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異世界での生活
32 恋バナ
しおりを挟む余分な休暇を貰った翌日、俺はリンドさんと共に病院へ出勤した。
当初の仕事は片付けが苦手だというリンドさんの代わりに資料整理をしていたけど12月に入ってからは資料整理以外にも医療道具の準備を手伝うこともしている。
なぜ医療道具の準備をするのかと言われれば、魔法ってなんでも出来るんだと思っていたけど実際はそうじゃなかったからだ。
光魔法でかすり傷から大怪我まで治せるし病気もほとんど治せる。けれど万能ではない。
血が失われれば輸血をしなくては行けないし、腕が魔物などによって食いちぎられれば元には戻らない、傷口を消毒をしなければ光魔法で治したとしてもそこから腐ってしまう。
それに光魔法で治すのは多大なお金がかかる。
首都病院であるここですら光魔法の使い手は僅か16名。
魔力量によっても治療の施せる怪我の程度や回数が変わってしまうので光魔法では治せないものを補助で医師が代わりに処置する。
リンドさんは魔力量も多いし魔力を可視する事が出来ることもあってほかの人よりも多く施術しているから常に忙しくしていた。
そんな人が俺のかすり傷や軽度の火傷をサッと治すなんて恨みを買われそうだ…とその事実を知ってから毎回ビクビクしてしまうけど、リンドさんの人柄か往来で治癒してもらっても誰も気にしていなかった。
「ミオさんそれちょうだい」
「何本?」
「3本」
「はい」
消耗品補充を一緒にしているのはフィヨ。
4つ年下の彼は俺の水魔法の先生だった。
すぐに水魔法はマスターしてしまったからフィヨは「つまらない」と不貞腐れていたけどその理由は医師らに頼まれた雑用をサボれなくなってしまったからだそうだ。
医師見習いの期間が早く終わるといいね…
「ミオさん、そっちの」
「これ?」
「違う、青色の方!4つとって」
「これか。はい」
「あと緑の棒もあるでしょう?それ交換するから出して」
「了解」
年下だけど教えて貰ってる立場なのは俺だからとお互い敬語は無しで話している。友達が出来たようで嬉しい。
フィヨとはプライベートを共にすることは無いけどお昼ご飯は毎回一緒だ。
「今日も補充だけしかしてないよぉ…」
「ははは、お疲れ様。でもフィヨが医者になったらフィヨの代わりに誰かが補充する訳だからさ、お互い様ってやつじゃない」
「うーん…ミオさんは心が広いな。補充なんて見習いが体良くこき使われてるだけだよ?」
食事を終えて項垂れるフィヨは毎度の愚痴を零す。
「それでも誰か手が空いてる人がやらないとね」
「…前から思ってたけどミオさんって割と尽くしたがりな傾向あるよね」
「そう?」
「恋人にもそうなの?」
「前はそうでもなかったと思うよ。でも困っている人がいれば手を貸すことはしてた。常識だけどね」
「なかなか無条件に手を貸す人って居ないから立派だよ。ライアスさんもミオさんもそんなことしてたら疲れちゃうよ?」
フィヨが机の上で腕を組んでその上へ頭を乗せた。
喋りにくいだろうにその姿勢のまま話を続ける。
「尽くすばかりじゃ疲れちゃうし甘えられる人がいた方がいいと思わない?俺とかどう?」
「えー?フィヨを恋人にってこと?」
「えーってなにさ。」
頬を膨らませて不満げに言う。
「フィヨは甘やかしてくれそうにないよ。俺から見るとね。どちらかと言えばわがまま」
「そんなことないよ!恋人には俺、甘々なんだから!」
「そうかなー?」
「そうですっ」
反応が可愛くてついついからかってしまうけれどそろそろ泣いてしまいそうだから切り上げて話を戻す。
まだちょっと子供っぽいところがあるから弟みたいだ。
「恋人じゃないけどリンドさんには結構甘えちゃってるからな…なにかお礼したいんだけど何がいいと思う?」
「ライアスさんの好みはミオだよ」
「身を捧げろと?そりゃあ喜ぶだろうけど何かしたいって言うのはそういうことじゃない。」
「あれ?ミオさんはライアスさんのアプローチに気づいていないものだと思ってたけど」
リンドさんの俺に対する恋心ってやっぱり誰にでも分かるかな…。
かという俺も気づいてないわけじゃない。
多分、恋人は要りませんって言ってあるからかアピールはするものの告白には踏み込んでこない。
そういうところ大人だなと思う。
嫌がることはしないのは紳士の基本だろう。
「気づいてるよ。でも付き合う気もないのに思わせぶりな態度は良くないでしょう?告白された訳でもないし」
「まぁそうか」
「そろそろ休憩も終わっちゃうから行くよ」
「そんなきっちりじゃなくてもいいのに真面目だね…はぁー午後も雑用とか嫌だぁ!」
「ふふ、頑張ろうね、フィヨ」
応援ありがとうございます!
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