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春はここでも恋の季節?
⑮
しおりを挟む「じゃあ、俺はそろそろ家に帰るかな。貰うモンも貰ったし。――ラウ爺お疲れさん。アディも、料理ありがとうな」
「ううん、大丈夫。あ、でももうちょっと色々試してみたいから、ミーショを少し分けてくれる?」
「それならワシの分を使いなさい」
「わかった。美味しいの作るね」
うんうんと頷きながら「こいつらが帰った後にな」と言うラウ爺は、次回も搾り取る気満々だ。
新しいレシピが珍しければ珍しい程、情報料として売ることが出来る。
俺も色々と試すつもりだが、知っている料理はこの世界では材料が足らず作れない物も多い。アディが腕を奮ってくれるなら有難かった。
抱いていたチビを今度は肩に乗せて、空いた両手で壺を抱える。そのまま宿から出ようとすると、何故かシギとレオニダスがこちらを見ていた。
二人とも手を上げかけて、下ろすに下ろせないというような不可思議な体勢だった。
なんだかわからないが、特に何かを言われた訳ではないからこのまま帰っても良いだろう。流石に味噌がいっぱいに詰まった壺は重い。
「――オンラ!!」
改めて「じゃあ」と言いながら出ようとすると、タイミング良く扉が開いて息せき切ったユアンが入ってきた。
更に後ろからアランも入ってきて、二人ともがゼェゼェと息を吐いている。
その鬼気迫った様子にラウ爺は「どうした熊か!?」と叫んだが、そう言う割には目が爛々としているのは何故だ。
試食の後の腹ごなしにちょうど良い、などと思っていそうで怖い。
「オンラ、さっき広場で商人に……」
「商人? 熊じゃないのか?」
「ぜぇ、は……――ラウ爺、オンラ、熊じゃないんだ。商人から、オンラが呼び出されたって聞いて、ユアンが……」
「だって! 商人が〝もしかしたらオンラは外に誘われるかも〟って、そう言ってて……僕、不安で…………」
多分、先に戻ったドルドが世間話の中で色々と話したのかもしれない。
俺たちとレオニダスが宿屋に向かったのを見ていた連中も多いし、その中から話が膨らんだ可能性あるか。
それを聞いて走って来た……と言うのが二人の主張だった。
最近は何故かユアンに避けられていて悲しかったのだが、この様子だと俺を慕ってくれているのは変わらないようだ。
こんな状況だが、その気持ちが少しだけ嬉しい。
「俺もチビも、この村から離れるつもりはないよ。――アディ、こいつらに水をあげてくれ」
「ほんと? 本当に出ていかない? あいつらに連れて行かれない?」
「凄い言われようだな……」
「ユアン、落ち着けって。――アディ姉ちゃん、ありがとう。ほら、ユアンも飲めよ」
「うぅ……」
持ち上げていた壺を一旦下ろして、まだ半泣きでゲホゲホと咳き込んでいるユアンの頭を撫でた。
アランもそれを見て「仕方ねぇな」と苦笑している。
「ユアン、落ち着け。俺たちは村から出ていかない。大丈夫だ。……そんな泣くほど心配だったのか?」
「違うっ!! ……あ、違う。いや、あの……」
心配を心配と素直に言えない年頃なのかもしれない。
微笑ましいなぁと思いながら更に撫でていると、それに気付いたユアンの顔が真っ赤になる。
「~~~~! オンラの、馬鹿!!!!」
腕を払い除けながら、ユアンがそう叫んでまた走り去ってしまった。
別に痛くはないが、心がちょっとだけ痛い。
「え? ――え、撫でられるの嫌だったのか? アラン、俺はユアンに嫌われたのか?」
「違う違う。子供扱いすんなってこと。俺もユアンももう大人だぜ?」
「成人まで後四年もあるのに何を言ってんだか……」
「そうだけど!! あー……もう良いよ。――ラウ爺、騒がせてごめん。俺、ちょっとユアンを追っかけるわ」
「構わん構わん。怪我だけはせんようにな。――オンラ、ユアンも難しい年頃なんじゃから構いすぎると嫌われるぞ?」
難しいお年頃は本当に難しい――改めてそう思った俺の頭を、チビがポンポンと撫でてくれた。
お前の優しさが心に沁みるよ。
「シギ。商人よりも身近なライバルがおったな」
俺たちがほのぼのとしていたらラウ爺がそんなことを呟いて、シギが「歳が離れ過ぎだろう!」と叫んでいた。
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