君の中へ

うなきのこ

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王宮での仕事

41 カンパーニュ

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「昨日の夕餉にケチャップとかいうソースをつけたトイガスを食べたのですがものごく美味しかったです!それとグラタン?という料理も。
ですが…。
以前交わした約束を覚えていますか?」
「約束ですか?」
「試作品はまずは私に食べさせて欲しいというものですよ」

そんなこと言っていただろうか?

『まさかこいつ、陛下との約束を覚えていないのか!?』
『ほらな。やっぱどこか抜けてるんだよ、あの人』
おっと、静かだったのに急にうるさく…。

「申し訳ありませんが、その約束を覚えていなくて…」

『いつ試作品が運ばれてくるのかとドキドキしながら待ちわびていたというのに…』

つまり陛下は完成されたものではなく試作品の段階で食べたかっ───

『ミオさんの手作りじゃないものを食べさせられるなんて。』

ただけ、なのだと思ったが違ったか。
俺の手作りというのが重要だったみたいだ。

俺に対する好意や悪意は特に簡単に拾ってしまい申し訳ないが、俺もまだこれに気づいたのは少し前だし制御するには至っていないので許して欲しい。
と、心の中で何回目かの謝罪をした。

「今日から作るものは1番に私に食べさせてくださいね」
「約束したことを忘れていたのは大変申し訳ありませんでした。
今日からは私が作ったものを1番にお持ちしますよ」
「それで、良ければミオさんに持ってきてもらいたいのですけどどうですか?」

どうせ作ったら彼らが自分たちでも作り始めるし手が空くので了承した。

「あっ」

いちばん重要なことを聞くのを忘れていた。

「陛下、この王宮で作った料理ですけど買取りと言うことは他のところでは作って販売するのは禁止ですか?」
「問題ないですよ。
確かハラムイザパンを作ってもらったというレディアでこれから働くんですよね?」
「はい」

俺からは話していないのでリンドさんからでも聞いたのだろう。

「そこでしか売らないことを条件に許可しますよ」
「ありがとうございます。許可を頂いた通りレディアでしか販売しません」
「今日は何を作るんですか?」
「レディアでも売りたいと思っていたソリウパンです。レディアではソリウを使ったものは出せないのであちらではフィッツラパンですが。
3時間ほど後にしか食べられないのでまた後ほどパンが焼けましたらお持ち致します」
「ソリウパンも楽しみにしてますね」

煌びやかな部屋から出ると案内係をしてくれていた近衛隊員がまた厨房まで連れて行ってくれる。
小一時間ほど話をしていたのだがその間もしかしてずっと扉の外で立って待っていたのだろうか。

「おかえりなさいませ、ダルガス様」
厨房へ戻ればロプアンさんが出迎えてくれたのだが。
「…ただいま…戻りました…」
皆さん、口の周りにマヨネーズ付いてますよ…。

俺がいない間にマヨネーズを沢山作ったのか。
どうせならケチャップのストックをたくさん欲しいのだけど。

「先程話していたことですけど、俺の好きにしていいみたいなのでソリウパン、作りましょうか」

半乾燥させたソリウは縮んだとはいえまだパンにねり込むには大きいので刻むがあまり刻みすぎてもソリウを感じられないので少し大きめに。

強力粉と塩を混ぜたところにぬるま湯と酵母を入れて表面がなめらかになるまで練り込んでいく。
発酵を繰り返して一個分の生地を取り分けて綿棒で広げ、そこにセミドライソリウを散りばめて包み込み、また丸める。
これをいくつも作ってさらに発酵させ焼成。

「作り方も量も問題ないとは思うんですけどもしかしたら失敗するかもしれないです…」

「ソリウが無駄になったとしても誰も怒りませんよ」

俺の顔を見て不安そうにしているとでも思ったのだろうか。

焼ける匂いに誘われてか、ヨダレ垂らしている皆さんにびっくりしているだけです。
確かにいい匂いではあるけれど。

もし失敗したら陛下へ献上するなんてことはできない。
陛下は俺の手作りを食べたいのだから試作品を渡すのは良くないよな。でも1番に食べたいって言ってたから。

通常のパンを焼く時と同じ温度と時間で焼いて貰っているから生焼けは回避できるとは思うけれど。

「焼けたみたいです」

オーブンから取り出して表面を確認する。見た目は問題なさそうだ。

初日はまだ水分が残っていてそのままでも充分美味しく食べれるし、2日目は切り口から水分が抜けて少しパサつくがサンドイッチやスープに浸して食べれば充分美味しく食べることが出来る。
が、ここではそういった保存方法なんて関係無いだろう。

「これも美味しそうですね…」
「時間が経つと表面がもう少しパリッとしますよ」

焼きあがったばかりなのでまだ柔らかいので切りにくくはあるけれど確認のために1センチ幅に切っていく。
切っていく傍から消えていくが彼らには「待て」を覚えさせた方がいいだろうか。
刃物を持っているというのに危ないじゃないか。

「中も綺麗に焼けれますし問題なさそうです。味はどうですか?ソリウに少し辛味のあるスパイスが感じられたのでこのパンに合うと思いますけど」

田舎にいた時に母から教わったカンパーニュは自家製胡椒入りでトマトとよく合うものだった。1日目はそのままつまんで、2日目はチーズを乗せてトースターで焼き、3日目はサンドイッチ、4日目にはパサパサになっていてトマトスープに浸して食べた。
懐かしいな。

「美味しいです!」
「こんな味になるんですね」
「歯ごたえがあるパンだしこれだけで食べ応えありますね」

なかなか好評でよかった。
俺も一口食べてみたが火の通りもソリウの存在感も申し分ない。
こちらは素人だからプロには負けるだろうが彼らが美味しいと言ってくれるのなら問題ないのだろう。
「俺はこれから陛下へこのパンを私に行ってきますね」
「「「行ってらっしゃいませ」」」
3枚を皿に乗せると俺は厨房から出ていき、近衛隊員と共に陛下の元へ向かった。





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