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番外編 咲く花、散る花 (1) 承認式
しおりを挟む「本当の・・、お父さんなんですか?」
みふゆは貴之を前に、意を決した表情で問いかけた。
その日は、みふゆと京司朗との結婚が決まったことを一族で承認する、承認式が執り行われた日だった。
早朝から青空が美しく広がった秋晴れの日だ。
承認式は、先ずは寺と神社の代表が惣領家の大広間に集まり、当主・惣領貴之に対して行われた。
大広間の上座中央には惣領家総本家である霊峰領権現寺住職の惣領一心が、そして惣領家尼寺・百花寺、惣領家神社・樹凰神社(仙道家)、二条院郷領寺(本郷家・二条家の寺)、風雷神社(本郷家・二条家の神社)、松宝院柏寺(松田家・寺)、松宝院海神神社(松田家神社)の各代表が座り、賛同を示す承認の意を書状に書き連ねた。
惣領貴之は正装である黒羽二重五つ紋付(黒の紋付き羽織・袴)で身を整え、下座の中央に座っている。
貴之はこの時ばかりは一番身分が低い立場だった。
書状が権現寺住職惣領一心の元に戻ると、一心は貴之に向かい広げて見せた。
貴之は両手をつき深く頭を下げ、御礼の口上を遂げて書状を受けとった。
続いて五家の当主による承認式となった。
別室に控えていたみふゆと京司朗が呼ばれた。
案内役は惣領家に50年以上仕えている使用人頭の本橋だ。
みふゆは藤原匠真が仕上げた新作の振袖『華千寿』を藤原家から贈られ、胡蝶と楓に着せてもらった。柔らかな白地に牡丹・芍薬・菊が咲き誇り、有職文様・藤立涌があしらわれた、華やかだが上品な振袖だ。銘の通り新たな人生を開く門出にふさわしい着物だ。
京司朗は和の正装、黒羽二重五つ紋付(黒紋付き羽織・袴)を着用している。
凜々しい姿だ。雄々しいと言った方がいいかもしれない。
自信に満ちた立ち姿は、普段のスーツより倍も迫力がある。
みふゆは、果たして自分はこの雄々しい男性にふさわしくあれるだろうかと不安が蘇った。
案内役・本橋の後ろを二人は大広間にむかって並んで歩く。
今回の承認式で、みふゆは初めて京司朗の養父と顔を合わせる。式では言葉は交わせないだろうが、みふゆは不安と緊張が高まり手をぎゅっと握った。
京司朗がみふゆの手をそっと包んだ。
大きな手の温もりと力強さにみふゆの気持ちは落ち着いた。
以前にも同じ事があった。
松田家の茶会に招かれ、名品と呼ばれる振袖『まほろば藤』を着せてもらった時だ。
名品を着せられ、転ばぬようにと緊張していた。車から降りる時に京司朗が手を差し伸べてくれ、しっかりと手を握ってくれてみふゆは安心したのだ。
大広間に着くと、貴之は惣領家当主として、上座の中央に座っており、みふゆと京司朗は貴之の隣に座るように本橋から案内を受けた。
大広間には寺・神社の代表と、惣領家、本郷家(本郷二条総合病院設立家。二条家は本郷家に併合)、松田家、黒岩家、仙道家の当主達が揃っていた。
五家の承認式は各家の当主が異議がないことを口上し、賛同する書状に名を連ねる。
最後に京司朗とみふゆが御礼の言葉を述べて終わりとなる。
こうして京司朗とみふゆは結婚することを承認され、籍を入れるまでは婚約者同士となった。
他の親族・関係者への正式な発表は、貴之の誕生日の11月11日に催される、交流会を兼ねた誕生パーティーで行うことも決められた。
承認式が終わると、仕切りの襖が開けられた。そこには五家の当主の家族がならんで正座しており、筆頭である松田家女主人・松田胡蝶が『祝辞』を述べた。胡蝶の祝辞が終わるといっせいに「おめでとうございます」と、みふゆと京司朗に頭を下げ祝意を示した。
一通りの行程が済み、一同は庭に降りた。庭には五家の主だった忠臣・部下たちがずらりと並び、このめでたい日を祝福した。
たくさんの人に祝われ、大きな嬉しさを感じるはずだが、みふゆの心中は複雑だった。何せ結婚に至った経緯が経緯だ。
また、惣領家がいかに大きな一族であるかを思い知らされ心が揺らいだ。
でももう後戻りはできない。
自分に出来ることをしようと決めたのだ。
父となってくれた惣領貴之のために、
愛していると言ってくれた、仙道京司朗という男性のために、
胡蝶や楓、みふゆを思ってくれるたくさんの人達のために━━━━━━
「みふゆ、大丈夫か?」
貴之がみふゆを気遣った。
「疲れたなら車椅子を使ってもいいんだぞ」
みふゆの体調はまだまだ不安定だ。歩けるようになったものの、調子には波があり、体力も万全ではないため、場合によっては車椅子を使う生活が続いていた。
みふゆは「大丈夫です」と笑顔で答えたが、緊張と強張りが見て取れる。
これから京司朗の家族と初めて言葉を交わす。
結婚相手の両親にきちんと挨拶しなくてはいけないと、高いハードルを前にしている。
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