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番外編 咲く花、散る花 (2) 仙道家
しおりを挟むドキドキと鳴る胸の鼓動。
挨拶の内容を頭のなかで反復する。
両親が心中し、一人遺された京司朗が仙道家の養子となったのは小学四年生、九歳だった。
惣領貴之は自分の子供として迎えたかったが、様々な事情を考慮した結果、仙道家の養子とした。
現在の仙道家は、仙道夫妻と夫妻の一子・亮介、亮介の妻・茜と長男の一斗の五人の構成だ。
亮介の妻・茜と一斗は欠席だ。一斗が風邪をひき、熱を出し病院に行ったため欠席となった。
温和で朗らかな京司朗の義両親と義弟は、目に涙をため、結婚を祝ってくれた。
さあ、挨拶をしなければと、心に気合いを入れた瞬間━━━京司朗の義弟の亮介が人目もはばからずに声を出して泣きだした。
「兄さん!兄さんが結婚なんて!こんな普通に結婚するなんて!良かったよ!ほんとに良かったよ!僕はうれしいよ!!」
京司朗の手をガッチリと握りしめた。
亮介の、感動の弁をふるう熱い姿は、冷静な京司朗とは全然似ていない。
「お義姉さん!!」
感動の矛先がみふゆに向いた。
「は、はい!」
みふゆは亮介の声の大きさにつられて負けじと大きな声で返事をした。
「待て、亮介。彼女はお前より五歳年下だ」
京司朗が冷静に一言入れた。
「では!みふゆさんとお呼びしてもいいですか!」
「はい!よろしくお願いします!!」
運動部か応援団の掛け声のようだ。
「こちらこそ!兄さんを、兄さんをよろしくお願いしますぅぅ!!!」
亮介は声高に言うと今度はみふゆの両手をしっかり握って再び号泣した。
みふゆはどうしていいかわからず固まっている。
京司朗は眉間をおさえ珍しく困惑していた。
結局、亮介の号泣はとどまることを知らず、亮介は両親である仙道夫妻に両腕をつかまれ連行状態で場から強制的に退場させられた。その間も「この!この感動をもっとみふゆさんに伝えたいんだ!!」と叫び、「いいかげんにしないか!」「やめなさい!」と、両親に怒られ、仙道家は去って行った。
みふゆの仙道夫妻に対する挨拶は空振りとなった。
「あの・・、ご挨拶が・・」
「ああ・・。・・すまない。亮介は感情が豊かすぎて」
「あ・・い、いえ、・・びっくりしただけで・・・」
空虚な笑みをこぼすみふゆ。
「相変わらず面白いわねぇ、亮介さんは。仙道家のご両親への挨拶は亮介さんがいない時にするといいわ」
胡蝶が淑やかに笑い、
「今日はストッパーの茜ちゃんがいないから熱弁ふるい放題だものね」
と、楓がやや呆れながら言った。
熱弁ふるい放題とはどういうことか。食べ放題飲み放題のように延々と熱弁をふるう人なのか。
「また時間を取るから挨拶はその時にしよう」
京司朗がクスリと笑ってみふゆの肩を抱いた。
みふゆは苦笑いで頷いた。
周囲も若干の笑いに包まれ、昼は皆で食事会となった。
主役でありながらみふゆと京司朗は食事会には不参加となった。
みふゆの体調を慮った胡蝶が、自室で休むよう命じたのだ。
胡蝶はみふゆが退院後も、主治医として、母親のかわりとして惣領家に出入りしている。
みふゆと京司朗を食事会に参加させなかったのは、一部の親族への対応の話し合いがあるからだ。
京司朗とみふゆの結婚を歓迎していない親族がいる。京司朗は元から知っていたが、賛成していない親族の話題がみふゆの耳に入らぬようにするためだった。
京司朗は仙道家に養子に入り、成人してから惣領貴之の養子となり惣領家を継ぐはずだったが、みふゆとの結婚が決まったことにより、婿に入る形となった。
貴之と血の繋がりがない養女のみふゆの婿になるというのは、みふゆの事情を知らぬ親族の間では『納得できない』との声があがっているのだ。
『惣領家をまったくの赤の他人の二人に継がせるなどおかしい。容認出来ない』
惣領貴之がみふゆを養女にすることに関しても、一部親族から苦言が呈され、貴之が権力でもって抑え込んだ。
『子供が欲しいなら惣領の血を引く親族から迎えればいいではないか』
『惣領家の当主の俺にずいぶんでけえ口叩くじゃねえか。この俺がお前らの意地汚ねえ考えを見抜いてねえとでも思ってんのか』
惣領貴之は血統を蔑ろにする男ではない。むしろ大事にしているし、末端の意見にも耳をかたむける男だ。貴之はただ血統と同等に、才能のある者、努力を惜しまない者も重要視しているだけだ。
変わらねばならないこの時代に、惣領家一族には、血統だけを重んじて甘い汁を吸いたがる親族が根強く残っていた。
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