160 / 278
160. 短命の一族 (2) 降霊 ②
しおりを挟む
.
祭壇の揺らめく蝋燭の炎に礼夏が現れた。
「水無瀬の姫よ。久しいの」
惣領一心が礼夏に呼びかけた。
礼夏は視線を下げ黙礼した。
───住職、礼を言う。あなたが度々わたしを気遣い呼びかけてくれていたのは知っていた。応えられずに申し訳なかった。
「結界に閉じ込められていたなら仕方あるまい。貴之に話しがあるのだろう?」
───そうだ。娘の・・・、みふゆの足のことだ。
礼夏は貴之に視線を移した。
礼夏の瞳は、生きていたときの『邪眼』と呼ばれた強力な眼力はなく穏やかな瞳だ。
「治す方法があるのか・・?」
───みふゆに何があったのかを全てを話してあげてほしい。
「夢のことか」
───そうだ。夢を通じてあの男を助けたのだと。
「みふゆはそれのせいで高熱を出して歩けなくなったんだ。京司朗を助けられなかったと気に病んで・・・」
───何があったかを理解すれば、歩けるようになる。強い力を使えば肉体に負担がかかるのだ。
「熱を出して寝込むことがあると自分でも言っていた。・・、みふゆは俺や屋敷の連中の憑きものを落としてくれていた。憑きもの落としのせいで体に負担がかかったのか」
───憑きもの落としは惣領家の力だ。惣領家の力が体に負担をかけることはない。みふゆは大きな危険を避けたりするために、今はまだ水無瀬の力を使っている。水無瀬の力は体に負担がかかる。
「惣領と水無瀬を使い分けているのか」
───みふゆ自身は気づいていない。
「京司朗の怪我を教えても本当に大丈夫なのか」
───あの男が襲われる場面を思い出せば、恐怖を体験するが、みふゆは何が起きたかを自分で理解しなければいけない。
「俺はみふゆに辛い思いも恐い思いもさせたくねえ。方法が他にあるなら」
───他に方法は無い。・・・順が目覚める。戻らなくては・・
「風見は今どうしてるんだ」
───眠らせている。順は浄化のために大半は眠っている。貴之、どうか、順を許してやってほしい。順はあなたに嫉妬したのだ。
「あいつからお前を奪ったからか」
───そうではない。みふゆがあなたを『お父さん』と呼んだからだ。順はみふゆの記憶にはいないと・・・
「どういう意味だ?なぜ奴が?!」
礼夏の姿がゆらゆらとゆらぎ、炎に溶け出した。
───ああ、貴之、許して・・・。あなたにみふゆを早く返さなければならないとわかっていたのに・・・。
礼夏の瞳から涙が溢れ落ちる。
「礼夏・・・。違う、違うんだ!謝るのは俺のほうだ!俺が悪かったんだ!礼夏・・!諦めずにお前を探していれば・・・!すまなかった・・!礼夏!」
礼夏の唇が言葉を象ったが、声は貴之に届かず、炎に消えてしまった。
貴之の耳に聞こえたのは、住職の鳴らす鐘と、圭一・早紀子が鳴らす鈴の音だけだった。
寺の門前に停められた三台の黒い高級車。
貴之は真ん中のレクサスに乗った。
去っていく貴之を、兄・一心と姉・早紀子が見送っている。
貴之の車が完全に見えなくなり、一心が本堂に戻ろうと背を向けた。早紀子は貴之が去った方向をみつめたまま、
「礼夏はおかしな言い方をしませんでしたか?」
と、一心に話しかけた。
一心は足を止め、「ふむ」と振り向いた。
「貴之にみふゆを返さなければならないとわかっていたのにと、礼夏は言いました」
早紀子が一心の隣に並ぶと、一心は腕を組み、川原巧の話をした。
「松田の寺に巧に会いに行ったとき、巧はバラの選定に訪れていたみふゆという娘と偶然会ったと言った。弥生だと思ったそうだ。そして、弥生と同じ言葉で若頭から自分を庇ってくれたとな」
「・・・礼夏が自分の胎内に連れてきたのでしょうか」
「かもしれんな。貴之はどんな形でもいいから弥生を返してくれと願っていた。・・・まこと、生きていたときから人の輪から外れた女よ。人の力を超えたゆえに、人としての幸せは全うできなかった。哀れと言えば哀れであるが」
一心は小さくため息をつき、空を見あげた。
寺を後にし、病院へ向かう車中、貴之は礼夏の言った風見順の嫉妬の意味を考えていた。
───順はあなたに嫉妬したのだ。みふゆがあなたを『お父さん』と呼んだから───
━━━なぜ風見がみふゆのことで俺を嫉妬する?
祭壇の揺らめく蝋燭の炎に礼夏が現れた。
「水無瀬の姫よ。久しいの」
惣領一心が礼夏に呼びかけた。
礼夏は視線を下げ黙礼した。
───住職、礼を言う。あなたが度々わたしを気遣い呼びかけてくれていたのは知っていた。応えられずに申し訳なかった。
「結界に閉じ込められていたなら仕方あるまい。貴之に話しがあるのだろう?」
───そうだ。娘の・・・、みふゆの足のことだ。
礼夏は貴之に視線を移した。
礼夏の瞳は、生きていたときの『邪眼』と呼ばれた強力な眼力はなく穏やかな瞳だ。
「治す方法があるのか・・?」
───みふゆに何があったのかを全てを話してあげてほしい。
「夢のことか」
───そうだ。夢を通じてあの男を助けたのだと。
「みふゆはそれのせいで高熱を出して歩けなくなったんだ。京司朗を助けられなかったと気に病んで・・・」
───何があったかを理解すれば、歩けるようになる。強い力を使えば肉体に負担がかかるのだ。
「熱を出して寝込むことがあると自分でも言っていた。・・、みふゆは俺や屋敷の連中の憑きものを落としてくれていた。憑きもの落としのせいで体に負担がかかったのか」
───憑きもの落としは惣領家の力だ。惣領家の力が体に負担をかけることはない。みふゆは大きな危険を避けたりするために、今はまだ水無瀬の力を使っている。水無瀬の力は体に負担がかかる。
「惣領と水無瀬を使い分けているのか」
───みふゆ自身は気づいていない。
「京司朗の怪我を教えても本当に大丈夫なのか」
───あの男が襲われる場面を思い出せば、恐怖を体験するが、みふゆは何が起きたかを自分で理解しなければいけない。
「俺はみふゆに辛い思いも恐い思いもさせたくねえ。方法が他にあるなら」
───他に方法は無い。・・・順が目覚める。戻らなくては・・
「風見は今どうしてるんだ」
───眠らせている。順は浄化のために大半は眠っている。貴之、どうか、順を許してやってほしい。順はあなたに嫉妬したのだ。
「あいつからお前を奪ったからか」
───そうではない。みふゆがあなたを『お父さん』と呼んだからだ。順はみふゆの記憶にはいないと・・・
「どういう意味だ?なぜ奴が?!」
礼夏の姿がゆらゆらとゆらぎ、炎に溶け出した。
───ああ、貴之、許して・・・。あなたにみふゆを早く返さなければならないとわかっていたのに・・・。
礼夏の瞳から涙が溢れ落ちる。
「礼夏・・・。違う、違うんだ!謝るのは俺のほうだ!俺が悪かったんだ!礼夏・・!諦めずにお前を探していれば・・・!すまなかった・・!礼夏!」
礼夏の唇が言葉を象ったが、声は貴之に届かず、炎に消えてしまった。
貴之の耳に聞こえたのは、住職の鳴らす鐘と、圭一・早紀子が鳴らす鈴の音だけだった。
寺の門前に停められた三台の黒い高級車。
貴之は真ん中のレクサスに乗った。
去っていく貴之を、兄・一心と姉・早紀子が見送っている。
貴之の車が完全に見えなくなり、一心が本堂に戻ろうと背を向けた。早紀子は貴之が去った方向をみつめたまま、
「礼夏はおかしな言い方をしませんでしたか?」
と、一心に話しかけた。
一心は足を止め、「ふむ」と振り向いた。
「貴之にみふゆを返さなければならないとわかっていたのにと、礼夏は言いました」
早紀子が一心の隣に並ぶと、一心は腕を組み、川原巧の話をした。
「松田の寺に巧に会いに行ったとき、巧はバラの選定に訪れていたみふゆという娘と偶然会ったと言った。弥生だと思ったそうだ。そして、弥生と同じ言葉で若頭から自分を庇ってくれたとな」
「・・・礼夏が自分の胎内に連れてきたのでしょうか」
「かもしれんな。貴之はどんな形でもいいから弥生を返してくれと願っていた。・・・まこと、生きていたときから人の輪から外れた女よ。人の力を超えたゆえに、人としての幸せは全うできなかった。哀れと言えば哀れであるが」
一心は小さくため息をつき、空を見あげた。
寺を後にし、病院へ向かう車中、貴之は礼夏の言った風見順の嫉妬の意味を考えていた。
───順はあなたに嫉妬したのだ。みふゆがあなたを『お父さん』と呼んだから───
━━━なぜ風見がみふゆのことで俺を嫉妬する?
10
あなたにおすすめの小説
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ヤクザに医官はおりません
ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
彼は私の知らない組織の人間でした
会社の飲み会の隣の席のグループが怪しい。
シャバだの、残弾なしだの、会話が物騒すぎる。刈り上げ、角刈り、丸刈り、眉毛シャキーン。
無駄にムキムキした体に、堅い言葉遣い。
反社会組織の集まりか!
ヤ◯ザに見初められたら逃げられない?
勘違いから始まる異文化交流のお話です。
※もちろんフィクションです。
小説家になろう、カクヨムに投稿しています。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
さようなら、お別れしましょう
椿蛍
恋愛
「紹介しよう。新しい妻だ」――夫が『新しい妻』を連れてきた。
妻に新しいも古いもありますか?
愛人を通り越して、突然、夫が連れてきたのは『妻』!?
私に興味のない夫は、邪魔な私を遠ざけた。
――つまり、別居。
夫と父に命を握られた【契約】で縛られた政略結婚。
――あなたにお礼を言いますわ。
【契約】を無効にする方法を探し出し、夫と父から自由になってみせる!
※他サイトにも掲載しております。
※表紙はお借りしたものです。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
