異世界転移と同時に赤ん坊を産んだ俺の話

違う世界でもトイレはトイレ

①

　
　夜が早いせいで、朝も早い。
　更にあちらと違って寝床が固くて、長々と寝ていることが出来ない。

「……住めば都って言うけどなぁ」

　藁のチクチク感を全身に感じられる固い寝床は、未だに慣れることが出来ない。
　使わなくなった布を上に敷いていても、どこからともなくチクチクと突いてきやがる。なんなんだあれは。
　貰い物の毛皮を敷けばチクチクから開放されるが、それもそろそろ暑い。
　向こうで使っていた、二十年物のせんべい布団がいつまで経っても恋しくて仕方がない。
　そんな寝床でも構わずに寝ていられるチビは凄いと思う。

　毎朝起きるたびに体が強張っている為、軽い柔軟体操をするところから一日がスタートだ。
　身体中からパキパキと音が鳴らなくなった頃合いでチビが起きるので、そのまま土間へ連れて行く。

　土間の端に置いた壺の上へ抱き上げながら、小さなチンコに手を添えて壺に向ければ―――

「ん、今日も寝小便しないで偉かったな。チビ」

　なんとこの壺、この村の各家庭にある簡易トイレである。
　ションベンもウ○コもここでするのだ。ちゃんと蓋も付いている。
　トイレと言うよりは、白鳥の頭が付いていないお・ま・る・や介護用のポータブルトイレが近いかもしれない。
　容量は少ないが、村の決まった場所へ自分で捨てに行くことを考えれば理に適っているのだろう。
　今は赤ん坊のションベンだけだが、念の為に臭い消しの葉っぱを一枚千切り入れて蓋をした。

　それからは水瓶から桶へと水を汲み、家から一歩だけ外に出て洗顔だ。チビには口を濯がせて、俺はうがいとひげ剃りも済ませておく。

「さて、飯にするか」

　稲作がないせいで、主食は芋かパンのみ。
　牛はいるので乳製品はなんとかなっている。
　だいたいは夕食にしっかりした汁物を作り、朝はそれを温め直して終わりだ。
　昨夜は干し肉と野菜のスープを作ったので、その中に硬くなったパンを浸してチーズを乗せたら火にかける。
　オマケとして別の鍋にお湯を沸かし、何個か卵を茹でてタンパク質を確保した。

　オーブントースター、もしくはバーナーがあればチーズに焦げ目が付けられるのにな。
　もっと言えば……――――自分で作る料理なんてほぼこれなので、料理上手な嫁さんが欲しい。

「……」
「わかってるよ、俺には無理だよ。だからそんな目で見るんじゃねぇ」

　若くて可愛くて料理上手で床上手……そんな益体もないことを考えているのを見抜かれたのか、チビからの視線が痛い。
　夢見るくらいは良いだろう。
　欲しいと言っても、この村の女性陣には情けない姿を山程見られているから、断られるのが目に見えている。
　この竃だって、最初は火の点け方からしてわからなかった。

　魔力持ちは魔法、魔力無しは種火石たねびいし。
　火打ち石ではない。
　そして火打ち石があっても火は点けられなかった。何故なら使ったことがないからだ。

　種火石は透明で真ん中が赤い、ちょっと綺麗な石ころだ。
　それを石の台に置き、トンカチで上からガツンとやって、燃えやすい枯れ草を翳かざせば火種になる。
　後は火が消えないように注意しながら竃に入れて、そこからはキャンプファイヤーの要領だ。
　コツはあるが、多少の腕力があれば子供でも火を熾おこせる。

　その方法を爆笑しながら教えてくれたのは、毎日家事をしている女性陣だった。