君の中へ

うなきのこ

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異世界で生きる為に

15 甘党

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走りに行く前はゼレンしか起きていなかった様だが風呂から上がればもう日が登って屋敷の従者らは朝の支度を始めていた。

微かに聞こえる心地の良い生活音っていうのはなんでこんなに心地いいんだろうな

都会にいると朝でも喧騒の中にいる状態でなかなか落ち着けなかった。
人と多く関わる仕事をしていたものだから常に人の声を聞いて過ごしていて休む暇もなく、かといって田舎では畑仕事以外の仕事はほとんど無かったから引っ越すこともしなかった。
こんなにいい環境で過ごせる日が来るなんて感動すら覚える。
この地に来ることができて良かった。

無神論者であったはずの俺が初めてまともに神に感謝を伝えようと思えた。



ゼレンにも都合があるだろうとまだ「文字を教えてほしい」とは言ってないので、代わりにこの3日で知った文字を覚えていく。

ソリウとフィッツラは既に完璧に書ける。
あとはチリドットン、ガンボルロ、サトラ… … …
書いてもらったレシピと自分のメモを元に何とか読めたと思う。
自信はないけど。

自力で頑張って勉強しているとコンコンとノックがした。

「朝食の準備が整いました」




「おはよう、ミオ」
「おはようございます」
「今日は朝から屋敷の周りを走って来たんだってね、迷子にならなかったかい?」
「昨日いただいた地図のおかげで迷うことはありませんでしたよ。
そうだ、ゼレン、文字を習いたいのだけど今日から教えてもらえませんか?ゼレンの時間がある時だけでいいので。朝に見つけた気になるお店があるんですけど店名がわからなくて困ってるんです」
「ええ、勿論構いませんよ」

実際にはがどの文字がどれに当てはまるのかが分からなかった。
これから5日の間、毎日2時間文字の読み方と書き方を教わることになった。

俺が頼ったのがゼレンだったからリンドさんが少し羨ましそうにゼレンを見たが、彼は気づいているにもかかわらず主人を無視した。

こんな態度なのに怒らないとか菩薩か…。


「リンドさん行ってらっしゃい」
「行ってくるよ、ミオも勉強頑張ってね」
「はい」

ギルド長と会う予定の午後まで時間があるので今日は午前中に文字を教わることにした。

「…で、…が、そうです。図鑑と同じ字になりましたよね。ではそれを応用して次は「ハラムイザ」と書いてみましょうか」
「ハラムイザ?」
「今の時期に美味しい魔物ですよ。…こちらです」
図鑑を開いてトイガスの次のページを開く。
見た目は完全にカボチャだ。
「こちらはツルに成っていて別の木に寄生して育ちますから一度寄生先を決めればその木から一生離れることはありせん。
ぶら下がっている子であります実は完熟すれば自然とちぎれ落ちて来ます。この実を拾ってきて食用としています。
この時期に森に入る場合は頭上にご注意くださいね。それ以外であちらから致命傷になるような攻撃はありませんから魔物ランクでも最下位に位置してます」

攻撃してこないのに魔物…?
植物との線引きは動くかどうかだと思ってたけど違うのかな…

「これは完熟して落ちたものを拾うんですか?それとも追熟するんですかね?」
「ハラムイザは完熟したものを拾ってきます。青いものをもぎってもおいしくはありませんからね。
それでミオ様、ツイジュクとは何かお聞きしても?」
「早めに収穫して食べれるまで待つことですよ。」
「ほお、それで美味しく食べることができるのですか?」
「俺の知っているハラムイザに似た見た目のものはそうでした」

「…では追熟というものをやってみましょうか。完熟したものはいつ落下するのかわからなくて毎日様子を見にいかなくてはならないそうなので。
その追熟というものが通用するのであればだいぶ管理が楽になりましょう。
ミオ様は追熟の方法はご存知でしょうか」
「同じかはわからないですけどある程度育った実をとってきて涼しい場所でひと月ほど放置するだけですよ。それだけですごく甘くてホクホクになります」
「ハラムイザは甘さとホクホクの食感と栄養価が高いものなのですが、さらに甘くなる効果があるのならぜひ試してみたいですね!」

あれ?もしかして甘党か?

「ライアス様にもご報告しなくてはなりませんね。…収穫には一緒に行きませんか?」
「え、行っていいんですか?」
魔物だと言っていたから冒険者の人たちが取りに行くんだと思ってた…
寄生獣で動けないから一般人でもとってもいいのかな?
「問題ありませんよ。ライアス様に許可頂ければきっと安全な王宮の畑になっているものを取らせてもらえますからね。」
「王宮の畑⁉︎王様とそんなに仲がいいんですか⁉︎」
「宮廷医師であり、現国王様のもう1人の父親のような存在でいらっしゃいますから。
この件はミオ様がお聞きになった方がよろしいかもしれませんね。そのほうがすんなりと王宮の畑行きが決まるでしょう。」

なんか急にいいように使われ始めた気がするよ。
そんなに甘いものが好きなんですね。

「わかりました、リンドさんが帰ってきたら聞いてみますね」
「一緒にハラムイザを甘くする方法を試しましょう!」
「っふ」
表情は変わらないのに声がウキウキしているものだから面白くて少し笑い声が漏れてしまった。
「何か?」
「…すみません。…ゼレンは甘いものが好きなんですか?」
「!そんなにわかりやすかったでしょうか…お恥ずかしい…」
「ふふ、俺も甘いものは好きですよ。リンドさんはどうなんですか?」
は好きでも嫌いでもない、と言った所ですね。ですからコルドの渾身の新作デザートにもあまり興味を示されることはなかったです」
「美味しいのに」
「ですね」
「でもこれからしばらくは俺が居ますよ!ゼレン、お話し沢山しましょう!」
「なんと!話し相手に選んでいただけるとは嬉しく思います。ミオ様、改めてよろしくお願いいたします」
「こちらこそ
あ、字の勉強そっちのけになってました…」
ハッと気づいて時計を見れば一時間が経過していた。
「楽しくてつい花を咲かせてしまいましたね。さて、教えた文字はおぼえていますか?」
「…おぼえてるよ…は、ハラムイザ…」
どう言ったものかは理解したが教わった文字は飛んでしまっていた。


ゼレンに文字を教わるに際してわかったが、ひらがなと漢字と言ったように2種類の文字が存在している。
ひらがなの「み」と図鑑に乗っていた「実」では違う形の文字が使われていて少し混乱した。

「ミオ=ダルガス…ミオ=ダルガス…ミオ=ダルガス…。
うん、書けるようになったかも!どうですか?」
「ええ、長い文字もすごく綺麗にかけていますね。書類がこんな綺麗な文字で綴られていたなら確認しやすいでしょう」
「ありがとうございます」

褒められるとこの歳でも照れてしまうものなんだな。


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