チャリに乗ったデブスが勇者パーティの一員として召喚されましたが、捨てられました

鳴澤うた

文字の大きさ
上 下
7 / 34
澪ちゃんがやってきた(というか逃げてきた)

その1

しおりを挟む
 それから――早一ヶ月。
 
 この世界にきて二ヶ月半経った。
(いったい何時になったらこの国を救うのかな~?)
 と私は、出前の弁当を運び終わり、ガーディアンを漕ぎながら鷹の目亭に帰宅中。
 
 相変わらず勇者パーティの評価は悪く、ますます下がって最低を振り切ってる。
 だって、まったく城から出てこないんだもん。

「城の外が怖いのかよ。まったく勇者も世も末だ」
 なんて市民のあざけり笑う声を多々拝聴している私ですが――
(そもそも……その『国の危機』という場面を見たことがござーません)
 魔王や魔物、そして瘴気に取り込まれた人々や動物――なんてのをまだこの目で見たことがない。

 平和そのものな街の日常。
(もしかしたら城下街の外で、そういう騒動が起きてるのかな?)
 そうしたら噂で耳に入ってきてもおかしくないよね?
 いつも店でたむろってるウィルドさんのお友達が、色々情報をしい入れてくる。
(ウィルドさんのお友達は一体、何のお仕事をしてるんでしょう?)
 今度聞いてみよう。

「さーて、ガーディアン! お腹すいたね、お昼食べたらエネルギー充電してあげるからね!」
 そう、彼は私の治癒の波動が栄養源。
 なので私の腹が満たされないと、治癒の波動が提供できないのです。
 ガーディアンはリーン! と同意のベルを鳴らす。
 
 今日もランチタイムでたくさん働いた。夕方まで暇になるからそれまでガーディアンをメンテナンスしたり、昼寝したり、たまに仕込みを手伝ったりとダラダラと過ごすのが毎日の日課。
 
 ウィルドさんは、前に言った通り「いったい何時休んでる?」というくらいいつも動いてる。
 一緒に動いていたら「絶対倒れる。止めとけ」と回りから止められるし、ウィルドさん本人からも「夕方までしっかり休め!」と叱られるのでお言葉に甘えている。

「今日のまかないランチは何かな~」なんてウキウキしながらガーディアンを漕いで、鷹の目亭は目の前! という距離で私はブレーキをかけた。
 それでも前へ進もうとするガーディアンを「ストップストップ、どうどう」と、ほぼ馬の扱いで制止させる。
 
 おどおどした様子で道を歩く女の子の姿に、見覚えがあったから。
 まるで初めて外に出ました! みたいにキョロキョロして不安げに周囲の人を見てる。
 黒髪サラサラヘアに、懐かしき日本の学生服。
 私も学生服のまま召喚されたけど、飲食のお仕事をしてるからここの世界の汚れてもいい服に着替えてる。
 けれど、異世界で学生服ってめっちゃ目立つわ。

「澪……ちゃん?」
 名を呼んだ私の声に反応してビクッと全身を震わせながら、こっちに振り向く。
 私は念のために、もう一度名前を呼んだ。

「澪ちゃん? 澪ちゃんだよね? 私! 実里。及川実里!」
 
 覚えてるかなー? 数分で城から追い出されたこの身を。

「実里ちゃん!」
 覚えてたー! 私、ホッとしたのも束の間。
 澪ちゃんは涙腺を崩壊させ、私に抱きついてきた。
 
 ガッ、ガーディアンが倒れる……!? と思ったけど、この子一人(台)で立てる子だった。



◇◇◇◇◇


「へぇ……『ミオ』っていうのか。勇者パーティの『聖女』として召喚された……」
 ほうほう、とウィルドさんは頷きながら私と澪ちゃんにアイスカフェオレとまかないランチを提供してくれた。
 今日は、黒パンにウインナーを茹でたのを野菜とマスタード、ケチャップではさんだものとフライドポテト。そしてジャム入りのヨーグルト付き。

 ――ホットドック!

 澪ちゃん、ケチャップを見て黒目がちの目を白黒させてる。
「ミサトに聞いてそれらしいものを作ってみたんだが、ケチャップ。味をみてくれ」
「わかりました。では食べましょう! 澪ちゃん」

「で、でも突然押し掛けてきて、ご飯をいただいてもいいんですか?」
 戸惑ってる澪ちゃんにウィルドさんはがはは、と笑う。
「なんだ、日本人という種族は遠慮がちな民族だな! いいんだ、食え食え! ケチャップの出来も知りたいしな」
「澪ちゃん、食べましょ?」
 私も勧める。だって働いてお腹ぺこぺこですから!

「いただきます!」
「い、いただきます!」
 私と澪ちゃん、一緒にガブッとかぶりつく。

「……ぉ、美味しい……!」
 口をモゴモゴさせながら澪ちゃんは、びっくりしたように感想を言った。

「美味しい~! このケチャップのトマトゴロゴロ感が良いです~! パンも軽く焼いて噛むとパリッと、中はもっちり!それにこのウインナー! すっごいジューシー! 噛むとぷちっと皮が弾けて肉汁がたっぷり出てきて、肉の感触がまた最高です! 茹でただけなのに! 物が違うんですかね?」

「茹でただけじゃねぇよ。茹でながら焼くんだ。うちは『蒸し焼き』にしてる」
「手間一つでただのウインナーが、こうも美味しくなるんですね。ウィルドさん、物知りです」
「まあな」とウィルドさんはちょっと照れながら、下拵えの続きをし始めた。
 
 澪ちゃんと二人で「美味しい美味しい」ともぐもぐして、アイスカフェオレをいただいて(これも澪ちゃんびっくりしてた)お腹を満たしたところで、身の上対談。
 
 だって『聖女』の澪ちゃんが護衛もつけずに、一人であんなところにいたら驚くじゃない?

「それで、他のパーティの人達は?」
 澪ちゃん、肩を強ばらせてぎゅっと制服のスカートを握りしめた。
「……知らない。ほんと、腹立つんだから」
「――えっ?」
 
 ぽつりぽつりと澪ちゃんは顔をしかめ、拙い話し方で自分の身の上に起きた城での出来事を話し始めた。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

処理中です...