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異世界で生きる為に
14 俺の習慣
しおりを挟む翌日、日が昇る前に自力で起きて昨日買った服に着替えた。
「寒いな…」
走れば暖かくなるしあまり関係ないか。
今は10月末だけど、3月頃までだいたい同じような気候らしい。
4月から9月までは今とは逆に少し暑い程度に留まるそうだ。
走り込むには靴が少し心許ないし近いうちに靴も買いに行こうかな。
支度を終えて大きな玄関ではなく厨房の勝手口から出ようとした俺の後ろにゼレンが付いてきた。
「どこへ行かれるんでしょう?」
「おはようございます。ちょっと屋敷の周り走ってきますね」
一応言った方がいいかと思って振り返りざまに伝えるとゼレンは少し目を見開いて「行ってらっしゃいませ」と送り込んでくれた。
良かった、行かない方がいいって言われなくて。
治安は悪くないってリンドさんが言ってたからあまり心配はしていなかった。
門へ行くのにも肩慣らし程度に小走りで向かった。
外へ出て石畳の舗装された道を走り出す。
少し息が上がるのが早いものの走れないからだでは無いようで、靴もそんなに走りにくいというわけでもなかった。
この辺りの細かい地図は昨日リンドさんに見せてもらっていた。
屋敷の周りは他の家や店などで埋め尽くされていて、整備もされているのでどの道も馬車で通れるくらい広い。
今はまだ日が昇る前でくらいがいくつかの街頭が灯っているので真っ暗という程でもなかった。
街頭はガスでも電気でもなくて魔石という魔力を多く貯めることの出来る石を使っている。
暗さを感知して自動で点灯する。逆に明るさを感知すれば消える仕様になっていた。
屋敷にあった光も全て魔石のおかげだと教えてもらった。
魔石にも種類があって、ひとつの属性しか持たないもの、3つの属性を込める事の出来るもの、少量の魔力しか込めれないもの、大量の魔力を貯めることの出来るものと様々だった。
少し走ればパン屋の仕込みが始まっているようで何処からか香ばしい香りがしてきた。
…ああ、あそこら辺にあるのか。この5日の間に行けたらいいな。
2キロほど走った先では俺が最初にお世話になった警備隊の拠点が見える。
そこの入口には日中に居なかった警備隊2人がこちらを警戒して見ていたので挨拶してみた。
「おはようございます」
「!?あ、あぁ、おはようございます?」
「………」
片方は通り過ぎざまに声をかけた俺にびっくりしながらも返事をしてくれたけど、もう1人は警戒して挨拶を返してくれなかった。
周りを見ても走っている人はおろか歩いている人もいなくて静かだ。
もしかしたらそういう習慣がないところなのかもしれないし警戒するのは当然だな。
日が昇る前のこの時間に居るのはさっきみたいな警備の人か仕込みが大変なお店だけらしい。
これから生活していく屋敷の周りの環境や店の位置確認を走ってひとしきり把握した。
屋敷の周りをぐるりと回るように走ってきたので出てきた時とは逆から戻る。
門にはゼレンが待ち構えていた。
「お帰りなさいませ、ミオ様」
「ただいま戻りました」
「湯浴みができるようにお部屋の浴槽にお湯を張ってあります」
「ありがとうございます」
タオルを差し出してくれてそれで汗を拭く。
走ってくる、としか言ってなかったのにお湯を貯めておいてくれたらしいので玄関でゼレンとは別れて汗を流しに部屋へ向かった。
「はぁーーー…最高…」
朝焼けを眺めながら暖かいお湯に浸かるとはなんと贅沢か。
浴室は外が見えるようになっていて、けれど外から覗き込むことは出来ないようにマジックミラーのような素材で窓が出来ている。
ここでの記憶はまだ3日目だけどもうひと月くらい居るんじゃないかって思うくらいに寛げていた。
それもリンドさんのおかげだな…
生活に慣れるために働き始めるまで5日の猶予をくれたリンドさんに、早く働いて何かお礼がしたい。
病院の運営は国の税金だと言うことだし真面目にちゃんと仕事しないと申し訳ない。
医者の助手なんて務まるのか不安だけど、リンドさんによれば隣に居てくれるだけでいいと。
本当にそれでいいのかな…
改めてちゃんと聞いておかないと。
そうだ、文字を教えてもらわないと!
そうすればなにか役に立てることがあるかもしれない。
リンドさんは今日から出勤だそうだしゼレンに文字を習おうかな。
ギルド長とも会わなきゃ行けなかったんだったな
そんな心配する程、Aランク職員って言うのは貴重なのか…そこも勉強させてもらおう。
とりあえず今日の予定を軽く立てるだけして風呂から上がった。
と、同時に浴室の扉をノックする音が聞こえたので返事をする。
「はい」
「部屋をノックしてもお返事がなかったので勝手に入らせていただきました。浴室におられたのですね。1時間ほどたっておりましたので心配してしまいました。」
「そんなにたってましたか!すみません、もう出るところでした」
「左様ですか。お着替えのお手伝い致しましょうか?」
「いえ、必要ないですよ」
「わかりました。失礼致します」
1時間も入ってたのか…
あまりに適温で景色も良くて全然時間経過を感じなかったな…
さっぱりしたことだし貰った地図にさっき気になった店を書き込んでおこうかな。
応援ありがとうございます!
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