君の中へ

うなきのこ

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異世界での生活

33 進化した。

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午後になってフィヨとは別行動。
俺はリンドさんのいる診察室へノックをして入室した。

ここに初めて来た時はすごく綺麗だったのに今は少しごちゃついている。あの時はフィヨが綺麗に片付けたあとだったらしい。
片付ければ書棚の意匠にも目が向く筈なんだけどな…。

「なにか探し物でもあるんですか?代わりに探しますが」
「今見つけたところだよ。すまないね、散らかして」
「いえ。…あの、リンドさんお時間ありますか?急ぎではないんですけど聞きたいことがあって」

忙しいだろうか。
資料を離そうとしないしたぶん今は時間取れないとはおもうけど予定を取り付けたいからあえて口にした。

「これから王宮へ出向かなきゃいけないんだよ。急ぎでは無いのなら帰ってから聞いてもいいかい?」
「はい、大丈夫です。今日はこちらには戻られないということでよかったですか?」
「そうだね、戻らないと思う」
「分かりました」




散らばった資料をいつものように片付けてリンドさんを見送り、フィヨやほかの医師見習いと同じように医療品の補充で病院内を駆け回る。

「ミオー!こっち来てくれ」
少し遠くから俺を呼ぶ声がして補充の手を止めてそちらへ向かう。
「なんですか?ホーリッツさん」
「悪いけどこれ持って王宮へ行ってくれないかな?私はこれから患者の面倒見ないといけないしリンドに持っていくものだからミオにお願いしたくて」

リンドさんより7つ年上のホーリッツさんは光魔法の使い手でありながら自分の魔法では足りない部分を医療でカバーする、光魔法の使い手の中では数少ない努力の人だ。

ほとんどの光魔法の使い手は貴重だという事だけでふんぞり返っている人ばかりで俺は自分の努力で頑張っている医師達の方が好感が持てるなと常々思っている。
もちろん、リンドさんもその努力を怠らない立派な人だ。

「分かりました。なんて言って渡せばいいんですか?」
持たされたのはA3程の封筒ひとつ。
中身が見えないので王宮門で足止めを食らうかもしれないと内容を聞いておく。
「リンドが今日の会議で使う予定らしい新しい魔法構築の設計図補足だよ」

新しい魔法を開発するにはそれらが不正利用や謀反に使われることのないようにと王宮で厳重に管理されている。
魔法を新開発したらまずは王宮に報告しなければならないらしい。

新しい魔法ってもしかして俺ためのやつかな…
いや、あと少しかかるって言ってたから別件か

「新しい魔法構築の設計図補足、ですね」



なるべく早めに持って行って欲しいと言われホーリッツさんが手配した馬車に乗り込む。
病院が所持している馬車ではなく賃金を払って送り迎えをしてもらうタイプのこの馬車は言わばタクシーだ。
個人で手配したものでは無いから経費で支払われるそうで俺は王宮の門へ着くと降りて御者へ礼を言う。


以前来た時はリンドさんという顔パスが居たから俺もスルーされたけど今回は1人だしそうはいかず、門番へ「病院からリンドさんへの届けものです」と言えば少し待つようにと待合室へ通された。

王宮の門からは近衛隊の管理らしく王に仕えているからか警備隊隊長のカイルよりも全然紳士的で対応がいい。
ふかふかなソファーのある待合室ではドリンクを出してくれて話が通るまでの間、俺の話し相手までしてくれる。まさに至れり尽くせりだった。
ものの数分で入場許可が降りて話し相手をしてくれていた彼にリンドさんのいる所まで案内される。

「ミオ、わざわざありがとう。助かったよ」
「一応中身の間違いがないか確──」
「ミオさん!お久しぶりです」
案内された部屋の前でリンドさんに封筒を渡しているとリンドさんもでてきた扉からひょっこりと顔を出すこの国の国王陛下、ラウルが居た。

周りに人がいるというのにその喋り方でも問題ないのだろうか…
前に威厳がどうのとか言ってなかったか

「お久しぶりです、陛下」
「ミオさん、こっち入ってきてください」
「重要な会議中と伺ってますので遠慮させていただきます」
「いや、これはミオさんに関わりのあることだから」
ニコッと人好きのする笑顔を向けられるが俺の関わりあることとは。
リンドさんがおいそれと俺の能力のことを話すとは思えずならば俺に関係する話とはなんなのかと考えをめぐらせていると
『ハラムイザパン以外にもなにか開発して欲しいからな…リンドさんから聞いてたミオさんの好物であるソリウを見返りに渡そう。それならもしかしたら。』
「早く入ってきてください」
『陛下はまたあんな話し方をして…。陛下はそんなに彼が気に入ったんでしょうか…』
『ソリウを陛下に譲って貰えるように交渉するつもりだったけどミオに直接強請ってもらう方が沢山貰えて喜びそうだ』
「ミオ、入っておいで」
あぁ、やっぱり。
制御しているはずの心の声が聞こえてきた。

リンドさんはもちろん陛下や、王宮で働く全ての人は精神防御魔法が一定以上ないと務めることが認められない。
闇魔法を悪用する者に利用されないようにするためだ。

ならば精神防御魔法が機能していないということではないだろう。

今日気づいたのだが俺との関係性が浅い深いに関わらず、俺に強い関心を向けた内容ならば触った時と同様の能力が発揮されてしまうらしい。

促されるまま入室したはいいけど、陛下とリンドさんそれに知らない人が3人もいて、どれが心情で肉声なのか聞き分けが難しい……

これなら昼の時にでも時間貰ってリンドさんに話せばよかった。
そうしたら多少は配慮して貰えたかもしれない。
後悔先に立たずとはまさにこの事だろう。

重なって聞こえる声の中からどうにかリンドさんの声は聞き取れた。
ミオって呼び捨てにするのは一人しかいないからわかりやすい。
それに陛下もミオさんって呼ぶからそちらも何となく。
俺の事を知らないほかの3人は「彼」や「あの男」と呼んでいるけどそれ以上は聞き分けられない。

リンドさんが開発してくれている魔法の完成を待つ間にこの新しく開花してしまった…というか進化してしまった能力を制御しておかないとつらい…。

俺は修行だと思ってリンドさんに引いてもらった椅子にとりあえず座った。

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