君の中へ

うなきのこ

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王宮での仕事

40 ドライソリウ

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王宮へ出向き近衛隊員に案内されるままに厨房へと向かった。
彼に「案内は必要ないですよ」と言ったのだが「お客様という立場であると賜っております」と陛下からお達しがあったみたいだ。

「ダルガス様、ケチャップを大量に作って早速陛下の夕餉にお出ししましたところ大変好評でした!陛下もあまじょっぱくて美味しいとお気に召したご様子でした!」
と、厨房に足を踏み入れて早々に詰め寄られる。
ケチャップを出すならフライドポテトと共に出すとより美味しく食べて頂けるのではと提案していた。
フライドポテトは元々あったけれどそのまま食べるか塩をかけるかくらいしかしていなかったらしいのでケチャップにつけるというのは革新的だったらしい。
「それは良かった。
今日は別の調味料作りたいのですがミナークの卵使っていいですか」
「えぇ、好きに使ってください!」
ミナークの卵は片手いっぱい程のサイズで味も濃い。
コルドさんが朝食に目玉焼きを出してくれたときはその大きさにびっくりしたものだ。
「2つ貰いますね」
卵黄2つと塩と油と酢。
これも好みでニンニクや香草を使えばさらに美味しくなる。
材料を混ぜていって料理人たちに振る舞えばこれまた直ぐになくなってしまった…。
多めに作ったはずなんだけどね。
「これもパンに塗って肉や野菜を挟んだものを作ると更に美味しくなるのでオススメですね。
野菜を炒めるのに使ったりソースに足したりと使い方は色々」
作業工程を見ていた彼らは無くなるや否や、早速それぞれ器具を手にしてマヨネーズを自作し始めた。
料理人たちを見ているとケチャップよりもマヨネーズ派に偏ったような気がする。
ケチャップとは違ってコンロを使わないからかも。
ところで、イケメンたちがぶくぶくと太ってしまわないかちょっと不安になってきた…。マヨネーズだけで食べている姿にはさすがに引く。

「乾燥ソリウはどんな感じですか?」
完全に乾燥させたドライと半乾燥させたセミドライの2種類を作るために昨日のうちに仕込みをお願いしていた。
簡単に作るのならオーブンを使って乾燥させる方法も良いけれど俺の経験則では天日干しが1番だ。
自然と水分が飛び旨みが太陽によって生成される。
「こんな感じで萎みました…あの、本当にこれでいいんですか?」
ザルに散りばめられ日干しされた縮んだソリウを見た彼らは不安げだが食べて見ればわかる。これが驚くほど美味しいのだ。
昨日と同じように躊躇いもなく口に含むと料理人たちがどよめく。
「何してんだ!学べよ!吐き出せ!」
「昨日とは違ってなんともないですよ?美味しい」
全員ポカンとしていた。
確かに乾燥させただけで生であることには変わりないけど、俺の仮説通り毒素はないっぽい。
「皆さん少しずつ齧ってみたらどうですか?」
トマト…ソリウの青臭さは生で食べても全く感じられなかった。
貴重だからか、はたまた料理人だからかソリウを食べられないという者はいなくて彼らはドライソリウに興味津々だ。


俺の24年の人生で唯一付き合った事のある彼氏は「まずい」と一言。俺の渾身のトマト料理をひと口食べただけで完食はしてくれなかった。
あの時は本当にショックだったな。
付き合ってひと月たった頃に家に初めて招いて手料理を披露して。
自家栽培していたトマトを使ってパスタを振舞った。
まずいと言われて何か材料間違えたかと慌ててひと口食べたけど全然不味くなかった。

元彼氏がトマトを嫌いだということはそこで初めて知ったんだよな…。
でも「まずい」なんて言うのは酷い。「トマトが苦手」と言うだけで良かったのではないだろうか。
今思えば本当になぜ好きになったのか分からない。
…いや、確かに出会った頃はちゃんと成熟した成人男性だったけれど。

いつしか俺から心が離れて浮気したあの男は少しでも反省しているだろうか。
していないだろうな。
浮気する奴は一度反省したフリをするだけで何回でも繰り返す生き物なのだから。

彼は隠すのが上手かったからきっと浮気相手の方にも俺という彼氏がいたことも知らなかった可能性は存分にある。
騙されているかもしれないと言っても同情はしないが。

俺も趣味である人間観察だけでは見抜けなかったと思う。
日々の触れ合いをしていたからこそ、心の声を拾う事ができたのだから。
それだけ上手く隠していた。

あの男は俺とのセックス前後に誰かとセックスしていたからあれが絶倫というやつなのだろう。
比較相手がいないので正直分からないけれど、少なくとも俺は2回射精したらバテていた。
受け入れる側だったからかも知れないが。


俺が美味しそうに咀嚼し続けたからか恐る恐る手を伸ばした彼ら。
「乾燥させたソリウ凄く濃くて甘くて美味しいです!」
「煮込んだものより濃いのは昨日教えて頂いた陽の光のおかげですか」
「これをどのように料理に使うのですか?」
「完全に乾燥させたものも早く食べてみたいです」

などなど、元彼氏と違って彼らから発せられるのは良い感想ばかりだ。

「この半乾燥のものはハラムイザと同じようにパンに練りこもうと思っています。
そこまで甘くないので食事向きに作れるはずですよ」
「ほぉ!それは楽しみですね」
「あ、でもその前に聞きたいのですが乾燥フィッツラで同じものを作って売るのはダメですか?」

レディアで作りたいと思っていたパンだからここでしか作っては行けないと言われたらここでは教えたくない。
乾燥ソリウや乾燥フィッツラと合わせるパンにも向き不向きがあるからパンの種類を教える前に確認をしなくては。
ケチャップもマヨネーズもグラタンも、もしかしたらレディアで扱うのは良しとされないかも知れない。

今更だが確認を怠っていた。
もし他で作るのを禁止と言われたら陛下に直談判しに行っても許されないだろうか。

「申し訳ありません、そのあたりのことは何も聞いていなくて。これらの新料理を使って商売をなさる予定だったのでしょうか?」

「はい、ここで教えたあとにお世話になるパン屋でいくつか売りたいと思っていたものはあります。まだ彼に教えてはいないですけど」

「お話中、失礼致します。」

厨房へ今日も案内してくれた近衛隊員の1人が近づく。

「ダルガス様を案内するようにと仰せつかって参りました。」
彼は「陛下がお呼びです」と付け加えると手で出入口へと促される。

なんの用で呼ばれたのか彼からは何も伝わってこないし分からないが契約内容をもう一度確認するいい機会かと考えていると謁見にいく格好ではないことに気がついた。
リンドさんから貰ったあの服とか着なくていいのだろうか…。

「あの、服こんなのですけどいいんですか」

案内をする彼に声をかけるが「心配いりません」としか言わなかった。
突然呼びつけられたのだしラフなこの格好でいいと言うのならいいのだろうとも思うが不安だ。

部屋へ着くと案内してくれた彼は廊下で留まり、中へ入れば陛下とカーテン裏の近衛隊員2人以外は誰もいない様子だった。
『陛下の手を煩わせるなんて』
『陛下が目をかけている御方なのだから我慢しろ』
『贔屓して貰って付け上がってるんだぞ。見ろよあの格好』
『いや、俺が見るにアレは天然だろう』

あまり広くはない部屋だから声を出せば聞こえるはずだがそれは聞こえない。彼らは俺への嫌悪感を示した会話を何か合図のようなもので成り立たせていると思われる。

「ミオさん、どうぞ座ってください」

声をかけられたことで彼らの会話も途絶えた。

「失礼します」
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