異世界転移と同時に赤ん坊を産んだ俺の話

宮野愛理

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異世界の端っこでウ○コと叫ぶ

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 ま、そんな親心なんて子供には到底わからない訳で。

「チビ、お前言いたいことあるなら言えって。なぁんで喋らないんだかなぁ」

 成長が遅く、言葉も喋らず、基本は無表情。更に人族とは違う髪と目の色。
 こっちの言ってることは理解しているようだが、このままでは村の子供からも弾かれてしまうだろう。
 今のところは目立った問題にはなっていない。
 だからと言って安心出来る筈もない。

 抱き上げた状態でプニプニとそのほっぺを突いていたら、その指を握られて後ろに反らされた。

「イッテェっっっっ!!」

 俺の急な大声にも泣かず、ふてぶてしく「フン」と鼻で息を吐く姿は妙に大人びている。
 なのに、次の瞬間には子供のような仕草で俺の胸を叩いてきた。
 上着の下にさらしを巻いてるから痛くはないが、赤ん坊とは思えない力強さだ。
 そして、的確に乳首を狙うのは飯の合図。

「今、湯が沸いたから、もうちょっと待て」

 産んだ当初から、何故か俺の胸からは乳が出るようになった。とは言え男だからか、出が悪い。
 俺の直ぐ後に赤ん坊を産んだ母親から「うちの分もあげようか」と声を掛けてもらったが、当人チビが嫌がって飲まなかった。
 それならと、代わりに山羊の乳を与えていたがどうにも成長がかんばしくない。

 村の人間、行商の人間、ついでに隣村の人間まで巻き込んで、【男が産んだ時の育児】を真剣に悩んだのも記憶に新しい。

 結果として《成長には魔力を必要とする》とわかったが、残念ながら俺には魔力が微量にしかなかった。
 微かに、それとなく、あるんじゃないかな? くらい。
 魔法を使うなんてファンタジーは夢のまた夢レベル。

 そこで、このお茶だ。

 王都まで行けば魔力の回復薬なんて素晴らしい物があるらしいが、この村でそんな物は見込めない。
 しかし村の周りでわんさか採れるヨヨ草は、その回復薬の原料の一つだった。
 そのヨヨ草を乾燥させたヤツにお湯を注ぐだけのお手軽調理。
 それを授乳前に飲む。

 くっそ不味い。
 代わりに乳の出は良くなる。
 だが不味い。
 向こうで飲んだ青汁が美味しく感じる程の威力がある。
 見た目はほぼ透明で薄く黄色っぽい色になるだけなのに、泥臭く、苦酸っぱくて、――――泥水に雑草をすり潰してお酢を混ぜたような味がする。

「おぇっ……」

 飲まずに口から吐き出したい。もっと言えば口に入れたくもない。
 しかも淹れたてじゃないと意味がない為、あっつい茶を冷ましながら啜るのだ。拷問か。
 涙目になりながら上着を脱ぎ、晒を取ってチビを抱いた。
 ムニムニと俺の胸を揉むコイツは心なしか楽しそうで、俺としては虚しい限りだ。

「オモチャじゃねぇんだぞ、コレは……――――ぐっ、ぅ」

 このヨヨ茶の悪い点はもう一つある。

「うぁっひ、ぁ、あ――――うぅっ」

 何故か知らんが乳首周りが酷く敏感になる。
 味に涙目になってる筈が、気付くとチビが弄くるせいで泣く羽目になるのだ。
 これは授乳。赤ん坊の飯。そう何度も繰り返すのに、俺の口からは聞きたくもない嬌声が溢れてしまう。

 これがあるせいで、このお茶は夜にしか飲むことが出来ない。
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