71 / 278
71. 揺れ動く心
しおりを挟む
.
『もし破損箇所があるならすぐ修理をするように会長に言われましたので、調べさせてもらってもいいですか?』
どこまでも優しい組長先生。
黒岩さんが家のあちこちをみてくれて、破損箇所はないと言われてわたしは安心した。
窓はお母さんが随分頑丈に直したと言ってたけど、それでも心配になるくらい今回はひどい雨風だった。
帰って来た。自分の家に。
独りの家に。
ベッドに転がると、安心したような、寂しいような、おかしな気分だった。
ずっと、独りで生きていくんだと思っていたし、そうしようと考えていた。
組長先生の娘になるって・・・、
きっと甘やかされて甘やかされて、わたしはわがままな甘ったれた人間になるんじゃないかと怖い。
そして組長先生は後悔するかもしれない。
娘にするんじゃなかったって。
後悔されたらどうするんだろう?
縁組みの解消?
また独りになる?
放りだされて、また独りになって・・・、
また独りになるくらいなら、最初から一人のほうがいい。
どうしたら・・
気がついたら朝になっていた。
考えても整理がつかなくて、ごはんも食べずにそのまま寝てしまった。
お店は午後からだから、少しゆっくりしようかな。
うだうだゴロゴロしよう。
・・・・・、
今は考えるのはよそう。
昨日話をもらったばかりだし、
組長先生も今すぐの返事は望んじゃいない。
少し考えを切り離してみよう。
そうしたら冷静に物事を見れるようになる。
自分の人生だけじゃない。
組長先生の人生もかかってる。
組長先生の為にも、自分の為にも何が良いかを考えよう。
一時的な感情に振り回されるのではなくて。
そうだ。若頭から借りたハンカチ。
新しいのを買って返さないといけない。
お屋敷ですぐ洗ったけど、もう一度洗ってワイドハイターしてクリーニングに出してから新しいハンカチと一緒に返そう。
他人様のものを勝手に手元に置くのも処分するのもどうかと思うし、処分するなら本人に処分してもらおう。
たぶんブランドものだと思うけど、ブランド名がついていないからわからないな。
こういう時頼る人はひとり。
出勤前にちょっと寄って行こうかな。
いないかもしれないけど、いないときは店長さんに相談すればいい。
「あら、珍しい、どうしたの?とうとううちに勤める気になったのかしら?招き猫ちゃん」
居た。
午後の出勤前、わたしは『Fiore Fiore』という洋服のお店を訪ねた。花屋の良客の一人、パリコレ先生のお店。
「違います。パリコレ先生、教えてほしいことがあってきました」
「・・相変わらずはっきり言うわね。それとそろそろパリコレ先生って呼ぶの変えてほしいわ」
最近どこにでもいるオネエ系男子の不思議なデザイナー。
どこが不思議かと言うと、この人もわたしのことを猫だと思っている節がある。わたしのことを『招き猫ちゃん』と呼ぶ。
「洋平先生でいいですか?」
「そうね、いいわね。何?教えてほしいことって?」
「このハンカチ、どこのブランドかわかりますか?」
「男物のハンカチね・・誰の?」
「組長先生のとこの若頭です。汚してしまったので同じものを買って返そうと思って」
「・・ブランド名がついてないけど、仙道君ならオーダースーツのお店の物かもね」
「オーダースーツ?」
「彼も惣領会長も、スーツはオーダーで作ってるから。ネクタイもハンカチも小物類はその時に全て揃えてもらってるはずよ」
「どこのお店ですか?」
「このビルの三階よ。『オーダースーツ 町田』っていうお店」
パリコレ先生・・洋平先生が人差し指で天井を差す。わたしも釣られて天井をじっと見た。
「・・・ここから三階は見えないわよ」
「わかってます。つられただけです」
「ほんと、相変わらずね・・。そうだわ、来週バラを50本ほどお願い。色は真紅か・・濃いピンクでもいいわ。社長に言っておいてくれる?」
「わかりました。いつもご利用ありがとうございます。ハンカチ情報もありがとうございました」
わたしは出勤時刻が迫っていたため、洋平先生のお店をあとにした。
わたしが花屋に就職する前に、バイトしていたのがこのショップだった。
オープニングスタッフのバイトだった。
主に雑用、裏方のはずが店頭に立つことになってしまったのだ。
大人って嘘つきって思った。
『もし破損箇所があるならすぐ修理をするように会長に言われましたので、調べさせてもらってもいいですか?』
どこまでも優しい組長先生。
黒岩さんが家のあちこちをみてくれて、破損箇所はないと言われてわたしは安心した。
窓はお母さんが随分頑丈に直したと言ってたけど、それでも心配になるくらい今回はひどい雨風だった。
帰って来た。自分の家に。
独りの家に。
ベッドに転がると、安心したような、寂しいような、おかしな気分だった。
ずっと、独りで生きていくんだと思っていたし、そうしようと考えていた。
組長先生の娘になるって・・・、
きっと甘やかされて甘やかされて、わたしはわがままな甘ったれた人間になるんじゃないかと怖い。
そして組長先生は後悔するかもしれない。
娘にするんじゃなかったって。
後悔されたらどうするんだろう?
縁組みの解消?
また独りになる?
放りだされて、また独りになって・・・、
また独りになるくらいなら、最初から一人のほうがいい。
どうしたら・・
気がついたら朝になっていた。
考えても整理がつかなくて、ごはんも食べずにそのまま寝てしまった。
お店は午後からだから、少しゆっくりしようかな。
うだうだゴロゴロしよう。
・・・・・、
今は考えるのはよそう。
昨日話をもらったばかりだし、
組長先生も今すぐの返事は望んじゃいない。
少し考えを切り離してみよう。
そうしたら冷静に物事を見れるようになる。
自分の人生だけじゃない。
組長先生の人生もかかってる。
組長先生の為にも、自分の為にも何が良いかを考えよう。
一時的な感情に振り回されるのではなくて。
そうだ。若頭から借りたハンカチ。
新しいのを買って返さないといけない。
お屋敷ですぐ洗ったけど、もう一度洗ってワイドハイターしてクリーニングに出してから新しいハンカチと一緒に返そう。
他人様のものを勝手に手元に置くのも処分するのもどうかと思うし、処分するなら本人に処分してもらおう。
たぶんブランドものだと思うけど、ブランド名がついていないからわからないな。
こういう時頼る人はひとり。
出勤前にちょっと寄って行こうかな。
いないかもしれないけど、いないときは店長さんに相談すればいい。
「あら、珍しい、どうしたの?とうとううちに勤める気になったのかしら?招き猫ちゃん」
居た。
午後の出勤前、わたしは『Fiore Fiore』という洋服のお店を訪ねた。花屋の良客の一人、パリコレ先生のお店。
「違います。パリコレ先生、教えてほしいことがあってきました」
「・・相変わらずはっきり言うわね。それとそろそろパリコレ先生って呼ぶの変えてほしいわ」
最近どこにでもいるオネエ系男子の不思議なデザイナー。
どこが不思議かと言うと、この人もわたしのことを猫だと思っている節がある。わたしのことを『招き猫ちゃん』と呼ぶ。
「洋平先生でいいですか?」
「そうね、いいわね。何?教えてほしいことって?」
「このハンカチ、どこのブランドかわかりますか?」
「男物のハンカチね・・誰の?」
「組長先生のとこの若頭です。汚してしまったので同じものを買って返そうと思って」
「・・ブランド名がついてないけど、仙道君ならオーダースーツのお店の物かもね」
「オーダースーツ?」
「彼も惣領会長も、スーツはオーダーで作ってるから。ネクタイもハンカチも小物類はその時に全て揃えてもらってるはずよ」
「どこのお店ですか?」
「このビルの三階よ。『オーダースーツ 町田』っていうお店」
パリコレ先生・・洋平先生が人差し指で天井を差す。わたしも釣られて天井をじっと見た。
「・・・ここから三階は見えないわよ」
「わかってます。つられただけです」
「ほんと、相変わらずね・・。そうだわ、来週バラを50本ほどお願い。色は真紅か・・濃いピンクでもいいわ。社長に言っておいてくれる?」
「わかりました。いつもご利用ありがとうございます。ハンカチ情報もありがとうございました」
わたしは出勤時刻が迫っていたため、洋平先生のお店をあとにした。
わたしが花屋に就職する前に、バイトしていたのがこのショップだった。
オープニングスタッフのバイトだった。
主に雑用、裏方のはずが店頭に立つことになってしまったのだ。
大人って嘘つきって思った。
10
あなたにおすすめの小説
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
『外見しか見なかったあなたへ。私はもう、選ぶ側です』
鷹 綾
恋愛
「お前のようなガキは嫌いだ」
幼く見える容姿を理由に、婚約者ライオネルから一方的に婚約を破棄された
公爵令嬢シルフィーネ・エルフィンベルク。
その夜、嫉妬に狂った伯爵令嬢に突き落とされ、
彼女は一年もの間、意識不明の重体に陥る――。
目を覚ました彼女は、大人びた美貌を手に入れていた。
だが、中身は何ひとつ変わっていない。
にもかかわらず、
かつて彼女を「幼すぎる」と切り捨てた元婚約者は態度を一変させ、
「やり直したい」とすり寄ってくる。
「見かけが変わっても、中身は同じです。
それでもあなたは、私の外見しか見ていなかったのですね?」
静かにそう告げ、シルフィーネは過去を見限る。
やがて彼女に興味を示したのは、
隣国ノルディアの王太子エドワルド。
彼が見ていたのは、美貌ではなく――
対話し、考え、異論を述べる彼女の“在り方”だった。
これは、
外見で価値を決められた令嬢が、
「選ばれる人生」をやめ、
自分の意思で未来を選び直す物語。
静かなざまぁと、
対等な関係から始まる大人の恋。
そして――
自分の人生を、自分の言葉で生きるための物語。
---
ヤクザに医官はおりません
ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
彼は私の知らない組織の人間でした
会社の飲み会の隣の席のグループが怪しい。
シャバだの、残弾なしだの、会話が物騒すぎる。刈り上げ、角刈り、丸刈り、眉毛シャキーン。
無駄にムキムキした体に、堅い言葉遣い。
反社会組織の集まりか!
ヤ◯ザに見初められたら逃げられない?
勘違いから始まる異文化交流のお話です。
※もちろんフィクションです。
小説家になろう、カクヨムに投稿しています。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
王命って何ですか? 虐げられ才女は理不尽な我慢をやめることにした
まるまる⭐️
恋愛
【第18回恋愛小説大賞において優秀賞を頂戴致しました。応援頂いた読者の皆様に心よりの感謝を申し上げます。本当にありがとうございました】
その日、貴族裁判所前には多くの貴族達が傍聴券を求め、所狭しと行列を作っていた。
貴族達にとって注目すべき裁判が開かれるからだ。
現国王の妹王女の嫁ぎ先である建国以来の名門侯爵家が、新興貴族である伯爵家から訴えを起こされたこの裁判。
人々の関心を集めないはずがない。
裁判の冒頭、証言台に立った伯爵家長女は涙ながらに訴えた。
「私には婚約者がいました…。
彼を愛していました。でも、私とその方の婚約は破棄され、私は意に沿わぬ男性の元へと嫁ぎ、侯爵夫人となったのです。
そう…。誰も覆す事の出来ない王命と言う理不尽な制度によって…。
ですが、理不尽な制度には理不尽な扱いが待っていました…」
裁判開始早々、王命を理不尽だと公衆の面前で公言した彼女。裁判での証言でなければ不敬罪に問われても可笑しくはない発言だ。
だが、彼女はそんな事は全て承知の上であえてこの言葉を発した。
彼女はこれより少し前、嫁ぎ先の侯爵家から彼女の有責で離縁されている。原因は彼女の不貞行為だ。彼女はそれを否定し、この裁判に於いて自身の無実を証明しようとしているのだ。
次々に積み重ねられていく証言に次第に追い込まれていく侯爵家。明らかになっていく真実を傍聴席の貴族達は息を飲んで見守る。
裁判の最後、彼女は傍聴席に向かって訴えかけた。
「王命って何ですか?」と。
✳︎不定期更新、設定ゆるゆるです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
