ転校生に、平穏な日々と将来を潰されない為に日々努力を怠らず理想の会長となるべく努めてきた仁だったが、少々やり過ぎなせいでいつの間にか大変なことになっていた_____。
これは、やりすぎちまった超絶カリスマ生徒会長とそんな彼の周囲のお話である。
転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい
翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。
それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん?
「え、俺何か、犬になってない?」
豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。
※どんどん年齢は上がっていきます。
※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。
【完結】雨降らしは、腕の中。
N2O
BL
獣人の竜騎士 × 特殊な力を持つ青年
Special thanks
illustration by meadow(@into_ml79)
※素人作品、ご都合主義です。温かな目でご覧ください。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜のたまにシリアス
・話の流れが遅い
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる