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春はここでも恋の季節?
⑭
しおりを挟むザハーヌ商会からの誠意の証は、その後お茶を持ってきたアディの鶴の一声で決まった。
――「レシピで儲けるよりも商品の割引をして!!」と。
それを受けて、今回ザハーヌ商会が持ち込んだ食材の大売り出しが明日から始まる。
既に購入している分の払い戻しはないが、最終的にトントンとなるように何かしらのオマケを付けてくれるらしい。
俺宛には年一回の味噌の納品、魔力回復薬の割引……その割引率は二割となった。聞いたところ、一本あたりが千円ほどなので八百円で買えることになる。
高いのか安いのか判断が難しいが、高価な栄養ドリンクと考えれば妥当なんだろうか。それでも常用するにはかなり高い。
因みにプオゴが百五十円程度、チェルは王都価格が三百円――チェルのぼったくりも激しい気がする。サイズとしても味としても、プオゴのほうが上なのに。
そして村から出している商品は、これから一年間だけ買取金額にプラスで一割が上乗せされる。
後、村長希望の味噌も村宛に壺で納品が決定。
チェルの瓶詰めはこの村からではなく隣村からの出荷になった。理由は単に〈売るほど用意していない〉からで、今後もそこまで余分に作る予定はないそうだ。
このあたりの出身者は知っている内容なので秘匿情報にはならないが、腐らせる程に採れるのはこの村から麓の村までなので簡単には手が出せないだろう。
「それなりに皆で溜め込んでるから、帰る時には結構な数が取引出来る筈だ。代わりに今回だけで良いから高く買ってくれよ。俺も一緒に帰るし、周りに声掛けてやる」
「良いですよ、買うだけ買って一気に売りさばきます。出来れば瓶詰めはうちのみに売って欲しいですが……そのあたりはあちらの村長と相談しましょう」
レオニダスはそう言いながらチラリとラウ爺を見る。
便宜を図って欲しいという意図だろうが、ラウ爺はどこ吹く風で無視を決め込んでいた。
まぁこれ以上は無理だと思うぞ。
「そう言えば……味噌の保存について少しネタがあるんだが、どうする?」
「え?」
「あまり取引は得意じゃないんだがな。……聞いてから有用だったらハチミツを融通してくれると嬉しい」
味噌が倉庫で山になっていると聞いた時に、少し気になっていたのを思い出した。
「置いてる保管場所って、保管庫か? それともただの倉庫か?」
「保管庫です。だから場所を取ってしまって困って……――って、まさか……」
「そのまさかで、味噌は元々発酵しているから保管庫じゃなくても良い。直射日光や高温多湿は厳禁だが、冷暗所ならそのまま保管が出来るし……そのあたりはチーズと同じだな」
「っ!?」
冷蔵庫や冷凍庫はないが、この世界には保管庫という素晴らしい代物がある。
背負えるサイズから蔵サイズまで様々で、その中に食べ物を入れておくと腐らないって訳だ。
この村には一人暮らし用の冷蔵庫くらいのサイズしかなく、そのせいでチーズケーキ百個の保管は物理的に無理だった。
「……ありがとうございます。戻ってから移動させましょう。――デーメル、そのつもりで」
「かしこまりました。オンラーシさんにはハチミツと、チビくんも食べられる飴を用意しましょう」
「ありがとよ」
これで暫くは胡麻味噌で生野菜も焼き肉も楽しめる。
回復薬がなくなっても、ヨヨ茶の口直しにだって使えるので万々歳だ。
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