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その6

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「皆、村の未来がかかっている! 必ず勝つぞ!」

 鍛冶屋のトーマスさんが気合と決意に満ちた表情で叫び、集まった村の人々が武器を手に応えるように声をあげた。
 手にしている武器は槍や剣や斧の他、鋤や鎌や鉈など普段の農作業で使っているものなど人によってマチマチだ。
 やる気の方もトーマスさんのように闘志を漲らせている人もいれば、青くなって震えている人もいるし、お祭りのようにはしゃいでる人もいて、様々だった。
 神官様は欠伸をかみ殺していた。

「トーマスも大袈裟ですね。たかだかゴブリン相手に」

 神官様が小声で面倒そうに呟いていたけれど、後から振り返るとトーマスさん達の方が正しかった。
 万全に万全を期して慎重に慎重をかさねるくらいでちょうど良かったんだ、本当は。


 初めのうちは順調だった。
 森の中に入ってしばらくして、私達村の討伐隊はゴブリンの小さなグループと遭遇した。けれど誰も負傷する事なく一方的に打ち破った。
 何匹ものゴブリンを殺した。
 でもよく考えると、それも順調という訳ではなかったのかもしれない。
 全滅はさせられなかったからだ。
 数匹、逃がしてしまった。

「あのゴブリン達が逃げた先に巣があるはずだ。追うぞ」

 私達は悲鳴をあげて逃げてゆく小柄な妖魔の後を追いかけた。

 その時は、それさえもむしろ好都合に事が運んでいるのだと皆感じていた。

 森の中で巣を探すのは大変だから、逃走するゴブリン達が案内してくれるなら手間が省ける、と。



 私達はゴブリン達を追いかけて、やがて森の洞窟へと辿り着いた。
 見張りのゴブリンがいたけど、彼等も私達の姿を見ると悲鳴をあげて洞窟の奥へと逃げていった。

 村人の何人かが松明に火をつけて、私達は洞窟の中へと突入した。

 内部は狭く、入り組んでいた。

「油断するなよ」
「慎重に進め」

 トーマスさんとカシムさんが先頭に立ち、先程の遭遇戦の圧勝で気を大きくしていた村人達にクギを刺しつつ注意深く進んだ。




 この洞窟のゴブリン達は、いわゆる普通のゴブリン達よりも遥かに頭がよくて力があり狡猾だった。

 ちょっとしたホールのような大き目の空間に出た時、私達はまず退路を断たれた。

 突然、背後のホールの出入り口に巨大な土の壁が出現して、文字通りに道を塞いでしまったのだ。
 明らかに普通の現象じゃなかった。
 これは、

「魔法だと?!」
「ゴブリンが魔法!?」

 村の皆に大きな動揺が走った。
 そして次に、前方から煙が送り込まれて来た。

 煙を吸い込んだら、徐々に身体が熱くなった。
 手足に微かな痺れがはしり、力が入りにくくなってゆく。

(これって……!)

 私はこの症状に覚えがあった。
 昨日、神官様に盛られた神草を摂取した時の症状によく似ていた。
 神草は森の奥に生えているという。
 つまり、神草はゴブリン達の庭のようなところに生えているのだ。
 神官様から上下の口から飲まされた時と比べると随分と症状が軽いけど、煙を吸い込み続けていたらきっと同じ状態になる予感がした。

「馬鹿なッ!!」

 神官様が動揺の声をあげた。
 それと同時に、村人達の間からも悲鳴が次々にあがる。

 矢が横殴りの豪雨のように飛んできていた。

 ゴブリン達が闇の奥から次々に弓矢を放ってきていたのだ。

「ゴブリンが弓だと……?!」

 普通、ゴブリンというのは技術力がないので、扱う武器は棍棒や石の斧がせいぜいで、稀に他種族から奪った剣や槍を使って来る程度だといわれていた。

 魔法といい、弓矢といい、ここのゴブリン達はあきらかに普通じゃなかった。

「やるしかねぇ! つっこめ!!」

 それでもトーマスさんは気合の叫びをあげて村人を鼓舞し前へと駆け出した。
 逃げ場は塞がれていたから、生き残るには戦って勝つしかなかった。

 身体が麻痺する毒の煙を吸わされ、退路は断たれて、洞窟内の地形もゴブリン側にとって有利で、私達はめちゃくちゃに不利な状況だった。

 村の人達がゴブリンから放たれた矢や突き出された槍に貫かれ次々に倒れてゆく。

「まだ死ぬ時ではありません!」

 けれど神官様が高らかに叫び杖の先から光を解き放つと、倒れた村の人達が次々に立ち上がってゆく。
 私も同じように杖をかざして回復魔法を唱え補助した。

 もう二度と立ち上がれない人もいたけれど、多くの人は不死の兵のように再び駆け出してゴブリンの前衛達とぶつかり激しく斬り結んでゆく。

 激闘だった。
 死闘だった。

 村の人達は倒れても倒れても回復して武器を振るい、ゴブリン達は殺されても殺されても洞窟の奥から無限に存在するかのように湧き出てくる。

 私達は徐々に徐々に身体の自由も麻痺で奪われていっていて、めちゃくちゃ不利な状況に追いやられていたけど、それでもやっぱり神官様やトーマスさんやカシムさん達は強かった。

(勝てる!)

 私はそう思ったし、村の皆もそう思ってたし、なんならゴブリン達の一部だってそう思ってたかもしれない。

 けど、やっぱりこの洞窟のゴブリン達はただゴブではなかった。

 彼等は乱戦の最中、私達の側の奮闘が回復魔法によって支えられていると看破したらしい。
 ゴブリン達はやがて私や神官様に攻撃を集中させてきた。

「プリム!」

 横手から飛び出して来たゴブリンが私目がけて繰り出した槍の穂先を、リオンが身を盾にしてかばってくれた。
 リオンは腹を貫かれながらも至近距離から矢を放ってゴブリンの眉間を撃ち抜き、ゴブリンが悲鳴をあげて倒れる。

「リオン!」

 私はすぐに杖をかざして回復魔法を唱えた。
 リオンの傷が急速に塞がって片膝をついていた少年が再び立ち上がる。

「さんきゅープリム!」
「こっちこそ! どういたしまして!」

 回復手が狙われても、戦況は悪くなかった。
 このままいけば勝てる、たぶん皆そう思ってた。少なくとも私はそう思ってた。
 けど、

「がはっ!!」

 神官様が矢で射抜かれ苦悶の声と共に倒れた。

「神官様!」

 あの神官様が倒れる。
 信じられない光景だった。
 支えの要である神官様が倒れて、村の人達に動揺が発生してゆく。

 本当だったら、神官様、こんな状況でもそれでもゴブリンから放たれる矢くらいじゃ倒されなかったんだと思う。
 
 でも神官様、今日は体調が悪かった。
 疲労が蓄積していた。
 なんでかっていったら、徹夜で文字通り一日中わたしをレイプし続けていたからだ。
 その疲労が、神官様の力を低下させていた。

 一日中眠る事も許されずに弄ばれ続けていた私も本調子じゃなかった。
 絶不調だった。

 ちょっと動いただけですぐに息があがってしまって、毒の煙を深く肺の奥まで吸い込んでしまって、四肢が痺れて本当に力が入らなくなってきて、身体が熱っぽくて、ぼーっとしてきた頭で、その時思ってしまったんだ。

 倒れてゆく神官様を見て思ってしまったんだ。
 リオンとの結婚を許してくれない育ての親。
 それどころかこの戦いが終わったら私を妻にするなんていう事を言う義理のお父さん。
 一昨日までは心の底から愛していた人が倒れていく姿を見て、

――この人が、ここで死んでくれたら、私はリオンと結婚できる。

 そう思ってしまった。

(……馬鹿なことを!)

 私は顔をしかめて唇を噛んだ。
 神官様はそれでも捨てられていた私を拾って今日まで育ててくれた人だ。
 大恩ある人なのだ。
 魔法だって神官様が教えてくれた。
 上手くできた時は褒めて頭を撫でてくれた。
 風邪を引いて苦しい時はずっと傍にいて心配してくれた。

 昨日、頭おかしくなって滅茶苦茶に私の事を犯してくれたけど……それはちょっと、本気で許せないんだけど、リオンとの事を認めてくれないけど、でもそれでも。

(……助けないと!)

 殺意と愛情。
 見捨てようとする心と助けようとする心、相反する二つの感情に引き裂かれそうになってたけど、私は歯を喰いしばって精神を集中させ杖をかざした。

 神官様に向けて回復魔法を唱えてゆく。

 でもやっぱり、神様は私の心に一瞬浮かんだ、神官様の束縛から自由になってリオンと結婚したい、っていう利己的な自己保身を見ていたらしい。

 回復魔法が完成する直前、

「プリム!!」

 誰かの叫びと共に私は頭部に強い衝撃を受けた。

 目の前は真っ暗になっていた。

 体調が万全で、いつもの詠唱速度がでていれば。
 神官様を見捨てようなんて一瞬考えて詠唱が遅れなければ。
 きちんと回復魔法が完成して神官様が再び立ち上がっていれば。

 たぶん、勝利していたのは私達だったと思う。

 つまり、どうしてこんな事になったのかというと、それはきっと――



 次に目を開けると、周囲は骸の群れで、そばで生きている人間はリオンだけだった。
 彼も倒れていて、ゴブリンに抑えつけられている。

 私も仰向けにゴブリン達に抑え込まれていた。
 神草の煙の毒が完全に回り切っていて、四肢が麻痺し、身体が熱く発情している。
 そしてゴブリン達は動けない私の神官衣と下着を引き裂くと、がちがちに硬く熱い、身体は小さい癖にそこだけは巨大な――あの神官様のものよりもさらに大きな、凶器みたいな肉の棒を私の割れ目の中に押し込んできた。
 それでも私は酷く感じてしまった。
 神草の催淫作用のせいもあるけれど、神官様にそのテクニックと回復魔法を駆使して一日中奥の奥までその肉の味を覚え込まされてしまっていたからだ。
 そして何より――たぶん、私は、神官様に何度も罵られたように、淫乱なのだろう。

「あひっ! はひっ! ああっ!!」

 リオンが見つめる中で、神草の毒に犯され、沢山のゴブリン達から激しく犯され、身をくねらせ、腰をふり、よがり狂いながら私は思った。

 どうしてこんな事になったのか。
 それは、
 それは、

(私が、悪いんだ……)

 あの時、神官様を助ける事を私が躊躇いさえしなければ。

 真っ白に弾ける狂いそうな快楽の中で、私は村の皆に懺悔した。


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