上 下
100 / 132
第四部

第二十四章 雫、大流となる 其の六 (R18)

しおりを挟む
 静のからだから己を離し、大きく息を吐くと、秀忠は満足そうにゴロンと寝転ぶ。 
 しかし、江の香りに包まれ、江だと思って気を放ったせいか、秀忠のものは、まだ乱れた薄い夜着をいくらか持ち上げていた。 
 雲に隠れていた月が、ほのかに顔を出す。 
 起き上がって身を整えようとしていた静の目に、柔らかな光に浮かび上がる秀忠の陽気が映った。 

 (まだ御台様を思うておられるのか……) 
 静の心が切なさと哀しみに締め付けられる。 
 かすかな嫉妬の炎が揺らめいた。 
 (…やや・・…) 
 月の光にきゅっと唇を噛んだ静は、目を閉じ、小さく息を整えると自分で胸元を開く。そして、そっと、豊かな胸で目の前のものを挟んだ。 

「何をする。」 
 驚いた秀忠は半身を起こした。しかし、ふわふわとした柔らかな胸の心地よさに男はあがらえない。 
「今一度、抱いてくださりませ。」 
 静は自分のたわわな胸から顔を覗かせる秀忠の男の印に、そっと口づけた。 
 秀忠の顔が快感に歪む。柔らかな胸の間で、秀忠おとこに再び力がみなぎり始めた。 
「一度だけ、『静』と呼んでくださりませ。」 
「そなた……」 
「静と……」 
 涙が一筋、頬を伝い、熱く逞しくなってきた秀忠の上に落ちる。 
 秀忠は少し混乱しながらも、静の気持ちを察した。 

 江の身代わりであると知っていたのか……。 
 知っていながら、抱かれていたのか……。 

 涙の温かさが、秀忠自身を責める。 
 秀忠は身を起こすと、静の肩を抱き、ゆっくりと寝かせた。 
 唇に軽く口づけをすると、脚を開き、小さな実を優しく揺り動かした。

「あぁ……」 
 先程までの快感を思い出し、静は身をよじる。秀忠の指が少し激しくなると、その軆はまたトロトロとした蜜を吐き出した。 
 秀忠が満足そうに微笑む。 
「淫らじゃ。しず、しとどに濡れておるぞ。」 
 静は涙が出そうになった。「しず」、今まで聞いたこともない、優しい秀忠の呼び声であった。 
 (もう、充分) 
 静は、にっこりと笑った。 
「どうぞ、あとは御台様の御名をお呼びくださりませ。」 
「静。」 
「よいのです。『あなたさま』。」 
 静はそういうと横を向いた。 
「あなたさまのお慈悲を今一度くださりませ。お願いにございまする。」 
 豊かな髪に顔を隠し、静は江に戻った。秀忠が動かないのを感じ、静は以前したように、自分の小さな実に手を伸ばす。 
 静は軆が感じるまま、切ない吐息を出した。 

「あぁ、あなたさま……早う…はよう……あぁっ!」 
 乱れた着物から出た乳房にも手を置き、静は、髪で顔が隠れるままで切ない息を吐き続ける。豊かな軆がビクビクと動いた。 
「はぅん…くぅ…あなたさま…ここに…、はぁぅ…ここに、お情けを…あぁ…んぅ…早う…あなたさまぁ…」 
 脚の間の自分の手をふるふると動かし、切なそうに秀忠をいざなう。
 秀忠は黙って静を抱いた。 

「……あなたさま……あぁ…あなたさま……」 
 呪文のように静は繰り返す。その呪文に突き動かされるように秀忠は動いた。 
 逃すまいと静の深みは秀忠を絡めとる。 
「…あぁ…あなたさま、もっと、もっと……あぁぅ…」 
 秀忠が、低い男の声で静を責め立てる。 
 静もきつくしとねを握りしめ、江の女の声をあげる。 

「静っ、まいるぞ」 
 確かに秀忠はそう言った。 
 ハッとした静は、喜びにうち震えた。 
 それが、快感にまさった。 
 女の悦びに達せなかったが、そのようなことはどうでもよい。 
 静の目には、嬉し涙が浮かんでいた。 


 躯を外した秀忠が、どかりと腰を下ろした。 
 静も慌てて起き上がり、乱れた着物を整える。 
「気づいておったのか。」 
 秀忠は頭をシャクシャクと掻いた。 
「はい。」 
 うつむき加減の静の目には、優しげな首でひそやかに動く秀忠の喉仏が映っている。 
「いつからじゃ。」 
「昨年の秋にございまする。」 
「誰かに聞いたか。」 
「いいえ、わかりましてございまする。」 
「さようか。」 
 顔をあげ、ほのかに微笑む静に、なんとも後ろめたい表情を秀忠は浮かべる。 
 静は、秀忠に負い目は感じさせたくなかった。 
「上様がお望みになれば、またいつでもお役にたちまする。」 
 来た頃のように邪気のない笑顔で、静はにっこりと笑った。そう言いながら、静は秀忠が自分をもう抱かないだろうと思った。 
 秀忠も、もう改めて静は抱かぬだろうと思った。 
 秀忠は、己が江恋しさの余り、いかに非情であったか改めて思い知る。しかし、静はそんな己を微笑んで受け入れてくれたというのか……。そして、また、いつでも身代わりになるというのか……。 

 じっと自分を見つめる秀忠の視線に、静はなぜかとても恥ずかしくなった。 
 整えた胸元を、もう一度しっかり重ねるように手でつかむ。 
 頬を染め、目を伏せて、はにかむように微笑む姿はとても初々しかった。 

 下がろうと礼をした静の腕を秀忠がつかんでグイと引き寄せる。 

 (許せ、江。) 

 秀忠は、心のうちで江に謝った。しかし、最愛の江でさえ、もう己の思いを止められなかった。 
「上様?」 
 抱き寄せた静の唇に、秀忠はそっと口づけを落とした。 
「もそっと口を開けよ。」 
 困ったように秀忠が笑う。 
 小さな目を大きく見開き、あまりにもぎこちなく口づけを返す静の頬にも口づけながら、秀忠は静の着物の帯をほどく。 
(江の香りなどらぬ…) 
「上様?」 
 驚いた静が、秀忠の手を思わず押さえた。静の目が今までと違う秀忠の様子に、うろうろ泳いでいる。 
 小さな灯りがゆらりと揺れた。 

「静。」 
 秀忠が優しく口づける。 
「今一度、とぎをせよ。そなたの…静のままで」 
 微笑んで、ひでただは伝えた。 
 秀忠は、初めて静を静として抱きたいと思った。 
 一年ひととせ前の償いもしたいと思った。 
 静を静として満足させたい。そう思った。 
 それが愛しさからなのか、哀れみなのか、申し訳なさなのか、秀忠にはわからなかった。 
 (静を抱きたい。) 
 男として、ただそう思った。 

 しずの細い目にみるみる涙が溜まり、頬を伝う。 
「泣くな。」 
 そう命令すると、秀忠は涙をそっと唇でぬぐった。 

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

【完結R18】三度目の結婚~江にございまする

みなわなみ
歴史・時代
江(&α)の一人語りを恋愛中心の軽い物語に。恋愛好きの女性向き。R18には【閨】と表記しています。 歴史小説「照葉輝く~静物語」の御台所、江の若い頃のお話。 最後の夫は二代目将軍徳川秀忠、伯父は信長、養父は秀吉、舅は家康。 なにげに凄い人です。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

妻がヌードモデルになる日

矢木羽研
大衆娯楽
男性画家のヌードモデルになりたい。妻にそう切り出された夫の動揺と受容を書いてみました。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

【R18・完結】鳳凰鳴けり~関白秀吉と茶々

みなわなみ
歴史・時代
時代小説「照葉輝く~静物語」のサイドストーリーです。 ほぼほぼR18ですので、お気をつけください。 秀吉と茶々の閨物語がメインです。 秀吉が茶々の心を開かせるまで。 歴史背景などは、それとなく踏まえていますが、基本妄想です。 短編集のような仕立てになっています

GAME CHANGER 日本帝国1945からの逆襲

俊也
歴史・時代
時は1945年3月、敗色濃厚の日本軍。 今まさに沖縄に侵攻せんとする圧倒的戦力のアメリカ陸海軍を前に、日本の指導者達は若者達による航空機の自爆攻撃…特攻 で事態を打開しようとしていた。 「バカかお前ら、本当に戦争に勝つ気があるのか!?」 その男はただの学徒兵にも関わらず、平然とそう言い放ち特攻出撃を拒否した。 当初は困惑し怒り狂う日本海軍上層部であったが…!? 姉妹作「新訳 零戦戦記」共々宜しくお願い致します。 共に 第8回歴史時代小説参加しました!

13歳女子は男友達のためヌードモデルになる

矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。

処理中です...